15
翌日、家の留守を任されたユキは小人達を見送ってから家事を始めた。元気になってから身体を動かさないと気が済まないユキのために、彼らが提案したのは家事手伝いだった。
彼らは働き者でも家事は苦手なのか、家の中がしっちゃかめっちゃかになっていたのだ。
それを少しずつ片付けて夕方になる頃には綺麗になり、ユキは達成感で満足する。
すると、家のドアをノックする音が聞こえ、不審に思ったユキはフライパンを構えて窓からそっと覗き見る。
驚いたことに、そこにいたのはユキがずっと会いたかったアリスだったのだ。
ユキはフライパンを元の位置に戻し、玄関のドアを開けた。
「アリス! 会えてすごく嬉しい……! でも、領地に帰ったんじゃなかったの?」
アリスは申し訳なさそうな顔をして、ぺこりと頭を下げた。
「姫様、申し訳ありません。流行り病に効く薬草をずっと探しており、お渡ししたく馳せ参じました」
あの手紙はやはり手違いか何かだったのだ。アリスはユキのために尽くしてくれるし、何より共闘の仲間としてお互い信頼を置いている存在で、近頃ずっとそばにいる二人を仲違いさせようとした王妃による策略だったのだと今になって気づいた。
「ありがとう、でも私はすっかり元気になったよ」
「……そうですか、それならよかったです」
「私のこと、まだ心配してくれたんだ……。私、アリスに見限られたかと思って悲しかったんだよ? でも、それも私のせいだよね、あの時はひどいことを言ってごめんなさい」
本音を言うと、アリスは複雑そうな顔をして小さく謝罪の言葉を述べた。なんだかいつもと様子が違うように見えるが、ユキと拗れそうになったことを気にしているのだろうと、それ以上考えるのはやめた。
「申し訳ありません、姫様。そうでもしないと薬草採りの許可をもらえないと思ったので……。そうだ、栄養のあるりんごを持ってきたのです。どうぞこちらを食べて栄養をつけてください」
やはりアリスは優しかった。お互い傷つき離れていても、バディを組んだ相手のことを思いやる優しさを持ち合わせている彼のことがより好きになってしまった。
「わざわざ私のために……? アリスは本当に優しいね、ありがとう。留守を任されているけど、アリスなら入れても怒らないと思うの。さあ、家に入って」
「ありがとうございます」
キッチンへと通すと、アリスにしては指の動きが悪くもたついていたのが不思議だった。久しぶりの再会に緊張しているのかもしれない。
少し歪な形になったりんごをアリスは皿に盛り付けてユキへと差し出した。
「いただきます」
しゃくりとした食感のりんごは甘酸っぱくて美味しかった。もう一つ、と手を差し伸べたところで急に気持ち悪くなり、頭がくらくらしてきた。まだ本調子じゃなかったのかもしれないと思ったが、ついには咳まで出てきた。何かが口から出たような気がして、手を見れば血がべっとりと付着していた。吐血したユキは、助けを求めてアリスを見るが、彼女は美しい笑みを浮かべて喜んでいる様子だった。
「ど、うして、アリス……」
アリスは哀れそうな顔をして、口を開いた。
「冥土の土産に教えてやろう。わたくしはアリスではない、おまえの母だ」
「お母様……!?」
アリスの姿形をしていた人は、アリスではなく王妃本人であった。
「アリスはお前を唆した罪として幽閉されているの。おまえを探したがっていたけれど、全ては言うことを聞かないおまえが悪いのよ。ここは結界が張られ、本来ならば人間が来られない場所だ。なぜおまえがここに来ることができたのか不思議でならないが、まあよい。さあ、シラユキよ、毒で苦しんで死ぬがよい!」
高らかに笑う王妃の姿を見て、ユキは抗いながらも目を閉じた。
ユキの脈が完全に途絶えたことを確認した王妃は、再び高らかに笑い、その様は魔女そのものだった。
***
時は数日前に戻る。
フレッドを見つけられなかった王妃は、禁忌を犯すことにした。
それは、妖精を捕まえて使役するという、かつての人間が犯した罪を再びくり返そうとしているのだ。
そして、王妃は命を削らなければ作れない毒の魔法を使い、呪いのりんごを二つ作った。一つはシラユキに盛るため、もう一つは妖精を脅すために作られた毒りんごで、殺されたくなければユキの居場所を教えろと言い、妖精は王妃に言われるがまま小人の家に向かった。警戒されないようアリスの姿を妖精の魔法で装って小人の家に向かい、結界も妖精の力で突破して小人の家まで辿り着いたのだ。




