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今日も今日とて青系のドレスを身に纏うユキは、耳飾りまでもが青になったので嫌でも意識してしまう。気にしすぎ、気にしない、期待しない。
ユキがこの世界に来てから三ヶ月以上経ち、夏だった季節も秋めいて肌寒くなってきた。朝晩は冷え込むのでショールを羽織ったりケープを着けたりと以前よりオシャレを楽しむことができるので、ある意味ではプリンセスライフを満喫していた。
家庭教師とアリスのおかげでユキにはなかった王族としての心構えも少しずつ芽生えてきた頃、冷えと疲労のせいか風邪を引いてしまった。
最初は咳が出るだけだったのだが、熱も出て医者に診てもらうとどうやら免疫が落ちたことで流行り病に感染してしまい、普通の薬では治らないそうだ。
願いが叶う魔法を使えるユキは、一応自分の身体のために魔法を使ってみたが、自分のためとなるとうまく発動しないらしい。
流行り病に効く薬草はシュタイン城の裏にある森に生息しており、緑色の花を咲かす薬草らしい。
この流行り病は人に感染するため、ユキは隔離されてしまい、侍女のアリスだけが付きっきりでお世話をすることになった。
病に伏した母の看病をしていたからか、病人の扱いに慣れているアリスは布製のマスクをして甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたのだ。
「ここのところ急に冷えてきましたからね、それが影響しているのでしょう。姫様は風邪を治すことだけを考えてくださいね」
マスクをしていても穏やかな微笑みをしていることが分かるユキは、小さな声で「ありがとう、アリス」と返した。
「いいえ、お気になさないでください。これも私の仕事ですから」
仕事。確かにアリスは表向きはシラユキ付きの侍女だ。友達だと思っていても、主従関係は変わらない。ユキが気に病まないようそう答えただけなのだろうが、アリスの口から事実を聞かされてショックを受けてしまった。
熱で朦朧とする意識のせいで、ユキは余計なことを考えてしまう。だめだと分かっているのに口が勝手に開く。
「そうだよね、仕事だから優しくしてくれるんだよね。『夢』のために頑張ってる仲間が倒れたら、使いものにならないようケアするのも仕事のうちの一つだよね」
ものすごく嫌なことを言っている自覚はある。でも、口は止まらなかった。ユキは泣きながら本音がぽろりと零れ落ちていく。
「私だけが親しく思ってたようでばかみたい。……今は、一人にして」
このままでは嫌なことしか言わないだろうし、アリスを傷つけたくないユキは彼女を下がらせた。
顔を見たくなくて背けてしまったが、「……承知しました」という声から傷つけてしまったのだと自己嫌悪に陥る。
完全に一人きりになったユキは、アリスのことしか考えられなかった。もうだめだ。ユキは、アリス──エリスのことが好きだ。
だから、仕事だと言ってほしくなかったし、その延長でお世話されているのだと思うと苦しくて嫌なことを言ってしまった。
アリスの事情を知っているくせに、それを利用しているような気もして全てが嫌になってくる。
ユキは布団を頭から被り、これ以上考えなくて済むよう目を閉じて眠ることにした。眠っていたら、幸せな夢だけを見ることができるから。
***
アリスの何気ない一言がユキを傷つけてしまったようで、罪悪感に囚われるアリスは侍女の仕事をしながらユキのことしか考えられなかった。
何がユキの逆鱗に触れたのか自覚はある。けれど、それは絶対にあってはならないことなのだ。
隔離された離宮に訪問者が尋ねてきた。それは、王妃付きの侍女だった。彼女は先触れを寄越し、この離宮までやってくるという。だから準備をしておくようにとのことだった。
「姫様は流行り病に感染されているのに、王妃は何をしに来るんだ……?」
アリスのひとりごとは空に消えていく。答えるものは誰もいない。ここは完全に隔離された離宮なのだから。
それから三十分ほどしてマスクをした王妃が現れた。もてなしをするアリスに王妃は「よい、おまえは話だけを聞きなさい」と言った。
「シラユキの薬草探しだけれど、なかなか見つからなくて難航しているらしいわ。このままだとあの子の命が危ないの。アリス、おまえは確か薬草に詳しかっただろう? だから、おまえが直々に探しにお行き」
これは、王妃の罠かもしれない。だが、勅令で薬草探しが行われている今、この離宮に薬草が届けられないのは本当に薬草が見つからなくて、届けることができないからなのだろう。薬草に詳しいアリスが行けば、もしかしたら見つかるかもしれない。
しかし、アリスが行くとなれば、ユキは一人きりになる。アリスの代わりにお世話係の侍女を付けられるだろうが、その者が王妃の息がかかった者だとユキの命にかかわる。
どうしたものかと必死に考えて何が最善なのか頭をフル回転させても、ユキのことが気がかりで頭が回らない。
何も答えないアリスに痺れを切らした王妃から「おまえは勅令を無視するのか?」と問われたら、アリスの出す答えは一択のみだ。
「薬草探しに参ります」
アリスの答えに納得した王妃は頷き、「着替えて森へ行きなさい。シラユキには別の侍女を付けるから、早く支度をおし」と言って、そのまま王宮へと戻っていった。
ユキには一人にしてくれと言われたし、主人の命令には背けないアリスは一人悩んでいた。
王妃が寄越す侍女は絶対に信用してはならない。今のユキなら命を落としてもおかしくないし、それを利用して何かしら仕掛けられても流行り病のせいにされるだろう。
しかし、ユキには願えば叶う魔法がある。彼女が強く願えばきっとシラユキ姫様が力となってくれるだろう。
一縷の希望に縋り、アリスは着替えて森へと向かった。
領地からアリス宛てに手紙が届き、検閲をクリアしアリスの元に来るはずだった手紙は一足遅く、アリスの手元には届かなかった。
そして、その手紙にはこう記されていた。
──アリスが大切にしていた薔薇園が枯れてしまった。残念だが、おまえの大切なものだから手紙を届けたのだ──
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