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復讐ノダンピヰル  作者: H2O
第一幕
7/25

7 注文の多い料理店 下

挿絵(By みてみん)


おれと修二、そして飛来刑事は料理店のさらに奥へと進む。


廊下を通り過ぎ、扉を開ける。

次の部屋には、赤い瓶詰めが戸棚にずらりと並んでいた。


「なんだこれ。

ひとつひとつ値札が付いてる。」


修二は瓶を覗き込むと、確信した声で「まさしく血だろうな。少し薄まってるようだが。」と告げた。



「集めた血を売ってたらしいな。

これは吸血鬼むけの店だったというわけか。」



「風呂場の仕掛けをみるに、好意で寄付された血ってわけじゃなさそうだな。」


飛来刑事が舌打ちと共に吐き捨てた。

人喰い料理店の正体は、迷い込んだ人間の血を奪い、吸血鬼へと売り渡す店だったのだ。





「待て。」


修二がおれの腕をつかむ。


「むこうから物音がした。

あちらに誰かいるぞ。」


修二が指差すのはさらに奥へと続く扉だ。

飛来刑事は慎重にその扉をあけた。



小太りの男がこちらに背を向けて調理台の前に立っていた。

調理台には何か赤いものがある。

いや、血濡れた誰かが横たわっているのだ。

先の部屋の仕掛けで大怪我を負って血濡れになった人間が、ここへ運ばれたのだろうか。

男の手にあるのは斧だ。

止めるまもなく、その斧が振り翳された。




修二は男に向かって飛び蹴りを放つ。

地面に倒れ込む男に修二が馬乗りになり、心臓のあたりに杭をかざす。


「やめてくれ!死にたくない!」


男は情けない声で叫んだのを聞いて修二はニタリとする。


「やはりな。

お前、生きているな。」


「そうだよ、おいらは生きた人間だよ。

吸血鬼に脅されてただけなんだよ。」


泣き声をあげる男を「訳のわからねぇこと抜かしてんじゃねえ。」と飛来刑事が叱咤する。


「その手に持ってる斧はなんだよ。

殺したのは手前だろうが。

殺人の現行犯で逮捕してやらぁ。」


男はそれを聞くやいなや修二を突き飛ばし走り出した。


「待てこの野郎!」


すかさず飛来刑事が追いかけていく。

けれども修二は動かない。


「修二、追わなくていいのか?

それともどっかぶつけたのか?」


修二は「問題ない。」と差し出したおれの手を取って立ち上がる。


「殺人犯ならばすべきなのは退治でなく裁きだ。

刑事に任せるのが筋だろう。」


修二は最奥の部屋、支配人の部屋を指す。


「あの男は吸血鬼に雇われたと言った。

我々が倒さねばならぬ者はこの扉の向こうだろう。」





「新規のお客様かい。」


扉を開けると、モノクルをつけた老紳士が微笑んだ。

彼は赤い液体の入ったグラスを片手に、「よくきてくださった。私はこの店の支配人だよ。」と挨拶した。

男が飲むその液体は、血で間違いないだろう。


「さっきの小男を雇った吸血鬼があんたか。」


「おや、うちの従業員が何かご無礼を働いたかな。」



「いますぐこんな店やめろっていってんだよ。」


おれが怒鳴りつけると、支配人は目を丸くした。


「なぜやめねばならんのだね?

うちの商品を必要とする顧客はたくさんいるのだよ。

吸血鬼とて、理性はあるのだよ。

人を襲いたくない者が大半だ。

だから私は汚れ役を買って出て集めた血を販売しているのだ。

量を確保するために質はおちるがね。

吸血鬼にはみな、生きててほしいとねがってくれた者がいる。

私の仕事はそうした者たちを救っているのだ。

私の商品は、吸血鬼とそれを思う者の共存を可能にするのだ。

それでも辞めなければならないと思うかね?」



「やめねばならぬ。」


「何故だね?」


「吸血鬼はもう死んでいるからだ。

何人たりとも、訪れた死から逃れようとしてはならんのだ。」


「では君たちにはお引き取り願おう。」


支配人は杖で修二に殴りかかってくる。

がらあきになった脇腹におれは飛びついた。


「はなしたまえ。」


ガンガンと頭を殴られるが構わずしがみつく。

修二はその隙を逃さなかった。

一寸の狂いもなく、心臓目掛けて杭を打ち込んだ。

支配人の目がカッと開き、恐ろしい形相を浮かべ動かなくなった。


修二は深く息をついた。

おれを助け起こすと修二は「これで分かったろう、凛太郎。」と言う。


「吸血鬼は人間にとって捕食者だ。

此奴の言った共存は、人間を家畜としているにすぎない。

吸血鬼はいてはならぬのだ。」


少しだけ寂しそうにみえた。

いや、寂しかったのはおれだ。

修二のいう吸血鬼には、修二自身も含まれているのだ。

それがおれには寂しかった。



修二はオーナーのむくろを跨いで部屋の中央へと進み、机の引き出しを開ける。

革張りの手帳が入っていた。

中を開けば顧客の名前と住所がならんでいる。

血液の購入を予約した者の記録だろう。

今日の日付を開くと、名前がひとつ。

その名におれは驚愕した。


「修二、これをみてくれ。」


「だからいっただろう。

奴は信用するなと。」


そこには飛来刑事の名が記されていた。

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