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復讐ノダンピヰル  作者: H2O
第一幕
5/25

5 注文の多い料理店 上

挿絵(By みてみん)


あれから一週間後、エツ子は再び事務所を訪ねてきた。


「タッちゃんはどうしてる?」


エツ子はおれがいれた茶を冷ましながら、「元気にしてるよ。だいぶ顔色もよくなったんだ。」と答えた。


あの後エツ子はタッちゃんを家に連れ帰った。

エツ子の両親はタッちゃんの母親が亡くなったと知ると、タッちゃんを快く家に置くことにしたそうだ。


「エツ子のご両親はご立派な方だな。

子ども一人増えるのは楽じゃないだろうに。」


「そうだろう、立派だろう。

だからあたしも新聞配りで小銭を集めることにしたんだ。」


ふふんと胸をはるエツ子は誇らしげだ。


「それより、あんたたちどうせひましてるんだろう。

これからはあたしが吸血鬼の噂をあつめてきてあげるよ。」


エツ子がぴっと人差し指を立てて生意気を言うから、おれは「余計なお世話だ。」と言い返す。


「だいたい、お前は依頼料払う金なんかないだろ。」


前回の依頼はエツ子が町内を代表してお金を預かってきたはずだ。

稼ぎを目的にしていないから修二が設定した依頼料は安いが、それでも子どもには高いだろう。

しかしエツ子は「あたしが払うんじゃないよ。」と首を振る。



「あたしは情報をあんたたちに渡すだけ。

吸血鬼を退治しにいって、助けてやった人からお金をもらえばいいさ。」



「それじゃ押し売りじゃあないか。」


修二は「それで構わぬ。噂があればすぐ知らせてくれ。」と言う。

エツ子が「なら決まりだね。」と嬉しそうに笑った。

  

「じゃあまず、人喰い料理店の噂を教えてあげるよ。」


「なんだそれ。」


「町はずれに山があるだろう。

その山の奥に料亭があるらしいんだよ。

親切な店主がいて、山道で迷った人に料理を出してくれるんだ。

だけどタダより高いもんはないだろ。

お客はお代として血を抜かれるんだ。

一度入ったら出てこられないって噂だよ。」


せっかちな修二は「凛太郎、支度しろ。」と一言言うと、またおれを引っ張って出かけた。






「修二、ほんとに料亭なんかあるのか。」


おれは息を切らしながら修二に話しかける。

修二は山道をずんずんと進んでゆく。


「なぁって。」


修二はようやく振り返ると「凛太郎、声が大きいぞ。」と言う。


「罠を作るときは、見つかるのは易く逃げるのは辛いのがよい。

件の料亭は見つかりやすいはずである。」


修二が木の向こうを指を刺す。

霧ががった山の中、噂の料理店は獲物が来るのを待ち構えていた。



「凛太郎、裏へまわるぞ。」


修二はそういうと足早に門をくぐり、料亭の裏庭へと進む。


「なんで裏からなんだ?」


「こちらから血の匂いがしたでな。」


裏庭には何かが埋められたような小さな土の山がいくつもあった。

修二は靴の先を使って遠慮なく土を掘り返す。

庭の芝が剥がれようが、マントに土がはねようがお構いなしだ。

木の葉で隠された土は柔らかく、少し掘り返すとすぐにそれがでてきた。


「凛太郎、人喰い料理店の噂は本物だぞ。」



叫び声をあげそうになったおれの口を修二が塞いだ。

埋められていたのは、人の手だ。


「血を抜かれた人間をここに埋めてたのか。 

 しかも殺されたのは一人じゃねぇ。」


裏庭一面にある幾つもの小さな土の山。

この全てに死体が埋められているのではないか。


「しかし、吸血鬼が一度に吸う血の量はそれほど多くない。」


土のなかから覗く死体が吸血鬼の仕業というのなら。


「ここに潜む吸血鬼は1匹ではないのかもしれぬぞ。」



そのとき、後ろで足音がした。

まさか、見つかったのか。


「貴様ら何をしている!」


男の怒声におれはからだをこわばらせた。


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