6 斜陽 結び
「二十二年前、修作は一度死に死亡届けが出された。
その後、修作は吸血鬼となって屋敷へ戻ってきた。
そして何事もなかったように村で暮らしていた。
多江が使用人や小作人から血を集めていたのは、吸血鬼となった修作に与えるためだった。」
「なら椿と修二は。」
「吸血鬼の修作と人間の多江の間にできた子だ。
二十二年修作は人の生き血を啜って生きながらえた。椿と修二も、多江が集めた血を与えられて成長した。
彼らは人間として暮らしていたんだ。
椿と修二は自分たちが他の人間とは違うことに気づいていなかったかもしれない。」
「吸血鬼なら、血を飲まなきゃ生きられないんでしょう。
それなのに手前が人間でないことに気づかないでいられますか。」
「生まれた時から毎日血を与えられ、それを当たり前だと教えられていたのなら疑問に思うこともないかもしれない。
けれどもずっと気づかないでいることはできないんだろう。
椿と修二は、何かのきっかけで己が人ならざるものだと気づいた。
それが一週間前だった。
自分たちが人の生き血を啜る化け物だということを受け入れられなかった椿と修二は、吸血鬼である父親を殺害し自分たちも死ぬことを望んだ。
こうして一度目の一家惨殺が起こった。」
「じゃあ、椿が言っていた『父の首を絞めた』てのは錯乱してたが故の妄想でなくて事実だったのか。」
「そうだろうね。
しかし、既に死んでいる存在である吸血鬼は死ぬことができなかった。
事態を知った多江が三人に血を飲ませたのかもしれない。
三人は再び目を覚ました。
二度目は修二が父親を殺し、椿と修二は後を追った。
その現場をツネが目撃した。
二度目の事件に使われた果物包丁が庭で発見されたものだろう。
ツネが逃げ出した間に、再び多江は血を与えて三人を復活させた。」
「それで、三度目が昨日だったと。」
「西洋の小説では、吸血鬼を退治するために心臓に杭を突き刺すという話がある。
修二はそれをまねたのかもしれない。
三度目の父親殺害を果たした修二は椿と共に屋敷を逃げ出した川へと飛び込んだ。
こうして彼らは吸血鬼を抹消させた。
これが私の考える事件の真相だ。」
話終えると、カツさんは煙草に火をつけた。
燻る煙を見ながら、俺は考えをまとめようとした。
「それじゃあ、死んだ人間を生まれていないはずの人間が殺したってことになるのか。
でも、本当にそんなことがあり得るんでしょうか。」
カツさんは煙を吐く。
「わからないよ。
それに吸血鬼の存在を証明する証拠があるわけでもない。
私の話したことは想像にすぎないし、信じるものもいないだろう。」
「信じますよ。」
驚いた顔でこちらをみたその目を、俺は真っ直ぐに見やる。
「俺はあんたの話を信じます、カツさん。」
カツさんはただ、「そうかい。」とだけいってまた煙を吐いた。
結局、上からの手を引けという命令に俺たちは逆らえなかった。
けれどもそれで引き下がるカツさんではなかった。
ツネや小作人に常習的に血液を抜くという虐待を行っていたとして、傷害罪で多江を起訴したのだ。
多江は虐待の事実を認めた。
しかし精神的な病を疑われ病院で治療を受けることになったと聞く。
こうしてあの夏の事件は、曖昧に幕を閉じた。
吸血鬼が本当に存在すること、そしてあの姉弟の運命を俺が知ることになるのはその数年後のことだ。




