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復讐ノダンピヰル  作者: H2O
第二幕
23/25

4 斜陽 其ノ肆

広い縁側から美しい庭を臨む大広間。

その壁側にカツさんは立ち、畳のすみを指差す。


「ほら、ここ。

少し薄いが茶色くシミになっているだろう。

他にも土壁や襖に血が飛び散った跡が残っている。

乾いた血は落としにくいから、掃除しても残ってしまったんだろう。」


掃除の行き届いた屋敷には似合わない血飛沫の跡が、いたるところにあった。

ちらと見ただけでは分からない程度に薄くなっているのは、血の汚れを落とそうとしたのがうかがえる。


「これだけ血飛沫が飛ぶとは、いったいここで何があったのでしょう。」


「掃除した本人に聞くのがいいんじゃないかな。」


カツさんはそういうと、奥の廊下へ向かって「ね、ツネさん。」と笑いかけた。


呼ばれたツネはきまり悪そうな表情を浮かべてこちらへきた。


「ツネさん、なにがあったか教えてくれますか。」


微笑みかけるカツさんに、ツネは青い顔で「なりません。」と首を振る。


「奥様に血を抜かれてしまいます。」


「血を抜かれるだと。

どういうことだ。」


俺が聞くと、ツネはか細い声で答える。


「この屋敷ではそういうきまりなのです。

奥様の機嫌を損ねたものは罰として血を抜かれるのです。」


「ツネさん、あんたも血を抜かれたことがあるのか。」


ツネは着物の袖をするりとまくった。


「つい先日も、奥様の気に入りだった皿を割ってしまって罰を受けたのです。」



着物に隠されていたツネの腕には、注射器で刺されて残ってしまった青いあざがいくつもあった。


「私だけではございません。

旦那さまは地主ですから、決められた量の稲を納められない小作人たちも血を抜かれるのです。」


ぶるぶると震えるツネをカツさんが穏やかな声で宥める。


「ツネさん、大丈夫ですよ。

私たちはあなたから話を聞いたことを絶対に多江さんに知らせません。」



ツネはようやく重い口を開いた。


「一度目は一週間前でした。

買い出しから戻ってくると、奥様にこの大広間を掃除するよう言い付けられました。

そのとき大広間は血の海になっていました。

恐ろしくなって、必死で掃除しました。

けれどもそのときの私は、また誰かが血を抜かれたのだろう、それも大量に抜かれたのだろうと思っていたのです。


けれども二度目の時、私は見てしまったのです。

悲鳴が聞こえましたので駆けつけたところ、旦那さまとお嬢様、坊ちゃんが倒れているのが見えたのです。

私はもう恐ろしくって、屋敷から逃げ出してしまったのです。

息が切れるほど走って、少し落ち着きを取り戻した私は誰か助けを呼ぼうと思いました。

しかし、あの場に奥様がいなかったことに気づいたのです。

だから誰にも言えなかった。

奥様に私があれを見たことが知られてはならないと思いました。

慌てて屋敷へ戻ったら、旦那様もお嬢様も坊ちゃんも生きていらっしゃる。

私はきっと幻覚でも見たのですわ。

だけども、部屋中に広がった血は残っておりました。

それでまた掃除をさせられたのです。」


カツさんはツネに、「話してくれてありがとう。顔色が悪いよ。水を飲んで休んでくるといい。」とねぎらった。

ツネが立ち去ると、俺に「飛来、お前はどう思う。」と囁いた。


「ツネさんの話を信じるなら、多江が家族に暴力を振るい出血させたのでしょう。

椿と修二の2人が『自分が父親を殺した。』と言っていたのは、強いショックを受けたことにより錯乱していたと考えられます。

しかし、大量に出血したと思われるのに目立った外傷がないことが気になります。」


「なるほどね。」


低くそう呟くと、カツさんは腕を組んで考え込んだ。


そのとき、屋敷の奥から断末魔が聞こえた。


「飛来、いくよ!」


「はい!」


俺はカツさんの後を追って走った。

断末魔が聞こえた屋敷の最奥の居間まで駆け込み、その戸を開け放った。

俺は思わず息を呑んだ。



男が心臓を杭で打ちつけられて絶命していた。


「旦那さま!」


あとからきたツネが居間を覗いて叫んだ。

殺害されたのは、この屋敷の亭主、修作だった。

そして居間の奥にもう1人。


「三度目はしくじらぬと言っただろう。」


白い肌に返り血をつけた修二がこちらを睨んでいた。

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