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復讐ノダンピヰル  作者: H2O
第二幕
20/25

1 斜陽 其ノ壱

挿絵(By みてみん)


これは俺が刑事になってから最初に出会った事件の話だ。

先に断っておくが、これは怪談である。

事件は表向きには解決していない。

真相は常識を逸脱しているものなので、他の者は信じなかったのだ。


あれは暑い夏の日だった。

入道雲の浮かぶ青空の下、青々とした稲が揺れる田んぼの間を汽車に揺られて走っていく。

窓の向こうからじりじりと鳴く蝉の声が響いて、より一層暑さをひきたてる。


「そんな顔をするなよ、飛来。

眉間に皺がよってるよ。」


向かいの座席に座った上司がふっと煙草の煙を吐きながら言う。


「すんません、カツさん。」


カツさんは「こんなに暑いんだから肩の力を抜きなさい。」とくすくす笑った。


肩の力を抜けと言われても、それは難しい話だろう。

カツさんが向かいに座っている、ということも顔を強張らせる要因の一つなのだ。

署を出るとき、「カツさんが優しいのは顔だけだから覚悟しておけ。」と他の刑事たちに散々脅されたのだ。

それだけ脅しておいて、カツさんが何故それほど恐れられているのか誰も教えてくれなかった。

温厚そうに見えて、怒ると手がつけられなかったりするのだろうか。

あまりそうは思えないが。


カツさんはまたすうっと煙草を吸い込んでからこちらに笑いかける。


「やっぱり、怪事件を捜査するのは不安かい。」


その通りである。

「はい。」と硬い声で返事をしたら、「飛来、がちがちじゃないか。」と笑われた。


「笑わないでください。

俺は新米刑事なんだし、怪事件となれば緊張するのは当然ですよ。」


「そうだねぇ。

一家惨殺というだけでも悲惨な事件なのにねぇ。

同じ家族が二度皆殺しにされるなんて、きみがわるいもの。」


「二度の一家惨殺なんて普通はありえませんよ。

手間が殺した人間をもう一度殺すなんてできるはずがねぇ。」


「さぁねぇ。

でも、あの家族が殺されたって通報が二度入ったのは事実だよ。


最初に通報が入ったのは一週間前。

通報したのは牛乳配りの男。

屋敷の中でその家の者たちが皆倒れているって通報したんだ。

しかし通報を受けた交番の警官が慌てて駆けつければ、家族のものは誰1人として死んでなどいなくてぴんぴんしてたそうじゃない。


それだけならタチの悪い悪戯と思えたんだろうけどね。

ニ度目の通報をした郵便配達の女は、凶器を見つけたのさ。

血のついた果物包丁が庭に落ちてたんだと。

でも、今度も殺されたはずの家族は死んでいなかった。」



「被害者が生きているのなら殺人事件は成り立たないでしょう。

殺された被害者が二度生き返ったってんじゃなきゃ、これは殺人事件とは言えねぇ。」


「なにもないならそれでいいのさ。

でも、もしも殺人が隠されているのなら我々が見つけ出さなきゃならないさ。」


カツさんはそういって車窓に視線をやった。

一家が二度惨殺されるなんて、あり得ない。

ただの悪戯なんだろうか。

それとも。


「ところで飛来。

お前、吸血鬼って知ってるかい。」


「へ?」


カツさんが思いもよらなぬ質問をするので、間抜けな声を出してしまった。


「吸血鬼ってぇと、西洋の怪談小説ですか。

カーミラーだとか、ドラキュラだとか。」


カツさんは「おお、飛来は詳しいなぁ。」と笑う。


「小説になるまえから、吸血鬼の伝承は世界各地にあったそうだよ。

でも、飛来が言った通り西洋のイメエジが強いよね。」


「なんでいきなり吸血鬼の話を?」


「それがさ、これから行く現場付近の村では吸血鬼が出るって噂があるのさ。

死んだ人間が生きていた頃の姿と全く同じ姿で戻ってくるんだってさ。

そうして人間の血を飲むようになると言われてる。」


「なにいってんですか、カツさん。

田んぼの真ん中の日本家屋じゃ吸血鬼なんか似合わないですよ。

それに死体が蘇るってのは土葬をする西洋でなきゃ。

火葬されちまえば死体は動かねぇ。」


カツさんは「それもそうだね。火葬は吸血鬼と相性が悪そうだ。」とけらけら笑う。


「なにも私も吸血鬼の噂を信じてるわけじゃないさ。

けど吸血鬼の噂があるのは、その噂に事件が隠されているからかもしれない。

これから行く村には、人の血に飢えた者が潜んでいるかもしれないよ。」







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