17 グッド・バイ 其ノ参
修二はぐらりと地面へ倒れ込んだ。
「修二、しっかりしろ!」
おれは修二に駆け寄った。
修二は真っ青な顔をしていた。
「凛太郎、俺のことは放っていけ。」
「何いってんだよ。
ふらっふらなお前をこんなとこで置いていけないだろう。」
助け起こそうとしたおれの肩を修二はぐいと押し返した。
「いいから逃げろ。
血を吸われてしまうぞ。」
へらりと笑ってみせる修二の胸ぐらをつかんだ。
「じゃあなんだよ。
お前のことも椿さんのことも見捨てろっていうのか。」
修二はぐっと顔をしかめた。
「修二、初めて会ったときおれに言ったよな。
吸血鬼を残らず消し去るって。
それが生まれ落ちたことの罪滅ぼしで復讐なんだろ。」
おれは修二の手から杭をとって、自らの腕へとふりかざした。
静脈が切れて血が滴る。
「化け物になってでもやり遂げてみせろよ。
ここにいる吸血鬼を皆殺しにしてやれ。
お前のことはおれが退治してやる。」
鼻先に腕を近づけてやれば、血の匂いに修二の目の色が変わる。
修二はおれの腕に齧り付いた。
修二は立ち上がると、若林女医の父親を抱えたままの椿さんに近づいた。
修二は二人を引き離し、「凛太郎、こやつを頼む。」と若林女医の父親をおれに渡した。
「だいぶ血を吸われ気を失っているがまだ死んではおらぬ。」
男の手首に触れる。
弱々しく、けれども確かに脈をうっている。
まだ生きている。
「姉さん。」
修二の左手が椿さんの頬に触れた。
椿さんは微笑んだ。
「修二。」
修二はぐしゃりと顔をゆがめた。
右手に持つ金槌がぶるぶると震える。
修二は椿さんの頬から手を離すと、スラックスのポケットから杭を取り出した。
「姉さん、遅くなりました。」
修二はそれだけいうと、金槌をふりおろした。
カン、と杭を打つ音が響き渡る。
杭は椿さんの身体に深く沈み込んだ。
帽子を目深にかぶり俯いた修二は、泣いていたのだろうか。
おれは涙が溢れるのを止めることはできなかった。
少しの沈黙のあと、修二はおれに言った。
「凛太郎、行こう。
まだ吸血鬼は残っている。」
おれは若林女医の父親を肩に担いで立ち上がろうとした。
しかし、修二に血をやったばかりのおれに意識のない人間の身体は重かった。
よろめいたおれの身体を誰かががしりと掴んだ。
「気をつけろよ、坊主。」
「飛来刑事。」
飛来刑事は「こいつは俺が預かる。」と若林女医の父親を担いだ。
「人間は全員俺が連れて行く。
だからあとはお前らの好きにしろ。」
飛来刑事らしい鼓舞だ。
「飛来刑事、ありがとうございます。」
「礼をいうなんざ生意気だ。
さっさと行け。」
廊下の奥にはまだうごめく影がみえる。
まだ何も終わっちゃいない。
「凛太郎。」
修二はおれの手を掴む。
おれは修二とともに駆け出した。
吸血鬼を退治するために。




