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復讐ノダンピヰル  作者: H2O
第一幕
16/25

16 グッド・バイ 其ノ弐

吸血鬼は男の首に齧り付き血を啜る。

変わり果てた椿さんのその姿に、腰を抜かした若林女医が恐れ戦いていた。

おれたちが聞いた悲鳴をあげたのは、若林女医だったのか。


「父さん…!父さん…!

椿ちゃん、どうして…!」


若林女医はぼろぼろと涙をこぼした。


「あの男性は、あなたのお父さんなのですか。」


おれが問いかければ若林女医はこくこくとうなずいた。


椿さんは出された血を飲まなかったに違いない。

血を求める自分を人間でないといい、自分を退治しろとおれに頼んだ彼女が、人の血を飲んで生きることを己に許すはずがないのだ。

そうしてついに身を焦がす飢えに耐えきれなくなってしまった。

救いたかった患者が父親を襲うその光景に、若林女医はしゃくり声をあげて泣く。


「あたし、父さんともう一度一緒に暮らしたかっただけなの。 

父さんはいつもあたしに厳しくって、あたしが家を飛び出したときは二度と帰ってくるなって。

父さんがあたしが死んでそんなに悲しむなんて、死ぬまで知らなかったの。」



泣き崩れる若林女医に、杭を手にした修二がゆらりと近づく。

若林女医を睨みつける修二の瞳に激しい憎しみが宿る。


「自ら命を断つ前に気づくべきだったな。」


修二の言葉に若林女医はひどく傷ついた顔をした。


「わかってる、あたしが愚かだった。

だからやり直したかった。

あたしのした研究は、間違ってたの。」


「何人にも死は取り返せぬ。

それだけのことだ。」


若林女医はがっくりと項垂れ、近づく修二に抵抗しなかった。

修二は杭を若林女医の胸に突き刺した。

若林女医は動かなくなった。




『生きる者はみな、生まれてきた理由を見つける権利があるとあたしは思うけど。』


かつて若林女医が椿さんに言った言葉だ。

彼女が見つけた生まれてきた理由とはどんなものだったのだろう。

その彼女が自殺に至った理由はなんだったのだろう。

おれがその答えを知ることはもうない。




この場に残された一匹の吸血鬼は、口元をべっとりと血で汚し、虚ろな目でこちらを見た。


花のように美しい椿さん。

おれのために、自分は食べられない食事を用意してくれたやさしい椿さん。

彼女のためにおれができることは、約束を果たすことだけなのだ。

椿さんを退治しなくては。



「修二。」


おれの呼びかけに修二は返事をしない。


「おい、修二。」



そのときまでおれは、修二が吸血鬼だということがどういうことなのか、ほんとうにはわかっていなかったんだ。

グラスに入れて出される血を修二もきっと飲まなかった。

修二はここへ来てから一度も食事をしていない。

生き血を飲まなければ、吸血鬼は生きられないというのに。



修二の身体はぐらりと地面に倒れた。

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