15 グッド・バイ 其ノ壱
これはおれの知らぬ話だ。
おれが修二を迎えにいったとき、残された飛来刑事とカツさんは煙草をふかしていた。
「飛来、修二くんは正しかったよ。」
カツさんはふうっと煙をはいた。
「吸血鬼は、人間にとって脅威だ。
共存はできない。」
飛来刑事も、何も言わずに煙だけを吐く。
「吸血鬼は存在してはいけないのさ。」
カツさんは柔らかな、けれども厳しい声色で言った。
「カツさん、でもあんたはなんにも罪を犯しちゃいねえだろうが。
あんたが生きることの何がいけねぇんだよ!」
飛来刑事をカツさんは視線で制す。
「飛来、お前がよくしてくれたのは知ってる。
でも、私は自分の生にそれなりに満足してるんだ。」
「嘘をつくなよ。」
飛来刑事はぐっと手に力をこめた。
「あんとき俺が失敗しなかったら、あんたはまだ生きてただろ。
あんたは俺を庇った。
カツさんは俺のせいで死んだ。」
声を荒げる飛来刑事に、カツさんは「まったく。」と駄々をこねる幼子を見る親のような表情を浮かべた。
「礼ぐらい言えないもんかね。
あんたのおかげで生きてる、と言ったらどうなんだ。」
飛来刑事は俯いた。
「お前と暮らすのも悪くなかったけどね。
私は人間の脅威になり得るのなら、これ以上生きるつもりはないよ。」
カツさんは杭を取り出した。
「なんだよ、それ。」
「あの二人が最初に家に来た時にもらったの。
西洋では、吸血鬼退治は心臓に杭を打つらしいじゃない。」
カツさんは杭を胸の辺りに構える。
「飛来。」と、名前を呼んで微笑んだ。
「元気でね。」
カツさんは自らの心臓に杭を突き刺した。
「やっぱり、あんたにゃ敵わないな。」
飛来刑事は煙と共にぽつりと漏らした。




