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復讐ノダンピヰル  作者: H2O
第一幕
13/25

13 ドグラ・マグラ 其ノ参

「凛太郎くん、私がわかるかな。」


小さく「はい。」と言えばカツさんは「それはよかった。」と微笑みおれの枕元へと歩いてきた。


「ああ、横になったままでいいよ。

貧血でつらいだろうから。」


「貧血?」


「そう。

君ははいま血を抜かれて貧血気味になってるのさ。」


目眩や頭痛は貧血のせいであったのかと納得する。

カツさんは「今は夜だよ。」と自身の腕時計をみせた。


「凛太郎くん、昨日の朝早く修二くんといっしょに飛来の部屋に来たのは覚えてるかな。

私は飛来に病院へ案内を頼んだんだけど。」


覚えている。

修二と飛来刑事と共に若林女医の病院を訪れた。

その帰り、修二が1人になりたいと言ったことも。

それからおれはひとりで家に帰って、修二が戻ったのは夜だったはずだ。

翌朝、修二は「凛太郎、俺と病院へ潜り込んでくれるか。」と言った。

修二がおれにそんなふうに聞くのは初めてだった。

似合わないしおらしい表情をした修二が、おれの脳裏に朧げに浮かんできた。


「おれは確か若林女医の実験がどんなものか知りたくて、修二とまた病院へきて。

それから若林女医にあって、実験に参加することにしたような…。」


「うん、大丈夫。

凛太郎くんはちゃんと覚えてるね。

今日の午前、君と修二くんはこの病院へ来て同意書へサインした。

そして君は夜になって目が覚めたんだよ。」


なんだか夢の内容を思い出しているような妙な感覚であった。



「カツさんはなぜここに?」


「私も君たちと同じ。

飛来を連れて潜入調査さ。」


カツさんは悪戯をしかけた少年のような表情を見せた。

カツさんと話すうちに、なんとなく意識がはっきりとしてきた。

そうしてようやく疑問が湧いてきた。


「おれは何故血を抜かれたのでしょう。

それに、食事といって出されたあの液体はなんなのでしょう。」


カツさんは「わかったことを教えてあげるから、よく聞いてね。」と声を顰めた。


「研究の協力者は人間と吸血鬼の両方がいる。

協力者になった人間は相当な量の血を抜かれ、貧血状態にされるようだよ。

そうして睡眠薬かなんかも入れて眠らせる。

貧血と薬のせいでぼんやりとしているときに、血を与えるんだね。

症状をおさめるためには血を飲まねばならない、と暗示をかけるわけだ。」


「すると、人間が吸血鬼のように血を求めるように暗示をかけるということでしょうか。」


おれの言葉にカツさんは「おそらくそうだろうね。」と頷いた。


「吸血鬼を人間にするのではなく、人間を吸血鬼にしているではありませんか。」


先刻のことを思い返す。

カツさんに止められずあのまま血を飲んでいたら、

おれは自分を吸血鬼と思い込んでいたかもしれない。



「私は最初に話を持ちかけられたときから怪しんでいたんだ。

というのも、若林女医の専攻は精神科学だからね。

別に精神科学自体を訝しんでいるわけではないよ。

だだ、彼女は吸血鬼の身体を人間の身体にするという治療をしないだろうと思った。

若林女医がやるなら、精神をつくりかえる治療だろうと。

私の読みはあたっていた。

彼女の『吸血鬼の解放治療』とは、人間の精神を吸血鬼の精神につくりかえることだったのさ。」



「それでは詐欺ではありませんか。」


「そうだねえ、だから止めなきゃならない。」


目を見開いたおれにカツさんは頷いた。

カツさんは続ける。


「けれども、若林女医は騙してやろうとしたわけじゃないと私は思うよ。

彼女はこの治療が吸血鬼と人間の共存を可能にすると考えてる。」


おれにはどうも理解し難く、眉根に皺がよる。


「全ての人間に暗示をかけて、皆が血を飲まねば生きてはならなくなったならどうだろう。

人間と吸血鬼の区別はつかなくなるんじゃないかな。」



吸血鬼は見た目は人間と何も変わらない。

理性も持っている。

違いは血を飲むことだけなのだ。

人間もまた血を飲むことが必要になれば吸血鬼と人間は同じになる、ということなのか。


「しかし、それでは…吸血鬼は血を飲まずには生きられないままではありませんか。」


「そうだねえ。

一度死んだ者は、蘇ることはできないんだろうね。

修二くんは正しかったよ。」


「修二は、どこにいるのでしょう。」


「この病院にいるよ。

会いに行っておやりなさい。

でもその前に君はご飯を食べなきゃね。」


カツさんが微笑んだ時、ちょうどよくガラリと扉があいた。


「邪魔するぜ。」


飛来刑事であった。

飛来刑事は大股で部屋に入ってきて、おれの枕元へと近づいた。


「やるよ、坊主。

しっかり食わねえと倒れちまうぞ。」


飛来刑事はおれに握り飯を手渡した。


炊き立ての米の匂いと、海苔の匂いが食欲を刺激する。


「いただきます。」


おれはおおきく一口頬奪った。

中身はしゃけだ。

米の甘味と、しゃけの塩味が口に広がる。

満たされていくのを感じた。



ああ、おれは生きているのだ。



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