12 ドグラ・マグラ 其ノ弐
ぶううん、ぶうううん、ぶうううううん。
鼓膜を揺らすそんな音でおれは目を覚ました。
ああ、ボンボン時計がなっているのだ、とぼんやりと考えた。
身体を柔らかな羽毛布団が包んでいる。
おれは寝台に横になっているのだ。
おれは眼をあけた。
はて、ここは何処であろうか。
白く塗られた天井から、一つの電球がどこか寂しげに下がっている。
真っ白な壁に囲まれた、四角い部屋。
その正方形の右の角に小さな洗面台があった。
部屋にあるものの残りは今おれが横になっている寝台だけだ。
実に簡素な部屋である。
病室であろうか。
おれはなぜここへ来たのだろうか。
腕をついて、上半身を起こす。
途端にずるる、と頭蓋骨の中で何か下がるような感覚。
紫色の靄がかかってゆく視界。
気持ちがわるい。
おれはいったいどうしたのだろうか。
ぼんやりとしてしまって、うまく考えられない。
コンコンコン、と壁を叩く音がした。
「お食事です。」
知らない声であった。
部屋の壁の一部に小さな窓があって、声の主はそこをあけて何かの入ったグラスを差し入れて去っていった。
グラスを満たす、赤い液体。
血だ。
そうだ、おれに必要なのはこれか。
脳みそがずるずる動くのは、視界がちかちかと紫色に光るのは、血が足らないからだ。
血を飲まなくては。
おれはグラスをとって口元へ近づけた。
鼻をつく鉄臭い匂いに、少し躊躇う。
何を躊躇うのだろう、吸血鬼ならこれを飲まねばならない。
はて、おれは吸血鬼だったか。
そうだっただろうか。
わからぬ。
けれども飲まねば。
再びそれを口元へ近づけようとして…。
「だめだよ。」
男の声がおれを止めた。
扉が開いて、男がそこへ立っていた。
「凛太郎くん、君は人間なんだから。」
カツさんは笑顔でおれを嗜めた。




