ガルシアの記憶
今日はこのお話のみ投稿ですが量は多いと思います!
次のお話も明日の20時に投稿します!
私の故郷は山奥にある貧しい村だった。そこにはおじいちゃんおばあちゃんばかりで若い人なんて全然いない。みんな仕事を求めて都会に旅立ったからだ。
そんな状況だから子供なんて片手におさまる程度しかいない。私を入れて4人しかいなかった。
お調子者のレニングスにお転婆なバービィ、そして愚図で鈍間な私と意地悪なアーランクルの4人。4人で毎日野を駆けたあの日々はとっても楽しかった。この日々が一生続くと……思ってたんだ。
あれは私が13歳の時。誕生日を村の皆に祝ってもらってすごく嬉しい気分のままベッドに潜った。明日もいつも通りの日々、素朴だけど幸せで楽しい毎日が来ると思ってた。
だけど目を覚ました時、そこはベッドの中じゃなくてアーランクルの背中の上だった。いつもの意地悪な顔じゃなくて恐怖に歪んだ顔だった。
彼におぶられていた私は汗と涙で濡れた頬、息を切らし、目を見開いて必死に走るアーランクルの姿を見下ろしていた。
ふと背後でゴオッ…!と爆音とともに痛いほど熱い熱風に叩きつけられた。そして後ろを振り返えり私は理解した。
私の生まれ故郷は燃え落ちていた。周りに落ちてた黒い人型は見覚えがある。お父さん、お母さん、お爺ちゃん、お婆ちゃん、レニングス、バービィ、そして村の皆の成れの果て。
家屋が焼け落ちゴオゴオと火炎が全てを燃やし進む中で私は絶叫していた。チリチリと肌を焼くような熱波が全身を蝕もうが関係なく喉から出る金切り声は衰えることなく山に響き続けた。
そして故郷のある山から出た頃には朝の陽射しが差し、村の火事なんて無かったかのような穏やかな風景が広がっていた。
そこで私を下ろしたアーランクルはどっしりと切り株に腰を下ろし事の顛末を話してくれた。
私の誕生日会が終わり、寝る準備をしていた時に突如魔物の大群が集落を襲撃したんだ、と。魔物達は家を破壊し、畑を踏み荒らし、村人を食い千切り、生まれ故郷を蹂躙した。
アーランクルは寝息を立てていた私を背負い命からがら逃げだしたんだと疲れ切った顔で語ってくれた。
「これからは飯のタネは自分達で稼がなきゃならねえ」
真実を知り泣き崩れていた私にアーランクルは息を整えながらそう一言吐いた。
その姿は今までのイタズラ小僧の彼ではなく、粗暴だけどどこか大人のような落ち着きを感じた。
「……アーランクルは悲しくないの?みんな死んじゃったんだよ…?」
「あぁ、悲しいね。だがこれからのことを考えねえ理由にはならねえ」
「…………………………………」
「泣いて腹が満たされるならいくらでも泣くさ。だが現実は身寄り無しのガキ2人、何もしなけりゃ集落の奴らの後を追うだけ。それをアイツらが望んでるか?一緒に死んで欲しいって願ってるのかよ?」
反論の隙もない筋の通った正論。だけど私の心はまだ追いついていない。数時間前の惨状をまだ切り替えられず、何の言葉も口から出せなかった。
「……落ち着いた時にまた話してやるが、このご時世ガキだけで生きていくのは厳しいなんてもんじゃねえ。仕事を探そうにもどこでも門前払い、運良く仕事にありつけても安い賃金で潰れるまで働かされるかあるいは人攫いに捕らわれ奴隷商人の商品の仲間入りか…今までのような穏やかな暮らしなんて理想もいいとこだ」
「だからこれは賭けだ。命の危険を犯す代わりに安寧を手に入れられるかもしれない方法……俺達は冒険者になる」
「えっ…?」
アーランクルのその言葉に思わず声が漏れ出た。彼の提案は本当に思いもしなかったものだ。そう、私には────
「……アーランクル、それは間違ってる。『《《俺達》》』じゃない。『《《俺》》』だけの間違い。アーランクルは器用だから冒険者でも難なくやっていけるだろうけど、無能な私には似つかない」
「あぁ?」
瞬間、空気が張り詰めアーランクルの鋭い瞳に射抜かれたけど構わず私の口から言葉が飛び出す。
「幼馴染のあなたならわかるでしょ?私がどれだけ使えないか。足は遅い。力は弱い。頭は悪い。家事もできない。更には魔力も弱い。……実力が、全ての冒険者に、こ…これほど向かないことはあたし自身よく…知って…る……」
あぁ、なんて惨めなんだろう。自分の特徴を挙げているだけなのに涙と嗚咽で口が回らない。
「だ…だから、ここ…で、お別れ……。ど、どう…か、幸せに…ね」
道は分かれていた。彼は陽の当たる光の道へ。そして私は暗く湿った陰の道へ。分相応だし、何より村の皆が死んで役立たずの私が生きていいはずはない。さぁ、行こ
「うるっせえええええええええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
後ろから彼の怒号が聞こえたかと思うとボガッ!と後頭部に衝撃と痛みが走る。ジンジンと腫れるとともに殴られたんだと理解した。いや……なんで…?
「何勝手に離脱しようとしてんだよ!!お前以外とパーティ組むなんざありえねぇ!!だから黙ってついてきやがれ!!!」
殴られふらつく私を強引に担いだアーランクルはその足で山の麓まで降り、近場の街のギルドで冒険者登録を済ませた。あたしを肩に担ぎながら書類にサインする彼を見て、「えぇ……」としか声が出なかったし心も追いついてなかった。
そこからの5年間はもう早いもので気づけば実力者パーティの一員として見られるようになった。だけど、私の心には陰が差したまま。
「役立たずの私が側にいたらアーランクルが良くても周りの人達はよく思わないよね……」
記憶の海から浮かび上がったガルシアは誰もいない部屋でポツリと漏らした。が─────
「あぁ……そういう『《《秘密》》』があったんだ」
後ろから聞こえたリクトの声とともにガルシアの意識は闇へと沈んでいった。