群衆という名の魔物
「ハァッ…!ハァッ…!ハァッ…!ハァッ…!」
まるで別世界に来たようだった。昨日まではアーランクルを称賛する声で溢れていた街がリクトを褒め称える声で染まり上がっていた。そして異物を見るかのように冷たく突き刺さる自分への視線。
民衆とはかくも残酷なものなのか。常日頃アーランクルが戦ってる魔物達よりも人間が恐ろしい。このまま誰もいないところへ逃げてしまいたい。
「ハァ…ハァ……うぶぅっ……!!」
食道を刺激する灼熱。えづきとともに迫り上がっていく内容物を止めようと口を押さえ立ち止まるガルシア。自分の意思に反し、手の隙間から滴り落ちる熱い液体。汚物を見るかのような眼差しの群れがガルシアを取り囲む。
(ごめんなさい…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!ごめんなさい……!!
助けて………」
「うん、いいよ」
ガルシアを救う光明の光は彼女のすぐ後ろから差した。声の主を確認しようと振り返ろうとするガルシアだが、直後に背中を優しくさすられる感触に幾分か気分の悪さが緩和された。
「これ飲みなよ。ちょっとは落ち着くだろうから」
チャポンと音を鳴らし後ろから差し出された革製の水筒。「あ、ありがとうございます…」と水筒を受け取るとともに振り返ったガルシアの眼は遂に声の主を捉えた。
「リ、リクトさん…?」
そこにはこの騒動の中心ともいえる人物、リクトがいた。