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討伐レベルAと討伐レベルS

 街の中心に位置するギルドに着いたアーランクルとガルシア。ギルドの扉を開け中に入ると、やはりここでも歓喜と称賛の声に包まれた。


「受付さん、ジャイアントオーガ討伐の報告です。ほらこれ、証拠の角」


 アーランクルはジャイアントオーガの死体から剥ぎ取った角が入った袋をギルドの受付嬢に渡す。受付嬢は口をパクパクさせながら「ほ、報奨金を持ってきますので少々お待ちを……」と奥に引っ込んだ。


「ジャイアントオーガっつったら蛮族の森を50年も牛耳ってた魔物だぞ…」


「街一番の戦士でさえも傷一つつけられなかったのに……」


「しかも美少女連れてるキザなイケメン野郎……クソ、爆発しやがれ………」


 ギルドに屯する戦士達からアーランクル達にヒソヒソと向けられる声。ガルシアは俯き黙り、アーランクルは周りの声など意に介さず受付嬢が来るのを今か今かと待っていた。


 その時だ。



「ギャハハハハハハハ!!!!!おめぇ!本気で言ってんのか?坊やぁ!!」



 ギルド隅の依頼掲示板近くから大きな嘲笑がアーランクルとガルシアの耳に届いた。

 何事かとそちらに目を向けると大柄な男が華奢な少年に絡んでいた。


「知らねえようだから教えてやるけどなぁ!業火の鉄鉱山に巣食うレッドドラゴンは討伐レベルS!正直言ってこんなしけた街に来る依頼じゃねぇが、あの等級Aの兄ちゃんがクリアした討伐レベルAのジャイアントオーガなんて目じゃねぇんだぞ!!恥かく前に田舎のママンの元に帰った方がいいぜぇ!?」


 ギャハギャハ笑いながらレッドドラゴンの依頼書をバシバシ叩く男だが、対面してる少年リクトは『《《手揉み》》』しながらも無言で反応すらしない。

 しかし大男は留まるところを知らずにその嘲笑はエスカレートしていく。


「リクト君だったっけぇ?王都ギルドの討伐レベルSランク依頼を何個もクリアしてる等級Sなんてありきたりな嘘ならまだしも『《《異世界からの転移者》》』なんて今時、田舎のガキでもつかない嘘だぜ?そこまで自称するなら証明してくれよぉ、えぇ?」


 大男は顔を近づけ煽る仕草を繰り返すが、目の前のリクトは相も変わらず無表情に無反応。その様子にいい加減痺れを切らした大男は目の前の無謀でホラ吹きな少年の嘘を暴くために一発、拳をお見舞いしようとした、が────



「や、やめてください!!!暴力反対です!!!!!」



 つんざくような大声がギルド内に響き渡った。全員が動きを止め、声の持ち主を凝視する。視線の先にはガルシアがいた。


「け、喧嘩はやめましょう……!!ギルドに所属する仲間同士で争うなんて、そんなの……悲しい、です……!!」


 涙目で震えながらそう訴えるガルシア。彼女の突然の叫びに呆気に取られた一同だったが、すぐに彼らの感情の矛先がガルシアに向けられる。


「おうおうおう嬢ちゃん!喧嘩だなんてそんな野蛮なことしてねぇけどさぁ!嬢ちゃんが大きな声出すもんだからそこ見てみろ、受付嬢ちゃんが困ってるじゃあねぇか!」


 ガルシアが受付席に目をやると、そこにはいつの間にか戻ってる受付嬢は知らぬ間に発生した騒動に迷惑そうに顔を歪めている。

 その様子に申し訳なさそうに会釈したガルシアは大男に視線を戻し


「え、えぇと……どうすればリクトさんへのちょっかいをやめてもらえますか…?」


「ん〜…そうだなぁ。おっ、そうだそうだ!ここは一つ、冒険者伝統の『《《アレ》》』で決着をつけるのはどうだい!!」


「???………『《《アレ》》』って、何ですか…?」


「そりゃぁ決まってるじゃねぇか!!アレと言ったら────」





「決闘でしょ?」





 ポツリと、しかしハッキリと響き渡る声だった。声の主、リクトは手揉みを続けながらガルシアの元に近寄る。


「ギルド所属の冒険者が揉め事を起こした場合、冒険者同士が決闘を行う。そして敗者は勝者の言うことに従わなければならない…うん、シンプルだ。シンプルが故に誰もが受け入れ認められるルールだ」


「揉め事のきっかけの僕は参加するとしてそうだなぁ……オジさん達の代わりにそこのお兄さんが代理ってことでどう?」


 リクトが向けた視線の先にいるアーランクルは動じることもなく朗らかな笑みを浮かべるだけだ。


「ほっほぉ〜〜!!こりゃあいい!!折り紙付きの等級Aの兄ちゃんと自称等級Sの坊や!!どっちが強えのかも気になるしなぁ!!お前らもそう思うだろぉ!?」


 大男の煽動に周りの冒険者達も沸き立つ。


「いいねいいねぇ!!それじゃあ早速ギルド前の中央広場d「あぁ、ちょっといいですか?」


 刹那、大男の弁舌は突如として止まる。いや、遮られた。いつの間にか大男の目に前に立っていたアーランクルによって。


「おいおい兄ちゃん、どうしたってんだい?」


「えぇと…話の邪魔をしちゃいけないなって思って聞いてたんですけど…。僕と彼が戦う…でしたっけ?それはちょっと…やだなぁって思うんですよ」


「は?」


 アーランクルから飛び出した言葉に虚をつかれる大男。いや、周りの冒険者もリクトでさえもピクッと眉を顰める。


「僕がジャイアントオーガを倒せたのは時の運ですよ。再戦するとしたら殺されるかもしれない。対して…リクトくんでしたっけ?彼、討伐レベルS級依頼突破の実績があるんでしょ?なら結果は見えてるでしょう。それに僕は討伐から帰ってきたばかりで体調もあんまりよろしくない。そんなもんですからこの決闘、謹んでお断りします」


 続けて出るアーランクルの言葉はなんと決闘の拒否。人の良い笑顔とは裏腹に弱気な言葉が紡がれ続け、それに比例して群衆の顔には呆れが灯る。


「兄ちゃん…よくもまぁ、そんな情けない言葉がツラツラと出てくるなぁ」


「腰抜けで結構。受付さん報奨金ありがとう。そして行くよ、ガルシア」


 いつの間にか受付嬢から報奨金を受け取ったアーランクルは周りの冷めた目など厭わず、ガルシアの手を引いてギルドから足早と出て行った。


「……………………………」


 無言で手揉みを続けるリクトはアーランクルが出て行ったギルドの入り口をジロリと見つめていた。

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