n-153事件
「失礼します笹川局長。例のn-153事件に関しまして、また新たな報告があります。」
静まりかえる薄暗い室内に女の落ち着いた声とヒールが床を叩く音が響く。
鋭い目つきに乱れ一つ無いスーツ、女の内面を表すように感情の一切籠もらない口調で話す姿は、寸分の間違いも許さないような冷たさがあった。
「今から4日前にAのE13地区にて起きた事故にて運動中性子放射パルス(Kinetic Neutron Radiation Pulse)、通称KNRパルスが検知されました。」
「なんだ。奴らがまた動きだしたか。」
局長と呼ばれた男が、重厚なデスクに置かれたパソコンを見つめながら女の声に答えた。
「直接的な関係があるのかについては現在調査中です。」
「それで、事故の詳細は。」
「某日11時頃AのE13地区にて車対人の接触事故が発生。事故を起こした車の運転手はすぐに接触したと思われる女性1人と小学生男児1人の安否確認をしていたところ、突如2人が現場から逃走。運転手が警察に通報し捜索が開始されましたが、2人は見つけられなかったようです。」
「ふむ…、よくある普通の事故だな。それで、KNRパルスはどこで検知された。」
「車の破損した前方部分からです。おかしな事に、2人が接触した箇所が綺麗に弧を描くように潰れていたそうです。そこで不審に思った警察が、我が機関に調査依頼をして今回発覚いたしました。」
「運転手からの聴き取り、近隣の防犯カメラや車載カメラに被害者の映像は?」
「運転手からは肩くらいの長さの茶髪の女性と、小学生くらいの男の子だという証言は取れましたが、それ以上の事は動揺していて覚えていないそうです。また、車内にはカメラは設置されていませんでしたので、現在近隣の防犯カメラを調査中です。」
詳細はこちらに、と女はデスクにファイルを置くと、笹川は緩慢な動きで資料をパラパラと見る。
(車との接触事故の直後に逃走した2人、パルスの検知、そして不自然な事故の跡……ん?)
「笹川局長、どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。」
(この辺りは……。)
「すまないが、少し席を外す。調査は継続して情報が入り次第すぐに知らせるように。」
「かしこまりました。」




