野菜達よ永遠に…。
「ところで梓ちゃんの火が出せる能力って便利だね!もしかしてご飯の時に火を起こしたり、普段、秘密基地の風呂を沸かしてるのも梓ちゃんの能力?」
私の質問に「そうだよ!」と誇らしげに梓ちゃんは答えた。
「本当はもっと大きなのも出せるんだけど、加減が難しいから今日はこの大きさね!」
そう言って彼女が指先から火を灯す。
「すごい…歩君の能力もすごいけど、こんな能力もあるんだね。」
「まだまだあるよ。例えば…航大!由美さんに能力見せてあげて!」
「りょーかい。」
梓ちゃんに促されて航大君が頷く。
航大君はおもむろにYシャツの上のボタン外してネックレスの鎖を引っ張り出すと、綺麗な雫型にカットされた鮮やかなブルーの石がカチャッという音と共に姿を現した。
「僕の石はタンザナイト。和名で黝簾石。能力は遠く離れた場所の景色を見ることができる千里眼です。」
「千里眼!?そんな能力もあるんだ!じゃあ見たい場所が遠くても、すぐに様子が見られるんだ?」
「と言っても僕やここの仲間が家にいない事に、親が気付いてないか探る為ぐらいにしか使えませんけどね。」
そう言って少し自重気味に笑みを零した。
「自分の子が急にいなくなったら心配するもんね。」
「ん…。まぁ、はい。」
(ん?ご両親と仲があまり良くないのかな?)
少し歯切れの悪そうに答える航大君に少し疑問が残るが、他人の事情に首を突っ込むのは良くない事だと思い、開きかけた口を閉じた。
それにしても千里眼か。シキさんが以前教えてくれた能力だ。
遠く離れた場所の景色を見ることができるなんて、私が使えたら、仕事中でも家のテレビを観たりしちゃいそうだ。
ん?家…?待てよ。
遠く離れた場所を見ることができる…だと?
「航大君……。その能力の『遠く』ってどれくらいの距離?」
「え?ここからだと、外の雑木林を抜けて住宅街の周辺までだと思います。それがなにか?」
住宅街の周辺…。約2kmくらいか。私の住むマンションはここから1kmあるか、ないかくらい。
「それは……行ったことがない場所でも見える?」
「いやぁ、それは難しいですね。行ったことがある場所じゃないと。あ、でも他の石の能力者に触れた状態だと、その石の能力者が1週間以内に行った場所なら見えます。」
「……例えば、冷蔵庫の中とかは、どう?」
私の質問を聞いて歩君が吹き出したけど、今はスルーさせていただく。
「え?冷蔵庫?触れた人が1週間以内に中を見ていれば見えますけど……?」
「航大君!!是非!!とも!!お願いが!!!!」
「はい!?」
――――――
「あの……由美さん。本当にいいんですね?」
「大丈夫です。私に構わずやっちゃってください。」
「本当に?家の中全部見えちゃいますよ?」
「……たぶん、大丈夫です。だから、お願いします。」
普段なら他人に家の中を覗かれるのは嫌だが、今は背に腹は代えられない。
冷蔵庫の中が大惨事になっていないか。今はそれだけが重要だ。
「航大。由美さんがここまで言ってるんだから、やってあげなよ。」
「そうだぞ〜航大。由美姉ちゃん結構ガンコだから考え曲げないぞ〜。」
このやりとりに飽きたのか、梓ちゃんと歩君が地面に座って退屈そうに援護射撃をしているのを見て航大君はハァ〜と溜息を零した。
「ならやりますけど。なにかマズイ物を見てしまっても怒らないでくださいね?」
(助かった〜。これで冷蔵庫の中が気になって落ち着かない心配はなくなる!)
「では始めます。由美さん、手を借りてもいいですか?」
「手?ええっと、はい。」
私が恐る恐る伸ばした手を航大君が握った。
ブォン。
手が触れた瞬間に、電子音が頭の中に響いたと思うと、さっきまで梓ちゃんとした能力を引き出す為の特訓と同じような熱を感じる。
が、ピリピリとした痒みは感じなかった。
「オーラの方は…大丈夫そうですね。」
航大君はそう言うと、仄かに青く輝き出した雫型の石を握りしめて目を閉じる。
「では行きます。由美さん、家の中を思い浮かべてください。」
「分かった。」
私は頭の中で自分の暮らすマンションを思い浮かべる。
グレーの外壁にオートロック付きのエントランスを抜けると、エレベーターで部屋の前に立つ。
濃いブラウンのドアを開くとこじんまりした玄関。
玄関から正面のリビングダイニングの部屋へと進む。
普段は漫画や服類が乱雑に置かれて散らかっているけど、イメージなんだからと綺麗な時の部屋を想像する。
部屋に入ってすぐ右手のカウンターキッチンに向かって冷蔵庫を開けたけど上の冷蔵スペースには何も入っていなかった。
あ、そっか。冷蔵庫にすぐ食べられる物がなかったから、コンビニに行ったんだっけ。
次は野菜用室を開ける。
なにが入ってたっけ?たしかキャベツとナス、あと人参とか入ってたような?
「ひっ!?うわぁ。」
「え、航大どうしたの?」
「なんか腐ってた?なぁなぁ、教えろよ。」
「やっぱりヤバかった!?」
航大君の悲壮感漂う声に、不思議そうな梓ちゃんと好奇心が抑えられない歩君が詰め寄っている。
その状況に私も内心焦る。
「これは…うっぷ…。」
ああ……。察した。
込み上げる物を抑えながら話そうとする航大君に居たたまれなくなる。
ごめんなさい。グロテスクな物を見せてしまって。
ごめんなさい。野菜達、食べてあげられなくて。
そして、頑張れ未来の自分。
「それと、由美さん。もう少しお部屋を片付けたほうがいいと思います。うっぷ……。」
誰か今すぐこの場から私を消し去ってほしい。




