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突然変異

ドアをノックする音が響くと、フェリニッシュとカロリーナは静かに立ったまま、辛抱強く待っていた。

ドアが開くと、上半身裸で汗だくのカルロスが姿を現した。


「カロリーナ?… それにお前は…」


女兵士は顔を赤らめて視線を逸らした。

一方、フェリニッシュは冷たく無関心な目で彼を見つめていた。


「お願い、服を着て!」


「裸じゃないだろ。何度も俺の上半身を見ただろう?」


「でも、お客さんの前ではダメでしょ!」


カロリーナは軽く彼の胸を拳で叩いた。


「わかった、わかった! で、その女と一緒に何の用だ?」


彼はフェリニッシュに視線を向けたが、彼女は無表情のまま、腰の剣の柄に手を添えた。

無言の威嚇だった。


「私はあなたたちを訓練するために来た。もしフライゼン・ローズンメリーと戦うことになった時のために。」


カルロスは首をかしげ、困惑した様子で言った。


「なぜ彼女と戦うんだ? あなたとあの男は彼女に負けただろ? それに俺たちは彼女の兵士だ! 女王に逆らうなんてありえない!」


「彼女は私たちを武器として利用しているのよ、馬鹿ね。自分のために、私たちの心を奪おうとしてるの。」


カロリーナは友人を説得しようとした。


「カルロス、もう我慢できないでしょ。あなたは善良な人間。あんな冷酷な者に仕えるべきじゃない。」


「でも… もし逃げようとしたら、殺されるかもしれない!」


「そういう意味じゃないわ。秘密裏に力を集めるの。フェリニッシュがいれば、私たち二人を合わせても敵わないくらい強い。もし女王が変わらないなら、彼女に立ち向かうのよ。」


カロリーナはカルロスの手を両手で包み、優しくも力強く握った。


「お願い… 私たちの友情と信じてきたもののために。」


カルロスは彼女を見つめ、心が揺らいだ。

そして無言のフェリニッシュに目を向けた。


「わかったよ… でもお前のためじゃないからな。」


彼はカロリーナの頭を軽くこづき、彼女はお返しに腹を軽く殴った。


(まったく… 親しいのか、ただ暴力的なのか…)

フェリニッシュはそう心の中でつぶやいた。


カルロスは少し離れてシャツを着た。


「提案は受ける。でもひとつだけ聞きたい。フェリニッシュ、あの時一緒にいた男はどこに行った? かなりの強者だったろ。」


フェリニッシュは目を逸らし、アイスストーム王国の方を見た。

カロリーナはその様子に気づき、代わりに答えた。


「彼は… 気を失ったの。思ったほど強くなかったみたい。」


「信じがたいな…」

カルロスはつぶやき、家の中へ入った。


二人の女性も後に続いた。

カロリーナはソファに倒れ込み、フェリニッシュは背筋を伸ばして座り、冷静な目で周囲を見渡した。


「ねえ、あなたの友達が来てくれてよかったじゃない? もう敵対しなくて済むし。」

カロリーナがからかうように言った。


カルロスは目を回して、二人にホットチョコレートを作り始めた。


「黙れ。」


「はいはい…」


彼女は伸びをしながら尋ねた。


「ていうか、アイスストームで上半身裸って、頭おかしいの!?」


「訓練で体が温まるんだ。大したことない。」


「それでも勇気あるわね!」


フェリニッシュは会話に興味を示さず、半分眠りかけていた。

だが、ホットチョコレートの香りを感じて目を開けると、カルロスがカップを二人に手渡していた。


「温まれ。」


「ありがとう。」

カロリーナが答えた。


フェリニッシュは無言で受け取り、一気に飲み干した。

カロリーナとカルロスは驚いたように彼女を見つめた。


「何?」


「いや、別に…」


二人は同時にそう言った。


フェリニッシュはカップを横のテーブルに置き、ぼんやりと考え込んだ。


(スレイディはこのホットチョコ、作れるかな? 目が覚めたら聞いてみよう…)


「さて… 今から訓練だ。」

彼女は静かに、しかし強い口調で言った。


二人は頷き、やる気を取り戻した。



***


数時間後。

フェリニッシュはカロリーナとカルロスを〈インフェリウス〉という場所で鍛えていた。そこでは自分たちの能力を限界まで解放できる。


夜、フェリニッシュは一人で街を歩いていた。静かな時間を求めて。

その時、抑えられたようなうめき声を聞いた。


路地に入ると、男が貧しそうな女性の首に山刀を押し付けていた。


「黙れ! 金を全部出せ!」

男は唸るように言った。


フェリニッシュに気づくと、男はいやらしい笑みを浮かべ、女を乱暴に突き放した。


「おお… こんな美人に会えるとはな…」


男が手を伸ばした瞬間、フェリニッシュはその手を掴み、素早く剣を突き立てた。

男の胸を貫く。

女は悲鳴を上げ、逃げ去った。


フェリニッシュは自分の手を見つめ、不思議そうにつぶやいた。


「どうして逃げたの…? 守っただけなのに。」


彼女は死体を見下ろした。剣には血が付いていた。

洗わなければ。


誰にも見られないように、影の中をすり抜け、静かにその場を離れた。


小屋に戻ると、スレイディはまだ意識を失っていた。

フェリニッシュは服を脱ぎ、浴室へ向かった。


血の跡と、以前スレイディと一緒に水を節約するために入った小さな湯船が目に入る。


彼女は静かに膝をつき、水面に手を当てた。

そして熱を加え、穢れを焼き払った。

湯の中に入り、目を閉じる。温かさが身体を包み、血を洗い流す。


「完璧…」


そう呟き、湯から上がると柔らかな服に着替えた。

眠っているスレイディの隣に横たわり、彼の胸に耳を当てる。心臓の音が心地よく響く。


フェリニッシュは微笑んだ。

彼の手を握り、指を絡める。

すると、彼の手がわずかに握り返した。


「…あっ!」


顔を上げると、彼が意識を取り戻しかけていた。

フェリニッシュは小さく笑い、そのまま穏やかに眠りについた。



***


翌朝。

フェリニッシュはフードを深く被り、アイスストームの街を歩いていた。

遠くに、氷の城の前で叫ぶ人々の群れが見えた。


「自由をよこせ!」

「平等を!」

「機会を!」

「正義を!」


フェリニッシュは驚き、立ち止まった。

それが民衆によるものか、フライゼンの兵士たちの反乱なのか、彼女には分からなかった。


兵士たちは槍と盾を構え、群衆を押さえようとしていた。


その時、城の扉が開き、フライゼンが現れた。

毒の影響は残っていたが、以前よりは安定している。

彼女は優雅で冷たい足取りで階段を下り、群衆を見下ろした。


「恩知らずな人間ども。食事ができることに感謝しなさい! 私が望めば、今日から飢え死にするのよ!」


沈黙が広がる。

その時、一人の少女が石を投げた。

それは女王の背中に当たった。


「あなたは悪い女だ!」

少女が叫んだ。


フライゼンは怒り狂い、鋭い爪で少女の頭を掴んだ。


「やめて! 娘を離して!」

母親が叫んだが、兵士に押さえつけられた。


「お母さん!!」

少女が泣き叫ぶ。


フライゼンは手を振り上げ、今にも潰そうとした。


フェリニッシュはもう見ていられなかった。

一瞬で距離を詰め、剣を抜き放ち、炎をまとわせた。


フライゼンは嘲笑を浮かべ、少女をフェリニッシュの前へ投げつけた。

彼女は反射的に少女を受け止め、攻撃を止めざるを得なかった。

その隙に、女王の変異した腕がフェリニッシュの腹を打った。


「見なさい、この力を… あなたの“愛しい人”のおかげよ!」


フライゼンはフェリニッシュの顔を掴み、攻撃を封じた。

だが、少女を抱えながらもフェリニッシュは蹴りを放ち、女王の顎を打った。


「今すぐ逃げろ!」

彼女は母と娘に命じた。二人は他の抗議者たちと共に逃げ出した。


兵士たちがフェリニッシュを囲む。


「こいつが例の女か?」

兵士の一人が言った。


フライゼンは頷き、姿勢を整えた。


「殺せ!」


その瞬間、フェリニッシュの剣が炎を纏って旋回した。

炎の斬撃が兵士たちを瞬時に焼き尽くした。


怒り狂ったフライゼンは巨大な氷の障壁を生み出し、城を完全に封鎖した。

フェリニッシュは剣を振るい、蹴りを放ったが、びくともしなかった。


「くそっ…」

彼女は見上げた。氷の城は完全に閉ざされていた。



***


玉座に戻ったフライゼンは、苛立ちを隠せずに座り込んだ。

突然、胸を押さえ、苦痛にうずくまる。

体中に根のようなものが広がっていく。


「くそっ!!」

彼女は叫び、床に倒れた。


血を吐き、目からも血が流れる。

顔の半分が歪み、悪魔のように変化していく。


「アアアアアアアッ!!!」


その叫びは城全体に響き渡り、

毒と変異が彼女の体をさらに蝕んでいった――。



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