ああ、陛下、最も残酷な陛下 - パートII
カロリーナともう一人の兵士は糸に絡め取られ、激しく壁に叩きつけられた。
フェリニッシュはスラディに視線を送り、承認の合図をした。
フライゼンは呆然としながら、自分の兵士たちが壁に押し潰されるのを見ていた。亀裂から煙が漏れ出していた。
「この忌まわしい男……どうやってそんなことを?」
スラディは再び糸を腕に巻き付け、無感情な声で答えた。
「糸は極めて繊細で敏感だ。ほんの小さな動きにも、大きな意味がある。」
言葉を終えると同時に、彼はフライゼンへ攻撃を仕掛けようとした。
だが、兵士が突然飛び出し、氷の矢を三本同時に放った。
スラディはそれをかわし、フェリニッシュが炎の剣で矢を切り裂いた。
地面に突き刺さった瞬間、氷は広がり、床を凍らせて二人を後退させた。
その隙にカロリーナは槍を構え、スラディへ突進した。フライゼンは氷の剣を召喚し、フェリニッシュに挑む。
スラディは機械の腕で槍を弾き、距離を作った。彼は女の首を狙ったが、その背中から突如として機械の爪が伸び、兵士が放った矢を受け止めた。激痛が彼を襲う。
「フンッ!!」
***
「人間のお前がこれほど強いとは驚きだ。」
フライゼンは氷の剣を押し付け、フェリニッシュを地面に叩きつけようとしていた。
だが、彼女の肉体的な力の方が勝っていた。腹部に蹴りを放つ。
しかし、フライゼンは衣の下に氷の鎧を作っていたため、ほとんど効かなかった。
フェリニッシュは剣を振り抜き、敵へ迫った。フライゼンは氷の壁を立てて防ぐ。
フェリニッシュは障壁に駆け寄り、強烈な蹴りで剣を高速で弾き飛ばした。
フライゼンは間一髪で身をかわしたが、剣は彼女の首をかすめて焼いた。
「クソッ!!」
傷口を押さえるフライゼン。その瞬間、背後に回ったフェリニッシュが、太腿の急所を狙い蹴りを放とうとした。
しかし、氷の矢が彼女の脚を壁に縫い付けた。
兵士が氷壁の上に現れ、矢を放っていたのだ。レンカタ製の手袋を装備し、彼は飛び降りて攻撃を仕掛けてきた。
「娘に手を上げるのは嫌だが……お前は別だ。」
突然、氷の壁が爆発した。
カロリーナが兵士に吹き飛ばされ、二人は頭から壁に叩きつけられた。
直後にスラディが姿を現す。胸と顔を負傷していた。
「……」
彼は素早くフェリニッシュの足を拘束する氷を破壊した。
彼女は脚に突き刺さった矢を引き抜き、呻いた。
「くそったれ……痛ぇな。」
「お前は本当に荒っぽい女だな。」
スラディはそう言った。フェリニッシュは短く笑ったが、すぐにフライゼンの姿が消えていることに気づいた。
瓦礫の中には何も残っていない……そう思ったその時、離れた場所から――
「死ねッ!!」
巨大な氷の剣がフェリニッシュの胸に向かって飛んできた。
スラディには世界がスローモーションになったように感じられた。
『なぜ体が動かない? なぜ死に向かって走っている? 本能なのか……フェリニッシュを守るための?』
衝動に駆られ、彼は彼女の前に立ちはだかった。
必死に両腕を広げて剣を受け止める。心臓は絶望の鼓動を刻んでいた。
フライゼンの口元には嗜虐的な笑みが広がっていた。
最後の瞬間、スラディは敵の首へ注射器を投げつけた。針が肉に突き刺さり、未知の液体を注入する。
フライゼンの笑みは瞬時に消えた。
同時に、スラディの機械の爪が氷剣を掴み、その速度を弱めた。
だが代償として、彼の腕は砕け始める。
『ふざけるな……俺は死ぬのか? 爪も腕も……すべて失って……女のために? そんなはずは……いや、それでも、これが正しい気がする。』
氷の剣が彼の胸を貫き、フェリニッシュごと押し倒した。
彼女は気を失う前に、一粒の涙をこぼした。
BOOM!!
機械の腕が爆発した。
義眼は吹き飛び、爪も粉々に砕けた。
二人は城外へ投げ出され、近くの山に叩きつけられる。煙が舞い上がった。
氷の剣は溶け、水となった。二人の体は氷水に沈んでいく。
Splash!
…
フェリニッシュは水面に浮かび上がり、傷ついたスラディの体を引き上げた。
「ゴホッ、ゴホッ!」
肺の水を吐き出し、息を荒げる。
「スラディ……」
涙を流しながら彼を温めようとしたが、彼の外套に残っていたのは空の注射器だけだった。
「どうして……どうしてこんなことを?! 私なら……耐えられたのに! お前は……私のために犠牲になるべきじゃなかった!」
彼女は彼の顔を見つめた。失われた義眼、剥き出しの回路、砕けた爪。
「スラディ!!」
彼を抱きしめ、燃えるような炎で二人を包み込む。その炎は熱くはなく、ただ温もりを与えた。
「お願いだ……私は……お前を失いたくない……」
彼女の世界は静寂と虚無に覆われた。
「愛してる……スラディ……行かないで……」
「美しいな……」
フェリニッシュが目を上げると、そこにはフライゼンが立っていた。
顔の半分は氷の魔に侵され、角が生えている。片腕は棘に覆われ、両手は爪に変わっていた。
「女は愛する者を失った。弱いが、狡猾な男を。」
彼女は自らの歪んだ顔に触れ、叫んだ。
「見ろ! このクソ野郎が私をどうしたか!!」
フェリニッシュはその姿を怪物としてではなく、“彼女自身”として見据えた。
「お前は……私にとって唯一大切な人を殺した。私を利用しなかった、唯一の人を。お前は……彼を殺した。」
憎悪を宿す瞳で、彼女は炎の剣を振りかざした。
だが、その瞬間。
スラディの胸から、黒と白の髪を持つ幽玄の女が現れた。目を閉じたまま、白い衣をまとっている。
トゥルース。
「契約は明確だ。持ち主の命が危機に晒されない限り、私は介入しない。」
その存在感は圧倒的だった。
フェリニッシュは立つことすら辛く、フライゼンは血を吐き、膝をついた。目からも血を流す。
「真実を持つ者は悲劇の運命を背負う。私は、彼にこれ以上の苦しみを味わわせはしない。」
トゥルースは敵に手を差し伸べた。
「我が持ち主の人生から、永遠に消え去れ。」
「……はい……我が主よ。」
フライゼンは氷の立方体となって崩れ去り、消えていった。
トゥルースはフェリニッシュに向き直り、顎に触れた。
「彼を抱きしめた時、『愛している』と言った。それは真実か?」
真実の前では、嘘は許されない。
「はい……私はスラディを愛しています。この命よりも。」
トゥルースの唇に、穏やかな笑みが浮かんだ。
「その言葉を忘れるな。繰り返し、己に刻みつけよ。」
彼女は再びスラディの体に溶け込んでいった。
胸の傷はゆっくりと癒えたが、腕と義眼は戻らなかった。
疲れ切ったフェリニッシュは彼の傍らに膝をつき、その胸に耳を当てた。
かすかにだが、確かな鼓動が聞こえた。
「……この音を、どれほど聞きたかったか……」




