退魔師
「アンリ…確かに父さんはお前よりも強いものならば相手として認める。たしかにそういった事はある。だが、流石にこの子は齢が離れすぎているだろう」
妖魔討伐後、直接退魔師登録に向かうのかと思ったが、先に両親の説得に向かうことになった。
「でもパパ。この人は、退魔師の上に返魂人の私よりも妖術に長けているよ。それも剣術もこれまで出会ってきた誰よりも優れていたわ。」
「この青年が退魔師だと…本当なのかね?」
アリン様のお父上が俺を見てきた。みるというよりも睨んできた。まるで疑うかのように
「ここで証拠を見せることはできません。私は故郷の郡庁では守護士として登録していましたので。」
「それほどの力を有していながら、隠していたと?」
「何故だ?」
「簡単なことです。アリン様は私の幼い頃からのあこがれであり、初恋の相手です。御息女に思いを伝えるため、必死に鍛錬し、言い寄る女性にも見向きもせず、彼女だけを思ってここまで来ました。」
「条件として求めたと聞いたが?」
「通常ならば、私のような地方の長官の三男坊が禁軍の長官であらせられるファグル様にお目通りすることすら叶いません。あの場が私にとって最初で最後の機会だったのです。」
「しかし、見ず知らずの君に娘を託すことはできん。」
「無論でございます。まずは、妖魔討伐における御息女の同行者として、そして師匠として認めてくださるだけで十分でございます。今後、功績を重ねファグル様に認めていただく所存であります。」
「ふむ…」
「パパ。彼は炎と水の2つの属性を有しているのよ。退魔師の中でも圧倒的に貴重な存在だわ。そんな彼がうちの家系に入ってくれると言うのよ。」
「…わかった。とりあえずは同行相手として認めよう。ただ、師匠になるというのならば、まずは私を打ち破ってみせよ。私程度に勝てぬようならば、師匠など夢のまた夢だからの。」
「どちらで?」
「この屋敷の裏庭で行おう。」
大変なことになったものだ。ファグル様を見る限り、負けることは間違いなくあり得ないが…苦戦することはアリン様への印象をわるくするか…
ならば、圧倒的な実力差を見せつけて勝つしかないか。
「さぁ…始めるか。」
「これは単純な剣術の勝負なのでしょうか?」
「妖術を使いたいなら使うが良い。そのほうがそなたの本当の実力が見えるというもの。」
「ならば…そうさせてもらいましょう。」
『煉獄の炎よ…私に従え。』
俺の妖術は自分が屈服させた相手の能力を自在に操るもの。今回使うのは、単純な剣術の勝負で打ち破った煉獄の炎を操る巨人族の戦士の力。名をイフリート。俺も瀕死の重傷を負った相手で、屈服させた後は、頼りになる相棒のような存在。
俺はアリン様を御側で守り抜くために死に物狂いでこの様な強大な存在と戦ってきた。
俺が剣を引き抜くと俺の背後にイフリートの虚像が現れ、俺の周りを煉獄の炎が包みこんだ。俺が軽く剣を振るえば、庭に深い傷ができた。俺の剣はイフリートの剣と同一。
「さて…どうなさいますか?私と試合なさいますか?」
「君は…妖魔を祓うのではなく、屈服させたのか。そんなことが…可能なのか。」
「普通の退魔師ならばできないでしょう。ですが私は、アリン様を迎えるためにこれまで死に物狂いで戦ってきた。この思いだけは、誰にも負けないと確信しております!」
「…ただの青年かと思っていたが、伝承に伝わる双輪の退魔師だったとは…」
「双輪?」
「君は、水の妖魔であるグラウコスも従えているのではないか?」
『あら…私のことを知っているとは博識な人間だこと…。』
「なんと…これがグラウコス様の御姿…。誠に伝承通りだ。」
「申し訳ございません。ファグル様…伝承とは?」
「この地にいずれ天災が発生する。それとともに強大な妖魔が大群を率いてこの王国を滅ぼすであろう…詳しいことは私も知らないがその様な伝承が受け継がれてきたのだ。その時に人を守る最強の守護者こそが、双輪の退魔師なのだ。」
「つまり…」
「君こそが、最強の守護者なのだ。」
「で…では?」
「娘の同行者そして…師匠の座も喜んで受け入れましょう。どうか娘を宜しく頼みます。」
「よくわかりませぬが、確かに承りました。」