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第七話 解体ショー

 ゴーレムの素材になる魔石の入手法は分かった。だがその方法が魔物からの摘出では素直に喜べない。いや、やるけどね。俺は収納していたゴブリンの死体を一体取り出す。


「今すぐ魔石を抜き出すのでしょうか?」

「ああ何時敵に遭遇するかも分からないから、試せるときに試しておきたい」


 ティアには真面目くさって説明したがホントは嫌、マジでやりたくない。でもどうしても魔石が必要なのだ。解体用の刃物を用意しようか迷ったが魂がもったいないので辞めた。

 意を決してゴブリンの死体を力任せに引き千切りにかかる。死体の左肩を右手で掴み、左手で死体の首を抑える。そして思いっ切り力を入れて二つに分かれるように引き裂く。ちょっと開きづらいポテトチップスの袋くらいの感覚で裂ける。


「グロいし臭ぇ」


 ルミニエが言うには魔石があるのは心臓付近だったな。確かにこういう場合、心臓か頭が定番な気がする。手を突っ込むとまだホカホカである。収納している間は状態が変化しないようだ。一つ賢くなったな。

 それにしても心臓はどれだ、これか? それっぽい内臓を掴むと気持ち悪さに体がぞわぞわする。何か石っぽい物が指に触れたので、穿り出す。小豆くらいの小石だ。鑑定を掛ければ待望の魔石だった。嬉しいけど辛い。


「くっそぉ」


 もうやけくそだ。収納しておいたトロール以外の魔物の死体を出す。流石にトロールみたいなデカブツを素手で解体するのは無理そうだし、刃物でやるにしろ相当デカくて頑丈な物でなければ駄目だろう。トロールは後回しにしよう。

 さて改めて倒した魔物の死体を並べると三十七体あった。内三十六がゴブリン、残り一がボブゴブリンだ。結構倒していたんだなという達成感とこれを解体するのかという辟易する気持ちが同時に去来する。


「お手伝いします」

(止めといた方が良いよ)


 ティアの申し出は有難いが、その神聖さが前面に出ている汚れ一つない神官服っぽい服装での解体は酷く罪深い行為のように思う。俺はもう汚れていない所の方が少ないくらいだから、ほぼ諦めがついている。


(こういうのは専門の人に任せたら良いの)

「専門の人いるんかい。いやいて当然か」

(冒険者や冒険者ギルドがやっているよ)

「まあ定番だな。俺もそのうち冒険者やってみようと思ってるしな」

(じゃあ、これも練習だね)

「いや冒険者になったら解体はギルドに頼む。今そう心に固く決めた」


 これで解体は最後だ。もうやらん。この世界の魔物はゲームそのものみたいに無限湧きはしないと思うが、国を亡ぼす程いるのが確定している。それを倒すたびに解体するのか? 冗談じゃない。誰かに任せられるなら任せるに限る。

 無心になって魔石を抉り出していく。結果、先程手に入れた魔石と同じ物をさらに八個とボブゴブリンからは少しだけ大きな物が一個入手出来た。


「魔石の無い奴もいるのかよ」

(魔力を持っている者はみんな魔石があるよ。魔力が低い者は魔石が小さ過ぎて見つけられないだけだって)


 それなら魔力を多く持っている種類の魔物を優先的に狩った方がお得なんだな。でもどうせ全部殺すんだからこの場合順番はあまり関係ないのか。それと魔力を持っている者はみんな魔石があるという言葉に、俺はふとこう思った。


「じゃあ人間にもあるのか?」


 一瞬の沈黙があった。


(……酷いなぁ人間を生贄にするつもり? 確かに私が神託を出せば従う国もあるかもしれないし、大国一か国分でもあれば一時的に魔物の侵攻を押し返すほどの数のゴーレムを用意出来るだろうけどさ。そんな非人道的なこと良く思い付くね。ほっといたらそろそろ新たに何か国か滅びるだろうし、一か国なら結果だけ見れば被害は減っているけど、そんな手段は女神として認められないよっ!)

「一言も言ってない。そんな鬼畜作戦思いつきもしなかったわっ」


 認められないよっ!じゃないが。間違った道へ進もうとしている人間に言ってやったぜって顔してるけど、前提がおかしい。俺はそんなこと一言も言ってない。


「はあ、もう良い。ゴーレム練成するぞ」

(はーい)

「準備する物は他にありますか?」

「今回は特に無いな」


 ティアは良い子。

 俺の精神を犠牲に手に入れた魔石を一つ使いゴーレム練成を試すことにする。素材はゴブリン由来の魔石とその辺の土だ。土が盛り上がり人の形を模していく。なんかアッと言う間に出来上がる。滅茶苦茶シンプルな造形で目も口も無い。

 ティアとは差があり過ぎて驚いてしまった。いやこっちが普通なんだよな。鑑定では名前はアースゴーレム、ステータスはティアの半分以下だった。特に動きが遅いのが気になる。これだけ違いが出た原因はやはり素材だろうか。


「戦力として使うなら数がいるなあ。しかも相当消耗することを考慮しないとダメだ。レベル上がったりするのかな?」

「私とはあまり似ていませんね」

(これが普通かな。レベルアップはするけどステータスの上昇は少ないよ)


 ティアの言葉は大分控えめだな。あまり、ではなく全く似ていない。色々試してみたが口が無いので会話は当然出来ないし、そもそも意思を感じない。口頭による指示は具体的で単純なものしか実行出来なかった。ゴーレム特有の主からの思念の受信は出来るらしく、実際に俺の思念による操作を試してみた。これはすごく感度の低い操作性のゲームキャラみたいな感覚で動かせた。便利そうではあるが今のところ使い道の無い能力だった。


「この子は動きが緩慢に見えますが、これ以上速くは動けないのでしょうか?」

「敏捷が低いからなあ、全力で走ってみて」


 アースゴーレムが指示に従いドタドタ走る。これは走ると言うより小走りと言った方が正しいな。思念でパンチをさせてみる。こっちも遅い。ゴブリンの攻撃と比べても遅い。


「これは連れて歩くのも大変だ。雑魚相手でもすぐやられてしまうな。収納出来たら良いん……え」


 収納出来たら良いんだけど、と言っている途中でアースゴーレムが姿を消す。収納出来ました。出し入れしてみたが、やはり何の問題も無く行える。


「嘘だろ。ヤバ過ぎるぞ、これ」


 これは俺さえいれば何もない所からゴーレムの軍勢を突然出現させることも出来るということだ。もっと強いゴーレムを作れて、数を揃えられたらとんでもないチート能力だ。だがすぐに大きな問題に気付く。そう「もっと強いゴーレム」を「いっぱい揃えれば」凄いことが出来る。強い魔物をいっぱい解体しないといけないね。体になる素材もその辺の土では駄目だろう。結局ハードルが高過ぎる。


「あの、私は収納出来ないのでしょうか?」

「んー出来ないみたい」

「……そうですか」


 なんでちょっと残念そうなの。えぇ収納して欲しいの? 収納されている時どうなっているかも分からないのに、されてみたいの? 知的好奇心なのかな。俺なら嫌だけどな。変な空間に飛ばされそうで怖いんだけど。

 それにしてもこれで魔石を大量に入手する必要性が高まった。一応魔石は奉納でも手に入れられるのを確認したが必要ポイントが高過ぎて現実的ではなかった。やはり魔物は冒険者ギルドで解体してもらうしかない。それにはこの世界の人間と接触する必要がある。ここに引き籠っているだけでは世界は救えない。情報だけでなく物資も欲しい。そして何より人手、何でもかんでも自分でやっていたら手間が掛かり過ぎる。別に解体がしたくないって理由だけで決めたわけではない。いや、ホント実際自分で全てやっている時間が無い。先程ルミニが非常に不穏なことを言っていたし。


「ルミニエさっきさらっと言ってたけど、ほっといたらそろそろ新たに何か国か滅びるだろうって本当か?」

(うん、後一年も保てば良い方かな)


 敵はいっぱい。時間無し。


「よし明日ここを出発しよう。他の村または町で物や情報を仕入れたい。それからこの世界の人間、特に組織的に魔物へ対応している者との協力関係の構築を目指す。必要なことでも全部自分でやっていたら時間がかかりすぎる。そして時間が掛かれば犠牲もその分増える」

「おっしゃる通りかと」


 ティアが深々と頷く。これから接触する人間達が彼女くらい聞き分けが良ければ、いやこれは高望みが過ぎるな。そうか、交渉事もこれからは考えなければならないのか。もしかしたら単純な戦闘よりそちらに苦労するかもしれない。

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