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第五話 ゲームではない

 戦闘力の向上はレベルアップによるステータスの向上だけではない。強さはステータスだけで決まるものではない。ゲームでもレベル上げるだけで勝てるゲームばかりではない。例えばロストタイズとかロストタイズZとか……。脳筋戦法はどこかで壁にぶつかる。逆に言えば戦い方を工夫すれば、レベルアップをしなくても強くなれる。


「あーそうそう戦っている時、ティアの魔法を見て思ったんだが使っているのは【ウォーターボール】?」

「はい、消費魔力が最も少なかったので」


 【ウォーターボール】はゲームでも水系魔法の初歩中の初歩だった。その分、威力も消費MPも一番低かった。使うのは序盤のみだった。スキルレベルを上げればもっと良い魔法も使えるのだが、そもそもゲームにある魔法しか使えないのか、という疑問がある。

 ここはゲームの中というわけではなく、ゲームの元になった世界だ。つまりステータスなどの恩恵を使っているくせに矛盾するようだが、俺達はゲームシステムに縛られているわけではない。あくまで予想だがこの世界ではゲームシステムは補助のようなものではないか。

 ティアが使っていた【ウォーターボール】も威力や発動の速さが一定ではなかった。最初、上振れや下振れががあるのかと思ったが、そうじゃないなら魔法の使い方に大きな可能性が生まれる。


「【ウォーターボール】の威力や発動の速さが変わっていたのは意図したものなのか?」

「はい、使い分けをしていました。トロールの意識が主様に向きそうになった時は威力より速さを、そのうえで顔を狙うことを優先していました」

「かしこ」


 賢い。初の実戦でそんな判断が出来るなんて戦いの天才かよ。ステータスに【かしこさ】があったら生まれたばかりなのに俺より高いかも。女神像のモチーフ、実はルミニエじゃなくてギリシャ神話の戦女神の方じゃないの。鳶が鷹を生んじゃったかもしないな。


「良いね、初戦で教えてもいないヘイト管理やっちゃうか」

「ヘイト管理……憎しみを管理する、そういうことですね」

「理解が早くて助かる。この分だと魔法の使い方も工夫出来そうだな」


 俺はティアに水系魔法の使い方について率直に感じたことを説明した。水圧を上げれば威力が上がるのではないか。見ていて水の球をぶつけるよりウォータージェットカッターみたいな使い方をした方が効果的だと思った、などだ。だがいまいちティアには伝わらない。まあウォータージェットカッターなんて口で説明しても言われても流石に分かないか。どう説明したものか悩んでいたら、ティアが少し言い辛そうに提案する。


「あの、明確にイメージして強く私に伝えようと思っていただければ伝わりますよ」

「えっ」

「主様は私の創造主でいらっしゃるので繋がりがございます。言葉はなくとも念じていただければ問題なく伝わります」

「それはゴーレムの特性のなのか?」

「恐らくは。私としても感覚的に【そう】だと感じるだけなので詳しくは……」


 あー確かに言われてみればそちらの方が便利だし魔法のある世界らしい。ゴーレムが音声入力しか受け付けません、となるとちょっと残念な気持ちになるかもしれん。ちなみにティアの方から俺へは簡単な情報しか送れないらしい。主と従の関係上、主側から従への情報の流れの方が強いことが原因のようだ。

 まあ実際にちょっとやってみるか。まずはシンプルな構造の水鉄砲を思い浮かべる。圧を掛けることと小さな射出口あたりを特に強くイメージする。


「確かにこの仕組みを生かせば水の勢いは増します」


 ちゃんと伝わっているようだ。次に昔テレビで見たウォータージェットカッターを思い浮かべる。子供の頃に鉄アレイを切っているところを初めて見た時はなかなか衝撃的だったな。


「なんと鉄まで切る威力があるとは。では試してみます」


 ティアが右手を木に向かって突き出し水を放つ。直撃し木は激しく揺れる。戦闘時に見た水球より確実に速度は出ている。しかしウォータージェットカッターのように切るほど水が集中出来ず、消防車の放水が一番近い感じだ。

 ティアは水を放ちながら色々調整を続けて、今度は水流が細くなる。これは成功か、と思いきやティアから少し離れた所で水飛沫状になってしまう。これでは良いとこ高圧洗浄機である。石造りの建物があれば掃除に便利そうだ。ティアが一旦水を止める


「申し訳ありません。自分から距離が離れれば離れるほど制御が困難になります」

「近くなら再現出来ているのか?」

「はい……このように」


 ティアは的にしていた木に手が触れるまで近づき、もう一度魔法を発動すると少し時間はかかったが切断に成功する。


「おぉ、凄いがその射程では戦闘に使うのはちょっとな」

「私の魔力制御が拙いばかりにお役に立てず」

「気にするな、そう簡単にただの思い付きがいきなり実用に耐えるものにはならないから」

「主様は石があるだけで離れた相手でも対応出来るのに、私ときたらトロール相手によろめかせるくらいしか出来ず、不甲斐ないです」


 確かに投石で仕留めたし、威力も十分なのだが単なる力任せの攻撃手段なのでそんなに大層なものではない。石を投げてるだけじゃなあ。


「ん、石か。水の勢いは強くなったんだからそこに石を混ぜたりすれば威力は上がるんじゃないか」

「やってみます」


 俺の提案を聞いてティアは早速色々試してくれた。結果として威力はかなり向上した。大き目の石を水圧で飛ばすより砂利を混ぜた水流の方が速度が出て強力だったと思う。少なくとも俺はとてつもなく痛そうだから受けたくない。あと砂利のない場所を想定して魔法で氷を作って混ぜるやり方も試した。氷の形を鋭い物にすればより凶悪な威力を発揮したが、とにかく時間が掛かるという欠点があった。それも使い慣れていけば解消されそうではある。それにしても魔法はかなり応用が利くということと、魔法の制御が自分から離れれば離れるほど難しくなる、これは覚えておいた方が良いな。

 

「あとは慣れかな。実戦で使っていけばレベルも上がるし、威力も上がるだろう。それにスキルで補うという手もある」

「ご指導ありがとうございます。見識の深さに感服いたしました」


 大げさだが社交辞令や媚び諂いからの言葉ではないのは分かる。ティアの表情が乏しくて良かった。もし感情豊かにこんな感じで褒められ続けたら自分が英雄か偉人だと勘違いしてしまっていたかもしれない。俺はまだ大したことは何も成していないのだ。目標までは果てしなく遠い。慢心などしていられない。

 あとティアに関しては練成直後から予想外の連続だったが、これだけ優秀なら出来るだけ早くまたゴーレム練成を試みたい。とにかく素材を探してみるか。

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