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第四話 仲間

 目の前で片膝をついて俺の言葉を待つ女性。女神像から人のように変化するという想定外の事態で、彼女をどう扱えば良いのか悩む。女神像を素材に練成したのにルミニエには全く似ていない。

 見た目はルミニエが思春期真っただ中の少女なら、彼女はスラリと背の伸びた大人の女性である。服はゲームでも登場した女神官用の装備に似ていて白を基調にしたローブなのだが、豪華というかファッションなんて分からない俺でも一目で出来が良いと感じる代物だ。大部分は光沢のあるシルク、一部は微妙に透ける謎の素材出来ている。謎の素材は角度によって青みがかって見える。そして随所に意味ありげな紋章なのか魔法陣なのか分からない図形がうっすら見える。日本の紙幣の透かしみたいになっている。どうやっているんだ、あれ。装飾品も庶民では一生手が届かなさそうな一品揃いだ。

 ルミニエを実際に見たことが無い人間が想像した女神の姿がこの姿なのだろう。知らないからこそ、より女神らしく神秘的で気品のあるものになっている。

 とりあえず鑑定してみるか。



 【ロングッド村の女神像だった者】


 【レベル   1】

 【HP38/38】 【MP280/280】

 【生命力   38】

 【筋力    31】

 【防御    30】

 【敏捷    23】

 【魔力    280】

 【幸運    10】

 【状態 女神の申し子、女神の加護(小)】

 【職業 従者】

 【スキル】



 ルミニエは例外だが鑑定でステータス画面が出るということは、やはり物ではなく生き物扱いなのだろう。それにしても従者? 意味は分かるがゲームのジョブでは存在しなかったものだ。名前からも戦闘などに役立つ成長は見込めないので早めに新しい職業に変えた方が良さそうだ。

 あと【女神の申し子】って何だろうと思ってたら説明が出てきた。【女神の申し子】とは該当する女神の特性を強く引き継いだ者のことらしい。ルミニエの特性?  確か貰った宝石が【水の女神の守護石】だったから水属性とか?

 俺が色々悩んでいる間も彼女は身じろぎもせず待っている。気まずいなあ、何と話しかければよいのか。


「あー君は、なんて呼べばよいのか。名前とか」

「村人は女神様と呼び掛けておりました。私固有の名はありません。お好きなようにお呼びください」


 流石に俺が彼女を女神様と呼ぶのはおかしいし、これから村や町に行くことを考えたら悪目立ちするような名は控えたい。

 こちらをじっと見続ける透き通った青い瞳、最初は表情も乏しく無機質に感じたが無機質ではなく無垢と言った方が正しい気がする。そう感じ始めると何か意味のある名を付けてあげたくなる。

 女神像と【水の女神の守護石】で練成したし、それと絡めるか。水関係の女神か。ルミニエのことを考えると日本風の名前は合わない。でも水関係の神様の名前なんてゲームやマンガに出てくるものくらいしか分からない。ポセイドンとか? 響きからして全く合わないし、そもそも男の神様だ。なにか良いのがあるかな。えー、ゲームで確か前見たような。あれはなんだっけ。そうだ、ティアマトとかどうだろう。なんか海関係だったと思う。違う? 自信はないが多分そう。


「俺はこことは違う世界から来たんだが、元の世界には色々な神の名が残っているんだ。その中で海に関する女神であるティアマトから名前を借りようと思う。普段はティアと呼ぶ感じで問題ないか?」

「はいティアですね。これより私の名前はティア」

「それから俺の行動方針を教えておく」


 俺がこの世界に来た経緯と魔物を殺しまくって自分とルミニエを強化していき、最終的に魔物の侵攻口であるこの世界の穴を塞ぐことを説明した。説明中ティアは真摯に聞いており相当苦労するだろう数の魔物を狩る必要があると言っても厭う様子がない。

 それから職業を神官に変更した。何故か水属性の魔法は最初から修得済だったので攻撃手段はあることを考慮した。これが状態欄にある【女神の申し子】の効果じゃないか? 各職業には固有のスキルがあり錬金術師なら錬金術、神官なら神聖魔法である。ちなみに固有スキルを習得した後、転職した場合も固有スキルは失わないがスキルによっては弱体化するものもある。

 それにしてもこの世界は水の女神を信仰しているはずなのに、水系の魔法以外に神聖魔法とはこれいかに? 今度ルミニエと話す機会があったら聞いてみよう。それと俺の持っている魂ポイントでティアの職業も変更出来たので共有なのかもしれない。この推測が正しいのであればティアが倒した分の魂も手に入ることになる。ゴーレム練成で増やした仲間が倒した魔物の魂も俺に加算されるなら、これは大きな利点になる。あくまで出来ればの話だが。


「頼りにしているぞ」

「お任せください。主様の目的達成の一助となってみせます」


 ティアは俺のイメージするゴーレムとは姿だけでなく頭の出来まで違う。ゴーレム練成によって生まれたという先入観は捨てた方が良さそうだ。ティアにはもしかしたら俺が思っていた以上にしっかりと人格や知性があるかもしれない。俺が一から十まで指示を出さなくても自発的に考えることが出来るなら頼もしい存在になる。


「そう言えばこの辺りの魔物はさっき俺が倒したやつらで全部かな」

「いえ、まだいるはずです」


 ティアは「こちらへ」と出入口へと歩きだす。俺もそれに続く。

 神殿から外へ出ると滅びた村の風景が広がっていた。山間の川沿いに少しだけある平地に家と水路と畑だったものが隙間なく並んでいる。良い村だったのだろう。それも今ではかつて姿をなんとか想像出来るくらいにしか残っていない。そして、やはり魔物はまだいた。


「でっか」


 百メートル程離れた場所にちょっとした広場があり、そこが村の中心なのだが、遠目でも分かるくらい大きな人型の魔物が見える。この村の建物は神殿以外ほとんど平屋で、その魔物は肩の位置が屋根より高い。さっきまで相手していたゴブリンとは訳が違う。慎重にいくべきか。


「あれは……」


 呟くようなティアの声に俺は思考を一時止める。ティアは魔法をすでに用意しており、今にも魔物に向かって駆けだしそうな勢いだ。しかしいくらなんでも何も考えずに突撃するのは躊躇われる相手である。


「ティア待て、仕掛けるにしても俺が前だ。もう少し近づいてから俺の合図で魔法を使うんだ」

「はい、申し訳ありません。逸りました」

「仕方ない、お互い戦闘なんて素人みたいなものだ」

「そんなことは……主様の戦い振りは見事なものでした」


 女神像だった頃の記憶もあるのか。じゃあゴブリン共を殺しているところも見ていたのか。あれは力の差があっただけで手際よくやれた自信は無い。まあ美人に褒められて悪い気はしない。我ながら単純なものだ。


「ステータス的に見て俺が前衛でティアが後方から支援だ」

「かしこまりました。しかし主様を矢面に立たすのは心苦しいです」

「次にゴーレムを錬成したら改めて役割分担を決めれば良い。人数が増えれば陣形も組める」


 先の話はそこそこにしてデカブツへの接近を開始する。距離を二十メートルほど縮め壊れた家の影から様子を窺う。近づいたことで改めてデカいと思った。試しに鑑定スキルを使ってみる。トロールという名前だけしか表示されない。原因は距離の問題なのか、スキルレベルの低さなのか。とりあえず鑑定スキルのレベル上げてみる。魂を節約して普通に上げようと思っていたが、そんなことは言っていられない。ポイントがの残り六になるが背に腹は代えられない。鑑定スキルをレベル二にして再度トロールを鑑定する。



 【トロール】


 【レベル  1~5】

 【HP150~200】 【MP10~30】

 【生命力   150~200】

 【筋力    50~80】

 【防御    50~70】

 【敏捷    5~8】

 【魔力    10~30】

 【幸運    0~10】




 ステータス画面が出た、が数値は曖昧だ。鑑定スキルのレベルアップは最優先にした方が良さそうだ。それでも情報が何もないよりは随分助かる。それにしてもあんな巨人より俺の方が筋力や防御が上というのは、元の世界の物理法則からは考えられないものだ。今回はこちらが優位という形だが今後は逆もあり得る。弱そうに見える魔物がとんでもないステータスを持っている可能性について肝に銘じて置かなければならない。


「鑑定してみたがアイツは怪力とタフさが特徴で動きは遅い。ティアは距離を保つように」

「承知いたしました」

「よし、俺がもう少し近づいたところで右手を上げる。そこで魔法攻撃だ」


 声を潜めた打ち合わせを終え、忍び足でトロールに近づく。俺が右手を上げると間髪入れずにバスケットボールより少し大きい位の水球がトロールを襲う。水球は矢のような速さで相当な破壊力だと思うが、トロールはたたらを踏むにとどまる、流石の巨体である。だが奇襲にはそれで充分、もう俺は手の届く距離にまで近づけている。収納していたボブゴブリンのこん棒を取り出し、トロールの右膝目掛けて全力で横殴りにする。破砕音と共にこん棒とトロールの右膝がへし折れた。しかしがら空きの頭部に攻撃しようか、それとも距離をとろうかと迷ったのが良くなかった。トロールの倒れながらも振り回した腕に当たってしまう。衝撃があり視界がぶれたかと思うと民家の残骸に突っ込んでいた。


「ったぁ……まるで交通事故だな」


 しかし行動に支障をきたすような問題はない。俺も頑丈になったもんだ。体の上にある残骸を払いのけ立ち上がる。

 トロールに間断なく水球が襲い掛かっている。ティアが指示通りに一定の距離を保ちつつ攻撃を続けている。ただでさえ動きの遅いトロールなので片足が折れた状態なら距離を保つのは簡単だろう。コイツ相手には俺も近づかない方が効率が良さそうだ。もしくはマシな武器があれば話も変わるかもしれないが。それはさておきボーっと見ているわけにはいかない。その辺に転がっている石を拾ってトロールに投げる。


「結局投石かよっ」


 片足が使えなくなり這いずるようにティアを追おうとしているトロールに対し、俺の投石とティアの水球が着実にダメージを与える。あまり見栄えは良くはないが今すぐ実行出来る一番簡単な攻撃手段がこれだから仕方がない。

 俺の三投目の投石がトロールの頭部に直撃、タフなトロールもついに力尽きた。野球なら危険球で俺が退場なのだが、これは野球ではないのでこの世から退場するのはトロールの方だ。


「お見事です。流石は主様です」

「やめろって、吹っ飛ばされるとこ見てただろ。情けない姿を見せちまったな」

「いえ大きな傷もなく完勝と言えると思います」


 お世辞や皮肉ではなく本気で言っているのが感じられて非常に気恥ずかしい。揶揄われるくらいの方が笑い話で済んで気楽なのだが。それにしてもティアは表情こそあまり変わっていないがかなり興奮しているようだ。女神像時代の記憶が影響しているのか。村を滅ぼしたであろう魔物たちの中でもこのトロールに対して特に思うところがあったようだ。


「俺が一撃もらった時にトロールの追撃がなく立て直せたのはティアのおかげだ。助かった」

「お役に立てたでしょうか」

「ああ、もちろん」


 それならば良かったと微笑むティアだったがどこか思い詰めているようにも見える。そこで俺はあえて軽い調子でトロールの死体を収納しつつ成果について話し始める。


「それにしても一番手間がかかった分、得たものも多いな。魂もゴブリンの十倍以上だぞ。二人ともレベルも上がっているし」



 【レベル   8】

 【HP70/106】 【MP94/104】

 【生命力   106 (7)】

 【筋力    163 (6)】

 【物理防御  143 (6)】 

 【敏捷    148 (6)】

 【魔力    104(10)】

 【幸運    27】

 【状態  病気、女神の加護(中)】

 【職業  錬金術師】


 【ティア(ティアマト)】

 【レベル   3】

 【HP38/50】 【MP258/296】

 【生命力   50(12)】

 【筋力    43(12)】

 【防御    44(14)】

 【敏捷    31 (8)】

 【魔力   296(16)】

 【幸運    10】

 【状態 女神の申し子、女神の加護(小)】

 【職業 神官】



 職業を錬金術師に変えた為ステータスの成長値も変わっている。前は全て七揃いだったのに今回はバラバラだ。それにしても魔力が特別伸びているが魔法のスキルを後で何か獲得した方が良いな。ティアも魔力が最も上昇している。バランスを考えたら俺が筋力上げた方が良いのだろうか。これも後で考えないとな。


「ティアは一気に二つも上がっているな。この調子でどんどん上げていこう」

「もっとお役に立てるよう全力を尽くします」


 相変わらずティアは表情こそ変わらないが、何となくやる気自体は伝わってくる。俺も負けていられない。

 ティアは完勝と言ったが先程のトロール戦は反省点が多かった。大きなダメージこそ負わなかったがこちらが身構えてなかったせか、あんなに吹っ飛ぶとはな。一瞬ではあるが戦闘不能と同じようなものだ。もしあのトロールがゴブリン共と一緒にいたら最悪な展開になったかもしれない。俺が吹っ飛ばされている間にティアがゴブリン共に囲まれる。そう考えただけでもティアが傷つけられる恐怖を感じる。と同時にただの想像でも魔物への怒りが沸々と湧き上がってくる。

 今のところ俺自身が魔物から酷く傷つけられたり、大切な者を殺されたりしたわけでもない。何故か強い怒りと使命感が俺の中にある。これは魔物に滅ぼされたこの村が俺にそう感じさせているのだろうか。

非常に便利な鑑定スキル、だがあくまで人間の枠に収まる設定になっている。分かるのは性能や材質など表層的な情報が主となる。しかし神ならばその物に刻まれた想いや歴史を読み解くことも出来る。ルミニエと女神像だけが知る女神像の物語。


【ロングッド村の女神像】

第一段階

女神を模した石像。腕の良い職人によるもの。


第二段階

村創設時に神殿建設にともない彫像された。素材は白系統の大理石。

多くの村人たちの営みを、村の歴史を、そしてその終わりを見続けた女神像。


第三段階

長く村の信仰の中心であった女神像は既にただの物ではない。時に喜び、時に悲しむ。村人の喜びは彼女の喜びであり、村人の悲しみは彼女の悲しみである。


第四段階

女神像は子供の遊ぶ姿が好きだった。女神像はかつての子供たちが大人になり新たな家族となるため神殿に訪れる姿が好きだった。時が流れ、老いたかつての子供たちが永い眠りにつく時は暗い気持ちになったが、安らかな眠りとなるよう願った。


第五段階

全てが踏みにじられた。勇敢に戦った大人は瞬く間に魔物の群れに飲み込まれた。森に逃げた者達は魔狼に一人、また一人と確実に狩られていった。老人は子供達とともに教会に立て籠もる。村では一番堅牢な扉も怪力を誇るトロールの前には何の役にも立たなかった。魔物が雪崩れ込んだ神殿は血の海となり、女神像の目の前で村の最期は訪れた。







第?段階

自らのなんと無力なことか。女神様を模して作られ、皆が私を女神様と呼ぶ。救いを求める声が聞こえる。しかし私には何の力もない。私は何者なのだ。私は何の為に存在する。




誰もいなくなった神殿に聞く者もいない祈りが今日も木霊する。

ああ誰か、この魔物どもを殺して。子供達より無惨に引き裂いて。

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