第三話 錬金術
俺を異世界に連れてきた自称女神が悪魔か邪神かもしれない件について。
まあ冗談はともかくとして錬金術師になるのにどのくらい魂が必要なのか、ステータス画面から確認してと。錬金術師になるのはたった十ポイントで済むことが分かった。今の俺はさっきのゴブリン倒した分の魂しか持っていないがそれが三ポイントである。逃げた奴も追いかけるべきだった。
「ちょっとさっき逃げた奴ら倒しに行ってくる」
「んーでも向こうから来てくれそうだよ」
外が急に騒がしくなる。ぎゃあぎゃあ騒いでいるのはゴブリンだろう。そこに野太い雄叫びが加わる。ゴブリンより大型の魔物がいるようだ。しかし加護によって活力が満ち高揚している影響か、恐怖はあまり感じない。
ちらっとここで魔物に殺されたと思われる人の骨や衣服の残骸を見る。ゲームや小説で間接的だが多くの悲劇が起こり、さらにそれが増えていくことを知っている。だが、改めてここで本当に魔物に殺された人がいると実感して憤りは強くなった。
一際大きな雄叫びが聞こえ、出入り口からゴブリン共がわらわらと現れる。遅れて身長が確実に二メートルを超えている大型のゴブリンが入ってくる。ゲーム的に言えばボブゴブリンだな。強さはゴブリンよりは強いに強いが何倍もと言うほどではない。
ゴブリン共は十匹以上二十匹未満で俺を囲もうと広がる。正面からボブゴブリンがドスンドスンと体格の有利さを誇るように自信たっぷりに近づいてくる。手には丸太のような太さのこん棒を持ち、嗜虐的な笑みを浮かべた。侵攻してきている魔物はルミニエ姉の世界のものとのことだが、こんな不快な生き物を創るなんて悪趣味だな。
ボブゴブリンの歩みはしだいに速くなり走りに変わる。もう数歩と言う距離でボブゴブリンは雄叫びを上げながらこん棒を振り上げる。そのタイミングで俺はボブゴブリンの懐へ一足飛びに入り、がら空きの鳩尾に拳を突き出す。
ぐちゃっ。
うげえ、気持ちわりぃ。予想外に前腕部の半ばまで突き刺さっちまった。生き物の体の中に腕が入っている感覚が嫌すぎる。すぐに抜いたが血や何か分からない体液でヌチャヌチャしている。
「きったねえ」
「うわっ気持ち悪」
ルミニエが実体じゃないくせに俺から二歩、三歩と離れやがった。
ボブゴブリンは痙攣しながら蹲っている。頭が低い位置でちょうど良いので軽く蹴ってやれば首が曲がってはいけない方向に曲がる。俺を囲もうとしていたゴブリン共は明らかに動揺している。怯えている奴、慌てて他の奴に喚いている奴など色々だが俺の行動はもう決まっている。ゴブリン共が入ってきた正面の出入口へ全力で走る。
出入口付近には三匹ゴブリンがいる。走り寄りながら一匹を勢いのままに右手で殴れば、まるで交通事故のように吹っ飛んで地面で跳ねて転がる。返しの左の拳でもう一匹仕留め、逃げようと背を向けた三匹目の首を掴んで動揺して動きの止まっている他のゴブリンに投げつけてやれる。結果はギリギリ原型をとどめているといった感じだ。そのまま俺は出入口に陣取る。
「これで一匹も逃げられないだろ」
コイツらには全員ポイントになってもらおう。これがポイ活ってやつかな。俺の陣取る出入口以外にも扉はあるが閉まっているので開けようとしているうちに今の俺なら追いつける。とりあえず近くに倒れているゴブリンだった物を掴んでルミニエの幻影にちょっかいを掛けているゴブリンに投げて始末する。
「キャッ、飛び散ったぁ!!」
ルミニエからの非難が飛んでくる。ルミニエは実体じゃないんだから汚れないし別に良いだろ。俺なんてもう血やらなんやらでドロドロだぞ。どうするんだ、この汚れ。今気づいたけど俺入院用の患者衣じゃねーか、そのうえ素足。服や靴が無いとこの先困る。それと武器も欲しい。戦うたびにこんなに汚れていたら堪らない。感触も気持ち悪いし。そんなことを考えながら手近にいるゴブリンから順に処理していく。最後あたりになるとゴブリンも生き残るには俺を倒すしかないと理解したようで、吠えながら一斉に襲い掛かってきた。手間が省けた。集中するとゴブリン共の動きが少しスローになったように感じる。コイツらの攻撃くらいなら当たっても痛くはなかったが、あえて当たらなくてもよいので余裕を持って回避しつつ殺していく。
あらかた始末し残りはどこかな、と確認する。残っていたのは二匹で、二匹ともルミニエを襲っている。ルミニエは実体ではないから襲い掛かってもすり抜けて続けている。コイツら女への執着が凄い。ゴブリンの嫌いな点が増えたな。
「早く助けてよぉ」
「実体じゃないんだからなんともないだろ」
「気持ち悪いのッ」
それはそうか。ルミニエにご執心なあまり俺の接近に気付かなかったゴブリン二匹の頭を掴んで捻ると首が本来曲がらない角度に曲がる。この短時間で俺の存在を忘れて女を狙い続けるなんて本当に気持ち悪い生物だ。ゴブリン殺すべし。それはさておき殺した魔物の死体は全て収納しておく。素材に使えるかもしれないし、冒険者ギルドみたいな所があるなら討伐報酬を得られるんじゃないか?
敵を倒し終えやっと一息ついたところで、早速職業を錬金術師に変える。その際レベルがあがっているのが分かった。ステータスの横にあるカッコ内の数字はレベルアップ時の上昇分だろうか。一レベルアップで七という数値が高いのか低いのかは分からないが縁起は良いな。
【レベル 7】
【HP70/99】 【MP94/94】
【生命力 99 (7)】
【筋力 157(7)】
【物理防御 137(7)】
【敏捷 142(7)】
【魔力 94 (7)】
【幸運 27】
【状態 病気、女神の加護(中)】
【職業 錬金術師】
スキル
アイテム
奉納
ついでに絶対持っておいた方が良さそうな定番スキルも取得しておく。【鑑定】【言語理解】はマストだろう。それらを獲得して奉納ポイントは残り二十一になった。スキルにもレベルがあり上限が五。当然のごとくレベルは高ければ高いほど多くのポイント、魂が必要になる。スキルは使い込むことによってもレベルアップが可能らしいのであえて一レベルしか取っていない。
「とりあえずはこんなもんか。後から意外な物が必要になったりした時用に残しとこ」
「そうだねー。上手くやっていけそうだし説明はもう終わりかな。最後にこれ」
ルミニエが両手をこちらへ差し出すと青白い光が一度じんわり広がり、次に一箇所に集まり始める。光の青さが濃くなっていき結晶と化した。宙に浮いているそれをルミニエに促され手に取る。サイズはゴルフボールくらい、形は楕円形の多面体、色は青く何処までも透き通るような宝石だ。
「私が今してあげられるのはこのくらい。がんばってね」
宝石は見るからに高そうなうえ持っているだけで力が伝わってくるような感覚がある。これは相当凄い物だと貰ったばかりの宝石に鑑定スキルを使ってみる。
【水の女神の守護石】
水の女神がその力を結晶化させて信者や眷属に与えた物。。当該女神の加護強化。当該女神との同調率が上がりやすくなる。
「また出た同調率」
「何が不満なの? 上がれば良いことばっかりだよ。私との繋がりが強くなって加護も強化されるんだよ~」
〇ヴァ〇ゲ〇オ〇のシンクロ率みたいに上がりすぎると同化したり取り返しのつかないことにならない?
「繋がりが強くね……」
「良いじゃん。私との、だよ。みんなに人気なのに~」
駄々をこねるように不満を漏らすルミニエは可愛いは可愛いのだが、それはそれである。
「なんでこんなに疑り深いのぉ。ん~でもこのくらい慎重じゃないとやっていけないだろうし、ん~」
「頭お花畑な奴だとこの世界ではすぐ死ぬんじゃないか」
「そうだね」
納得してもらえた。そこすぐに納得するあたりどれだけ世界が乱れているか察するに余りある。それと俺が不安を感じるのには理由があって、それはステータス画面には同調率の項目が無いんだよ。同調率はいわゆる隠しパラメーターなのだ。わざわざ項目を設けるほどではなかっただけかもしれないんだがちょっと腑に落ちない。まあ疑い出したらキリが無い。今は気持ちを切り替えて先にやることをやろう。
そう、それは鑑定だね。
とにかく周りにある物全てに鑑定スキルを使用していく。使えば使うほどレベルが上がるらしいし、何よりほぼ手ぶら状態の俺には物資が必要なのだ。ちなみにルミニエも鑑定した。結果は「すごいめがみだ」と出た。今のところ使えるものは見つかっていない。後はここに連れてこられて最初に見つけた石像だけだ。
【ロングッド村の女神像】
村創設時に神殿建設にともない彫像された。
「女神、像……どこの女神?」
「私、わたし」
「似てねえ」
「私の姿を見たことがある人間なんてほとんどいないからね。私に会ったこと自慢して良いよ」
「それだと自慢なんてしても誰も信じないだろ」
なんか格好つけてるルミニエと女神像を改めて見比べる。女神像はルミニエと違い大人の女性だ。スタイルの良い知性的な美女である。
「価値のあるものだと思うが持ち歩ける物でもないしな」
「あっスキルの収納で何とかなると思うよ」
「……説明すべきことまだ残ってるじゃないか」
ルミニエは目線を逸らしている。そういうところだぞ。すぐに魂を奉納し【収納】を獲得する。それから試しにボブゴブリンが持っていた丸太のようなこん棒に触れて収納と言ってみると一瞬で消えた。ステータス画面からアイテム欄を確認したらちゃんと入っていた。滅茶苦茶便利。これの説明忘れているとか、悪気はないんだろうけどホントに抜けている。同調率に関してもルミニエが問題だと思っていないだけで、俺にとっては不都合な影響とかあるんじゃないかと不安を感じるのだ。
女神像も持っていけることが分かった。しかし鑑定の説明を見てしまうと、この村にとって特別そうだし町に持って行って売るのは気が引ける。それに女神像の目が何か訴えかけているようでこの滅んだ村に放置するのも罪悪感がある。
どうしたものか思い悩んていたら、ふと職業を錬金術師にしたことが頭をよぎった。そうだ、ゴーレム練成で手数を増やすつもりだったんだ。この女神像とついでにルミニエに貰った守護石を素材に練成すれば良いんじゃないか。
練成はステータス画面の職業欄にある【錬金術師】の項目から行える。押すと練成リストが出てきて作りたい物に必要な素材も分かるようになっている。ゴーレム練成には核となる物と体の材料になる物が必要になる。
ゴーレムの核は魔石や魔結晶などの魔力が物質化した物が使用されるとあり、【水の女神の守護石】はその条件に入っているらしく素材欄で選択出来た。体の材料の方も普通の石で出来るので女神像も問題なく選択出来た。ただの石でも良いのに既に女神を模した形になっており村の信仰の対象にもなっていたのだから絶対良い影響がある。それに女神像と像のモチーフである女神自身から貰った守護石は相性抜群のはずだ。そう考え始めるとこれしかない最高のアイデアのような気がしてきた。
売るならともかく世界を救う手助けをしてもらう為、新たな存在に生まれ変わらせるのであれば誰かに後ろ指を指されることもないだろう。俺は躊躇いなく練成開始の項目を押す。
「え、ちょ、ああああ!?」
女神像と青い宝石でゴーレムを錬成開始。それを見てルミニエが驚愕の声を上げる。
女神像が青白い光を放つ。なんだか存在感もビシビシ感じる。光がゆっくりと収まっていくにつれ石で出来ていたはずなのに、服の部分は布の質感に、装飾品の部分は金属や宝石に、肌は生身に、髪の部分もちゃんと本物の青みがかった髪に、目の部分は瞳が練成に使用した宝石のような透き通った青に変わっていく。想像していたゴーレムと大分違う。動く石像をイメージしていたのだが。
「すごい」
「ななななんで使っちゃうのよ」
「すごい」
「あれ貴重なんだよ。神殿の人に見せれば伝説級の代物だって崇め奉られてもおかしくないんだよ」
「すごい」
「そうだよ。すごいんだよ」
俺がすごいしか言えないbotになっているうちに、女神像は完全に本物の人間のようになっていく。そして変化し終わると俺の前で片膝をついて頭を下げる。
「我が主よ、なんなりとご命令を」
「おお喋った」
「喋るくらいするよ。元から魂が宿っていたんだから」
驚く俺にルミニエは不貞腐れたように言う。俺にとって女神像の変化は全く想像していなかったもので、まだその衝撃から抜け出せていないのだがルミニエからすれば別に驚くようなことではないらしい。
ルミニエは散々文句を言った後、右手を握り込みそれを左手で包んで見るからに力を振り絞る。青白い光を放ち握った右掌の中へと収束する。掌を開くと形は練成に使った物と同じだがサイズは先ほどより小さくビー玉くらいの宝石が出来ていた。ルミニエはそれを俺に押し付けてきた。というか実体ないのにこの宝石や俺には触れられるのか。どうなっているんだ。
「これは、はあ、はあ、はあ、ホントに、はあ、貴重で大事な、はあ、物だから」
ルミニエは息も絶え絶えといった様子で今度失くしたら体に埋め込むからねと恐ろしいことを言って姿を消した。力を使い過ぎたのだろう。