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第二話 初戦闘と全ての元凶

 俺が神様であっても何でも出来るわけじゃない。そう納得していると不意に獣臭さを感じた。非常に嫌な予感がして辺りを見回す。建物内には俺達以外に何もいない。普通の民家にあるような扉が二つありこれは施設内の他の部屋に繋がる扉だろう。それから外と行き来するための大きな出入り口あり、壊れて用をなさなくなった分厚い扉の残骸が残っている。そこから緑色の醜悪な顔をした小柄な人型の魔物が三匹入ってきた。ファンタジーでお馴染みゴブリンだ。


「おいおいおい魔物いるじゃんっ」

「当たり前でしょ。魔物に滅ぼされた村なんだから、もうここは魔物の勢力圏よ」

「そんな所へ急に転移させんな!」

「慌てなくても大丈夫だって、私の加護を与えているんだから」


 こちらのやり取りなど関係ないゴブリン共は、俺達を指差し何か喚いている。言葉の意味は分からないが俺にとってろくな内容じゃないのは確かだ。それから不幸なことにゴブリンたちは粗末だが武器になりそうな物を持っている。そして最悪なことに俺は手ぶらだ。


「な、なんか武器ないのか」

「あんなの相手にいらないって」

「ホントかよ!?」


 ルミニエは余裕たっぷりに言っているが、お前は本体じゃないから安全だろ。危険なのは戦う俺だけだぞ。

 こちらの話し合いよりゴブリン共の話し合いの方が早くまとまったらしく、ジリジリ距離を詰め始めた。相手の武器はそれぞれボロボロの包丁っぽい物、雑な作りの石斧、それから拳くらいの石。石を持っているゴブリンが早速それを振りかぶる。ただの投石でも痛いし当たり所によっては死ぬ。ビビった俺は咄嗟に両手を顔の前に、そして投げられた石は俺の肩に当たる。強い感触、しかし。


「いっ……たくない」

「だ、か、ら、言っているでしょ。大丈夫だって」


 こんな急展開で大丈夫と言われた「はいそうですか」と鵜呑みにする奴なんていねえよ。クソ、ビビッて恥ずかしい。石をぶつけてきたゴブリンは醜悪な笑顔ではしゃいでいる。それを見て沸々と怒りがこみ上げてくる。俺は肩に当たって落ちていた石を拾い上げ、ソイツ目掛けて全力で投げる。


「調子乗ってんじゃねえ!」

「ゲボェッ」

「え?」


 怒りに任せた投石は一撃ではしゃいでいたゴブリンの上半身を弾けさせた。めり込んだとか潰したとかではなく当たった部分とその周辺が肉片に変わってしまった。想定外の威力に唖然としてしまう。

 残り二匹のゴブリンは俺以上に驚き、しだいに怯えて逃げ出す。追うべきか迷ったがこのとんでもない威力の投石について先に聞きたいので放置する。この感じなら例え仲間を引き連れてきても問題にはならないだろう。


「なあ加護と一言でまとめているけど、どんな効果なんだ。これもう人間業じゃないぞ」

「私の加護は生命力や活力と呼ばれているものを増進したり、まあ元気になるってこと」

「なんでそこテキトーなんだ? 元気になるってレベルじゃないだろ」


 俺の疑問にルミニエは死んだゴブリンの死体を見て少し考えこむ。


「うーん確かに思ったより強くなってるね。この世界では普通産まれた時から少しは加護を与えているし、育つ過程でもさらに少しずつ加護が増えていくんだけど、君の場合加護が全く無い過酷な状態で育ったから素の能力が高い、のかな?」

「産まれた時から加護?」

「君の世界では加護は無いよ。あそこの管理者は基本もう干渉しないからさ」


 なにか深堀したい話が出たが一旦置いておこう。つまり元居た世界の方が過酷で鍛えられていて、そこに加護を上乗せしたから想定以上の効果が出たのか?


「ちなみに私の加護のおかげで君の病気も症状が改善されているんじゃない? んーどれどれ改善してるね」

「俺死んだもんだと思ってた。死んで転生させられたのかと」

「異世界に新しい肉体を創って死んだ人の魂を入れるのって力いっぱい使うから」


 移動させるだけの方が燃費が良いのは分かる。どっちにしろ魂は持ってこないといけないみたいだし。


「改善ということは完治はしてないんだな」

「加護は今後同調率が高くなればなるほど強くなっていくから、それで治るよ。多分」

「全部テキトーだなあ」

「ちゃんと他にも手はあるから。ほらステータスって言ってみて」

「ありがちな……ステータスっおおお!?」




 【レベル    6】

 【HP 70/92】

 【MP 87/87】

 【生命力   92】

 【筋力   150】

 【防御   130】

 【敏捷   135】

 【魔力    87】

 【幸運    27】

 【状態  病気、女神の加護(中)】

 【職業  無職】


 【スキル】

 【アイテム】

 【奉納】



 ゲーム画面そのものが目の前に広がる。


「完全にゲームじゃん」

「便利そうだから取り入れたの。ここ、君の場合職業無職ってあるでしょ。上位の職業の中には病気くらい無効しちゃうようなのもあるんだから。手段はいくらでもあるから好きなので治せば良いよ」

「へえ。ん、無職ちゃうわっ病気で休職中だ」

「この世界では何の職にも就いてないじゃん」

「ぐぅ……この世界を救えって言うだから勇者とか救世主で良いだろ」

「自分で勇者や救世主って言っちゃうんだ」


 にやぁと笑うルミニエに俺は頬が熱くなるのを感じる。勇者とか救世主というのは別に変な意味ではなく、こういう場合の定番だろ。


「それからさ、こっちの奉納の方で加護を強化したり色々獲得出来るからよろっ!」

「ほうのう? ああこの【奉納】って項目ね」


 奉納って食べ物や酒とかで良いのかな。それとも神社や教会みたいな所でお布施するとか。なんだったら神楽舞なんてものもあるし、奉納するものによって効果も変わるんだろうな。具体的な話を聞こうとしたらルミニエが先に別の話を切り出した。


「さーてお薦めジョブも教えておこうかな。断トツお薦めなのは君もさっき言ってた勇者!」


 そらそうだろ。そんなん予備知識無くても出てくるわ。ロープレ定番の主人公職じゃん。ロストタイズのコンシューマー版の主人公も勇者だし普通に考えればコレ一択だろ。


「ゲームだと全てのステータスが成長しやすいオールマイティーなんだけど何か違いはある?」

「ゲームは詳しくないけど、まあそんな感じだね。」

「なあ魔物の侵攻は魔王とか邪神みたいなのがいて、そいつを倒せば解決するのか?」


 魔王さえ倒せば解決するなら勇者は最適解だ。個としての強さでは勇者が頭1つ抜けている。ゲームで登場する他の上位職は大体強力だがそれぞれ物理防御が弱いだとか、攻撃手段が限られるなどの欠点がある。それに対して欠点が無いうえ強力な固有スキルもある勇者は相手が少数もしくは個の場合、レベルで負けていなければ無類の強さを誇る。レベルを上げて固有スキルでブン殴る暗殺まがいの強襲が狙えるんだが、そこんところどうだろう。


「あー……うーん……」


 なんで言いづらそうなんだよ、お前。怪しい、怪しくない? 原因コイツじゃね? やっぱ邪神?


「……話せば長くなるのですが」

「急に畏まるなよ、なんか怖いんだけど原因は自分とか?」

「んーまあ、あー、んー、そういう面もないことはないかもしれない」


 コイツは邪神? たぶんそう、部分的にそう。めちゃくちゃ悪質なマッチポンプだな。


「そんな目で見ないで、違うんだって私のせいじゃないから。私にはお姉ちゃんがいるんだけど侵攻してきている魔物は、お姉ちゃんの世界から来てるから」

「姉が邪神……邪神の妹は邪神では?」

「違うから! 生命のサ、サイ、サイクルとか生存キョーソー? が激しいほど世界自体も活性化して良い感じになるの。それでお姉ちゃんの世界はやりすぎちゃって魔物であふれちゃったの。で、私とお姉ちゃん属性も同じでお姉ちゃんの方がちょっとだけ、ホントにちょっとだけ強いから世界と世界が干渉しあって行き来できる穴で繋がっちゃったんだ」


 ゲームや本では魔物の侵攻の原因は出てこなかったが、実際はこれか。これは不可抗力と言って良いのか。でも意図したわけではないにせよ、原因であるルミニエ姉が何とかして欲しいものだが。


「じゃあ、とりあえずルミニエのお姉さんに穴を塞いでもらおう」

「寝てるから無理」

「はぁ? キレそう」

「怒らないでよぉ。穴を塞ごうとしたけど塞ぎきれなくて力の使い過ぎで休んでるの」

「いつ起きるんだ」

「百年くらい先かな」


 頭が痛くなってきた。百年戦い続けてくれとは言わないよな。そんなゲーム昔あったんだが。加護で生命力増進とか言ってたの、それで延命して百年戦い続けろってこと?


「きついって。百年戦い続けろって。それか穴から出てくる魔物全部倒すのか」

「大丈夫。私に良い考えがあるから」


 良い笑顔を浮かべるルミニエは神懸かった可愛さの美少女だ。しかし俺には嫌な予感しかなかった。良い考えがあると言ってそれが本当に良い考えだったことなんてあるのか。フラグにしか聞こえん。


「君が魔物を倒す。倒した魔物の魂を私に奉納する。私が奉納された魂の半分で君を強化、君はさらにいっぱい魔物を殺す。君すっごい強くなる。いっぱい殺す。いっぱい奉納。残りの魂で私も強くなって穴を塞ぐ。どう?」

「この自称女神すっごいキメ顔で滅茶苦茶言ってるよ。しれっと魂捧げることを要求しているんですが、簡単に尻尾出したな、この悪魔、邪神」

「神様だって無い袖は振れないの。拝んでもらっただけで何でも出来たら苦労しないんだから」


 世知辛い世の中だな。無い袖は振れない女神でも。邪神疑惑は深まったがこれを言われたらこっちも何も言えん。


「それにしても【奉納】の対象は魂かよ。祈りや食べ物やお布施とかじゃないのか」

「チッチ、祈りじゃお腹はいっぱいにならないんだよ」

「イラッとくるな、こいつ」

「正直に言えば効率が悪いの。祈りや普通のお供え物より魂の方が手っ取り早いからさ」


 だがそういうことなら勇者はやっぱ無いな。大量の敵を一気に倒すようなスキルは無かったはずだし、奉納する為の魂を稼ぐには他の職業の方が良さそうだ。それに先程のマヤトガの話からも分かるように勇者で無双しても国全体を救うのは難しい。勇者は強い、間違いなく強いが相手は幾つもの国を滅ぼしていくような大群だ。倒しきった時に自分のいる場所以外は壊滅してましたでは本末転倒である。


「手数が増やせる職業が良いな。死霊術師、魔物使い、生産職寄りの錬金術師あたりも良いか」

「死霊術師はダメ、異教、火炙り」


 ルミニエが両手を×にして首を横に振っている。魂を奉納しろと言っている奴が何言ってるんだか。しかも火炙りって、お前水の女神だろ。なんで火なんだよ。水に流せよ。


「この世界では当然みんな私を信仰しているんだけどね。一番大きな水神殿って呼ばれているところが、なんか厳しいし過激なんだよねえ」

「本人はこんなに緩いのにな。じゃあ魔物使いもマズイな」

「魔物なんて操ってたら魔物侵攻の黒幕だって襲われちゃうかもッアハハ」


 笑い事じゃない。魔物だけでも絶望的な戦いなのに人類からも狙われるなんて、手数増えてもそれ以上に敵が増えたら意味がない。


「消去法で錬金術師か。直接的な戦闘能力は上がりづらいけど、作ったアイテムで自分以外も強化出来るしゴーレム練成で手数も増やせるから状況的には合ってる」

「君の場合、今の時点でステータス結構高いし戦闘能力は大丈夫そうだから良いかもね」

「あとは錬金術には素材がいるのが問題か」

「それは奉納で解決出来るよ。職業もスキルもアイテムも何でも奉納で手に入るから積極的に利用してね」

「うーんこの悪魔。あんたソシャゲに登場したことない? 普段緑の服着ていたりしない?」


 ルミニエは「どういうこと?」と首を傾げている。

 話は通じていないが、通じなくてむしろ良かった。コイツはソシャゲに詳しかったら絶対ガチャを導入していたはずだ。(殺した相手の)魂で回すガチャ……邪悪すぎる。十回分の魂で十一個アイテムが手に入るとか、十連ガチャでSR確定とか、二百回が天井でSSR確定みたいになるんだろ。あとちょっとで天井だからと必死で獲物を探す自分の姿なんて想像したら、もうどっちが魔物か分からん。


「しかし奉納でそれだけ色んな事が出来るなら何でこの世界こんなに追い込まれているんだ?」

「このステータス画面から魂を奉納するシステムは君だけだよ」

「なんでだよ。こんなに便利なのに」

「同調率が高くないと出来ないんだよ」


 また出た同調率。というか俺ってそんなに同調率高いの? なにと同調してんの? ルミニエとか? そんなに考え方とか近いようには思わないんだが。


「儀式としての奉納は普通に誰でも出来るけど効率が良くないんだよねえ」

「効率? 何の効率?」

「私に送られてくる魂も全量漏れなく届くわけじゃないし、それを使って私が何かしてあげる場合も余計に消費するんだよねえ」


 じゃあ同調率が高いのお得かも。そう簡単に思ってしまうのは素直過ぎるか。


「でも率が悪くても俺一人がやるより、多くの人が奉納した方が良くないか?」

「魔物なんて死んだら魂がすぐ抜けて、それも分解されて魔素として周囲にばら撒かれるから難しいよ。考えても見てよ。ただでさえ普通に戦って押されているのに、大量の魔物を生け捕りにして来て祭壇に捧げて殺していくの? しかも君に比べれば見返りも少ないよ」


 難しいか。大量の魔物を生きたまま神殿の祭壇に捧げる。多くの人員と犠牲が必要だろう。普通に倒すよりリスクと労力が相当増える。


「というか想像したら完全に邪教の儀式だな」

「それは君の先入観のせいだよ。さっき私のこと邪神だなんだって言ってたから」

「そうか?」

「もう一回思い浮かべてみて」


 ルミニエは歌い出すように明るく弾んだ声を紡ぐ。俺はそれをとりあえず黙って聞く。


「荘厳な神殿、大きなステンドグラスから日の光が差し込み神聖な祭壇はより貴いものに見える。そこへ敬虔な信者達が清らかな笑顔を浮かべ供物である魔物を連れて来る。神殿内には朗々と女神である私を讃える歌が響く。祭壇に捧げられた魔物の心臓を剣が貫く、そこに怒りや憎しみなどは無く、ただただ救世への祈りだけが」

「怖い。最初に俺が想像した百倍怖いよ。絶対悪質な洗脳とかしてんじゃん」

「確かに自分で言っててちょっと気持ち悪かった」


 ルミニエは溜息を一つ吐いた後、そんなこんなで普通の人達に奉納はあまり期待していないと言った。祈りや普通の供物(食べ物などの産物)などで微増するだけで十分だと思っているらしい。


「まあ普通の人は魔石を貯めてそれを神殿で奉納して職業やスキルを得るから、魂の奉納なんてしないよ」

「一応手はあるんだな」

「人類の戦力を少しでも強化する為にやってるだけ。私からすればプラマイゼロだよぉ」


 意外と女神も苦労があるんだ。それと流石にちゃんと考えてはいるんだな。ちょっとだけ安心した。このヤバそうな世界を行き当たりばったりで運営している女神に運命を委ねるのは流石に無謀だからな。


「だから君は魔物対策の目途が立ったら、見返りを求めず魂を奉納してくれても良いんだよ」


 にっこりえがおのめがみさまかわいいなー。

 ルミニエは百点満点の女神フェイスでとんでもない要求をする。こんな奴の世界で俺はやっていけるのだろうか。


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