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第二十三話 提供

都市ヴィルト近郊 農地跡 スワ・シドー


 イレミアナ主催のお茶会から数日、俺は予定の多くを消化し終えていた。冒険者ギルドへ赴き魔物の死骸の解体を依頼し、ついでに出されている依頼の傾向や所属している冒険者の数などを調べた。それから冒険者ギルド以外の場所もそこそこ見て回った。インスラーテ家が案内役として従者を付けてくれたおかげで、この都市の状況も大まかには把握出来た。


 会食やお茶会で話に出ていたアイテムについても全てインスラーテ家に提供し終えた。あくまで今回渡した物はサンプルで、あちらが希望する物を追加で売ることになっている。俺から代金について話していなかったが、インスラーテ家側から切り出して来た。本格的な金策についてはあまり考えていなかったが、貰えるものは有難く貰っておく。


 そんなこんなである程度急ぎの仕事を終えた俺達は、大量に消費してしまった奉納ポイント(魂)の補充の為、あと強化したり、新規で取得したスキルの慣らし運転を目的として都市の外に魔物を狩りに来ている。今いるのは魔物に荒らされた農地だ。


 俺はルミニエと共にゴブリン共と戦うティアを見守る。近接戦闘や体捌きに補正がある【体術】スキルをレベル三にしてある影響か、ティアは襲い来るゴブリンが複数でも危なげなく戦っている。


「離れている相手には水や氷の矢、近付いて来たら高圧の水流で押し返したり態勢を崩したり、戦い方に幅が出来てるね」


 ティアの戦い振りに感心するルミニエ。ティアは一つの戦い方に固執するのではなく、戦いの中で自分の引き出しを増やしていっている。同じ経験をしてもより成長する人とそうでない人がいるが、こういう点で差が付くのだろう。


「ティアは今後の成長に期待大だな。ルミニエの方は順調なのか。毒電波で信者を洗脳しようとしてたんだっけ?」

「ど、く、じゃ、な、いっ!」

「大きなことはしないって言うから止めなかったけど、あんまり酷いことはするなよ」

「私をなんだと思ってるのよ」

「ノーコメントで」


 現代人である俺の感覚から見れば、多神教の場合倫理ガバガバでノリと勢いで行動しているような神様もいる。日本神話やギリシャ神話ではそういうエピソードが珍しくも無い。ルミニエはこの世界では一神教だが姉もいるようだし、元は多神教の神だろう。つまりそういうことだ。


「それで大丈夫だったのか。電波の被害者の方々は? ん、もしかしてアルミホイルを売るチャンスか」

「甘いね。アルミホイルくらい貫通するから」


 ルミニエが自信満々に言い放つ。電波は認めるんだな。しかも貫通するって害悪仕様過ぎるだろ。


「それ絶対悪用するなよ」

「同調率が高い人達にちょっと夢を見せただけだから問題なんて起こるわけないよ」

「夢、ね。俺にもそれやってたって話してたよな」

「同調率が高い相手だと力をあんまり使わなくて良いから便利なの。今回は救世主が現れるから協力しようね~、みたいな緩い感じにしといたから。これなら当たり障りないでしょ?」


 それなら劇的な効果は無いがリスクも低いだろう。近いうちに俺も水神殿に接触するか。ルミニエの見せた夢の救世主と俺を同一視するかは分からないが意識するのは確実だ。


「そっちはどう? 御結婚おめでとうって言った方が良い?」

「結婚すると決まったわけじゃない。あくまで婚約だ」

「年齢が半分以下の女の子との婚約おめでとう?」


 ルミニエは悪戯っぽい笑みで茶化す。ド突きたい、この笑顔。


「政略結婚に年齢は関係ないかもしれないが、何でよりによって一番年齢が離れている子が選ばれたんだよ。もうオッサンだよ俺。それに俺の年齢について妙に驚いていたし、どうなってるんだ」

「あ~それ?」


 俺の愚痴にルミニエの表情が少し気まずいといった感じに変わる。お前、また何かやっちゃったの?


「自分で気付いてないの? 今の君を見て四十歳くらいって分かる人いないよ」

「……どういうことだ」

「君って私の加護で生命力や活力を増進しているからさ。肌もツルツルで獲れたてピチピチの青年って感じだよ」


 獲れたてピチピチって、俺は魚じゃないぞ。ルミニエに言われて自分の頬に触れると、確かにツルツルで張りもある気がする。加護によって身体能力が上昇したし、精神面でも活力に満ちている今日この頃だが、こちらに来てから鏡なんて見てないから、見た目が若返っている実感はない。


 慌てて【奉納】によってこちらの世界産の小さな鏡を出してのぞき込む。そこには元の世界で見慣れた自分の顔が映っている。顔色は良い。年齢はどうだろう、大学生くらいに見えるかな。


「んー三十後半から四十の顔かと聞かれたら違うかな」


 そう言えばこの前のお茶会終盤、エルダに美容品を売ることを匂わせたんだけど、俺が若く見える理由が女神の加護なら美容品を売るのは拙いかな。いや効果のある物さえ用意すれば大丈夫か。そんなことを考えているとルミニエが不満げな声を漏らす。


「そこはさ、もっと驚いたり喜んだりしても罰は当たらないよ。人間は若返りとか凄く有難がるものじゃないの?」

「加護貰った時は病気で弱っていたのが嘘みたいに元気になって、そっちには驚いたし感謝もしたんだが。今になって若返ってると言われてもピンと来ないな」

「なーんか違うなあ。もっとこう、言葉にしづらいけど……あれだ、私は君のキレのあるリアクションが欲しいんだよ」

「めんどくさ」


 すげええええ、うそだろっ!!!!みたいなリアクションを女神様はお望みのようだ。でもその場合俺だけの問題じゃないと思う。某名探偵君レベルで若返ってたら俺も大騒ぎするよ。でも若返りよりも、むしろ死にかけ状態から健康になったことの方が印象強い。だから最初に加護を貰って元気になった時はそれなりに驚いていたと思う。つまり俺は悪くない、そちらサイドの演出が悪い。


「そんなノリの悪さで若い子と上手く付き合っていけるの?」

「婚約と言っても形だけだから、それも具体的な行動は婚約に向けて話が進んでいるという発表を今度の祝勝会でするだけ。今後(たか)ってくる有象無象相手に、インスラーテ家が(てい)の良い防波堤になってくれることになっただけだ」

「えーそんな認識で大丈夫かな。それにしても婚約って誰の考えだろう? あの()自身、それとも領主かな。どちらにせよ結構強かなだね」


 イレミアナは俺が結婚に消極的なことをあの場で考慮して、咄嗟にトーンダウンした節がある。それもあって結果としてインスラーテ家は大きな代償も無く、俺から提供されるであろう戦力や物、知識などを優先的に手に入れることが出来る流れになった。正式に結婚したわけではなく『婚約に向けて話が進んでいる』状態なら多少外聞は悪いだろうが後から無かったことにも出来る。


「まあ、これで当初の予定通り有力者と協力関係は結べそうだね」

「色々提供した甲斐があった」

「随分大盤振る舞いしたみたいだけど、少しくらい出し惜しみした方が得られる物も大きくなるんじゃない?」

「そうか? 似たようなことをイレミアナにも言われたけど、俺はさっさと人類の戦力を強化したいんだよ。協力してくれる相手なら駆け引きは最低限でどんどんテコ入れした方が良いだろ」


 今後駆け引きが必要な場面はある。だが俺はインスラーテ家に対して現状その必要を感じていない。彼らは俺の邪魔することもなく、協力する姿勢を見せている。それらは純粋な善意からのものではないだろう。間違いなく彼らなりの利があってのことだ。しかしそれで良い。


「あんまり自分を安売りし過ぎると良い様に使われちゃうよ」

「上手く使えるなら使ってもらって問題無い。少なくとも俺と友好的な関係を結んだ方が得だと判断出来る相手ならな。俺は俺で相手を勝手に利用するし」


 ルミニエの危惧するのは分かる。

 自分の言い分が通った、相手が譲ってくれた。そういった経験から次回も同じように自分の言い分が通る、相手が譲るのが当然と思い込む人間は多い。だが今のところイレミアナやシンリは俺が譲歩したり何かを提供することを当然などとは考えていない。そこを理解しているかどうかが大切だ。


 最低限の理解さえあり、対魔物侵攻においてプラスなら、彼らが俺との関係を利用して裏で儲けようが、支配基盤を強固なものしようが好きにすれば良い。むしろ協力者が強化されるなら望むところだ。


 ルミニエは俺の考えに積極的な賛同はしないが様子見といった感じで、今回は苦笑を浮かべるのみに留めた。今後問題があれば再度口出ししてくるだろう。俺としても世界規模の問題に取り組むのなんて初めてだから手探りでいくしかない。


「それで提供したのって【縁の鏡】【共鳴の水晶】【精霊の祝福】と金属素材で全部?」

「いや追加で火薬も渡しておいた」


 元いた世界の武器や兵器を【奉納】で手に入れるのはコストが高過ぎて現実的ではない。だがこちらの世界の原料を【奉納】で手に入れ【練成】を行えば、コストは一気に下がる。もちろん【練成】では現代兵器など作れはしないが、火薬程度なら問題なく作れる。


「火薬ぅ? 魔法で良いでしょ」

「そこまでハッキリは言わなかったけどシンリも同じようなことを言ってたな」


 魔法があれば火薬なんて必要ない。それは俺も少し思った。転生物でお馴染みのツールの一つだが、ルミニエに教えてもらった魔法の威力を考えれば必須というほどではない気もした。だが街の防衛戦でのシンリやその部下達の戦い方を思い返すと、広範囲に効果を及ぼす魔法や武装を使用していなかった。ゲームで言うところの範囲攻撃が無い、もしくは気軽に使える状態ではないのだろう。しかし魔物という膨大な数を誇る敵相手に範囲攻撃無しは厳しいだろう。そこで火薬なのだ。


 火薬、今回のケースでは爆弾として運用する予定だが、これなら使用者が弱くてもある程度の効果が見込める。この街の戦力を手早く強化する手段としては有効と言える。


 火薬はもちろん戦闘用物資なのでインスラーテ家の武力担当であるシンリに対応してもらうことになった。俺が火薬を提供すると言った時、こちらに気を使ったのかシンリはハッキリとは言わなかったが「製造や持ち運ぶ必要がある火薬より魔法の方が役に立つ」と思っているのが察せられた。俺も同じことを考えたから、気持ちは分かる。


 俺はとりあえず魔法と火薬どちらが優れているかではなく、状況に応じて使い分けるなり、組み合わせて威力を上げるなり工夫次第で大きな効果を発揮すると伝えてみた。まあ納得した感じではなかった。そこで火薬の効果や使い方を実際に見せることにした。


 陶器に火薬を詰めた物に導火線を付けてやる。戦国時代で言うところの焙烙玉(ほうろくだま)だ。少し工夫して火薬以外に金属片も中に詰めた。多分これで殺傷能力が増したはずだ。


 実演場所は周囲に被害が出ないよう街の外になった。内容は木の棒を地面に刺しボロイ鎧を吊るしただけの的を用意し、そこに向かって導火線に火を付けた焙烙玉を俺が投げるという単純なものだ。ほぼ思い付きのようなイベントだったが、意外と見物人は多かった。インスラーテ家からはシンリとその弟のグラウィが参加し、騎士団や警備隊の人間が五十人程付いて来ていた。あと直接関係が無さそうな冒険者ギルドと商工ギルドの関係者とかいう曖昧な肩書の人も数人参加していた。


「実演したら結構反応は良かったぞ」

「えぇ、こっちの世界では火薬なんて活用している所ほとんど見たことないくらいなんだけど、何やったらそんなことになるの」

「焙烙玉って分かるか? 陶器に火薬を詰めた物を的に向かって使うところを見せたんだ。やっぱ原始的な火薬は音や煙が凄いから衝撃的だったみたいで、実演前と後では全員態度が一変した」


 ホント実演前は興味はあるが同時に懐疑的な態度が見え隠れしてる人が多かった。しかし目の前で爆発を見れば、慣れていない者は誰でも怯む。その状態で火薬の戦場における効果を否定するのは無理がある。


「威力そんなにあるの?」

「的として用意した鎧はほとんどが原型を留めていたな。多分今回使った焙烙玉だとゴブリンの群に投げ込んでも即死するのは多くても数匹かな」

「駄目じゃん」


 即ツッコミを入れるルミニエ。だが待って欲しい。重要なのはそこではない。ボロイ鎧は原型を留めていたが、そこかしこに陶器の破片や金属片による傷が付き、中には金属片が突き刺さった物もあった。それを見た騎士団や警備隊の人間はドン引きしていた。自分達が喰らったら悲惨なことになるのは容易に想像出来るからな。防具で身を固めても、隙間などはどうしても存在する。


「別に即死である必要は無いだろ。実際に戦場で使う時は複数個を同時に使うし、相手はデカい音で怯み、視界は煙で塞がれ、全身に陶器や金属片が食い込む。これで足が止まれば一方的に攻撃出来る」

「えっぐ、というか金属片?」

「爆発自体より爆発によって飛び散る物が多くの標的を傷付ける。そういう仕組みだ」

「性格わるっ最高だね」


 悪いのに最高なのか。魔物相手に善人やってて国を滅ぼすようでは論外だ。生存圏を削られ続けている人類は、泥に塗れようが狡く意地汚く戦い抜くしかないよな。実のところ本心では華麗に勝利して鬱陶しくない程度にチヤホヤされるのがベストだった。まあ当然そんな美味い話は無かった。


「今回の実演では焙烙玉だけしか見せなかったが、火薬の使用方法としていくつか例を挙げたら、そっちも良い反応が得られたから近いうちに実戦投入することになると思う」

「へえーどんなエグイ使用方法なの?」

「俺を外道とでも思ってんのか?」

「この前私を邪神扱いしてたでしょ。私が邪神ならその関係者である君もさぁ。こ・ち・ら・が・わ」


 それだと自分が邪神なのも認めてませんかね。それじゃあ邪神の関係者に相応しい火薬の使い方を教えるか。


「折角魔法があるんだから風魔法で火薬や油を撒き散らして、そこに火魔法を撃つとか。放棄前提の簡易拠点に目立たないように設置し敵を誘い込んでから爆破とか。焙烙玉に金属片だけじゃなくて毒や病原菌を仕込んで、遠く離れた所から攻城兵器の投石機で──」

「うわぁロクな死に方しないよ、君」

「地獄行きの場合、軽めの地獄で頼む」

「しょーがないなーって私地獄担当じゃないから……それに魔物はいくら殺そうと、どう殺そうと地獄行きにはならないよ」


 ルミニエが笑顔のままで付け足した内容を聞いて俺は、今この世界が地獄みたいなものだろ、という言葉は飲み込んだ。話を変えよう。


「ま、武器や兵器以外もしっかりアピールして善行を積んでるから。連絡用の【縁の鏡】と【共鳴の水晶】も評判は良かったぞ。ただこっちは機密扱いにするみたいだ。しばらくは火薬とは違って存在を極一部の人間にしか知らせないことにしたいらしい」

「なんで?」


 火薬以外の物品提供にはイレミアナも参加した。祝勝会で忙しいと思うが、参加する為にかなり無理をして時間を作ったようだ。そう言えば【縁の鏡】と【共鳴の水晶】に最初に強い興味を示したのは彼女だった。あの時点で活用法を思い付いていたのかもしれない。


「イレミアナが別の街や領の相場が瞬時に分かれば、そこから得られる利益は計り知れないって」


 火薬以外の物品提供はイレミアナの対応だった。電話やネットの無い世界だから連絡手段を独占すれば独り勝ち出来るだろう。ただ【縁の鏡】と【共鳴の水晶】がこの領には無くても、他の場所にはあるかもしれない。練成リストに存在するのだから、今の俺と同格以上の錬金術師によって作られている可能性はある。それにインスラーテ家に独占させるより人類全体に普及して戦力アップに繋げる方がメリットが大きい。


「儲けられるなら有りなんじゃない? 不満なの?」

「前提を忘れるな。魔物の侵攻へ対応するのが目的だろ。インスラーテ家と友好を結ぶ為に色々提供しているが、独占させるより広く普及させて人類全体を強化した方が良い。だからある程度儲けさせたら、インスラーテ家には俺の提供するアイテムや戦略の伝道師になってもらう」

「インスラーテの人達がそれで納得する?」

「多分納得させるのは難しくない。いくら儲ける手段があっても人類が滅びたら使い様がないだろ。それ以前に流通や商業が機能不全に陥った時点でアウトだ。儲けたいならある程度安全な人類の生存圏が必要不可欠になる。その位は分かる相手だと思うぞ」

「どうだろう?」


 首を傾げるルミニエ。不安になるようなことを言うなよ。まあ分かり易い利益を欲しがるなら手はいくらでもある。


「それに金儲けなら【奉納】を使えばいくらでも出来るだろ。希少で換金性の高い物を出せば良い。【奉納】って何でも手に入るんだよな」


 希少な物品を【奉納】で手に入れられるなら、魔物がいる限りそれらをこの街の市場に流し続けることも出来る。無尽蔵の資源を抱えているようなものだ。


「もちろん、この世界の女神である私の保証付きだよ」

「この世界の通貨も?」

「あーそれね。うん、出来るよ。そういえばそうだった。」


 考えてなかったのか、この女神。流石に俺も贋金をばら撒く気は無い。


「あと通貨だけの問題じゃなくて、もし俺が追い詰めらた時ヤケクソになって【奉納】で細菌兵器や核に手を出したらどうするつもりだったんだよ」

「ま、ま、それ以外に渡したのは【精霊の祝福】金属素材だったかな。そっちは問題無かったの?」


 こいつ話逸らしやがった。俺が言ったリスクは流石に理解出来るらしい。【奉納】を使えば欲しい物ならなんでも手に入るって、本当に何でも手に入るようにする奴があるか。恩恵を受ける側の俺が言うのもおかしいが危険性を考慮しろよ。


「【精霊の祝福】はまだ結果が出てない。金属素材は騎士団や商工ギルド、有力な商人、工房との交渉材料に使えると喜ばれたぞ。なんか金属素材が一番無難だった」


【精霊の祝福】の効果は作物の成長促進だから渡してその場ですぐ結果が出るものじゃないからな。あと騎士団はインスラーテ家に仕えているはずだろ。それなのに交渉が必要なのか?


 俺が疑問を持った点についてルミニエは何も感じなかったのか、にこやかに頷いている。


「順調、順調」

「今のところはな」

「悲観的だねぇ」


 お気楽でいられる状況だったら良かったんだけどな。勇者や勇者のいた国が亡ぶ前にこちらの世界へ俺が来れていれば少しは状況も違ったと思う。最低でも勇者擁するマヤトガより強力な陣営を作らなければ最終的な勝利は無いのだから、俺に課せられたハードルは相当高い。だが同時に一歩一歩確実に進んでいる実感はある。


 俺とルミニエが見守る前で、ゴブリンを難なく魔法で処理するティア。今は魔法で作った氷の槍で三匹同時に串刺しだ。もう雑魚は相手にならないな。進んでいるのは俺だけではない。ティアもこの街も強くなっていく、ならなければならない。それ以外に滅びから逃れる術などないのだから。


「君なら大丈夫だって分かってるから」


 しばらくの間黙ってティアの戦闘を見ていたルミニエが、不意にそんなことを言う。


「何のことだ?」

「追い詰められてヤケクソになったらって言ってたでしょ。君なら自棄になったりしない。最期の瞬間までしぶとく生き足掻くと思うよ」

「何を根拠にそんな事が言えるんだ」

「だって私との同調率が高いからね」


 一点の曇りもない笑顔を見せるルミニエを横目に、俺は小さく溜息を吐く。また同調率か、台無しだよ。こっちは話の流れ的に何か良い感じのセリフが来るかな、と待ち構えていたのに、そんな謎数値では全然納得出来ねえんだよ。

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