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第二十一話 教主にはなりません

 強化したスキル関連で早急に確認しておかなければならないことがある。それは【練成】リストである。俺は会食中にルミニエと話していて、【練成】スキルのレベルが足りずにリストで表示されないアイテムがあることを知った。つまりスキルレベルを上げた今なら、新たなアイテムがリストに追加されているはずだ。


 早速ルミニエやティアと共にリスト内でも優先度の高そうな物を探している。俺のステータス画面やそこに映される【練成】リストなどは、俺が見せようと思えば見えるらしい。とりあえず今すぐ欲しい物をピックアップしておきたい。出来ればこの街の戦力をお手軽に底上げする物、もしくは農業か工業の生産性を上げられるような物が欲しい。


(それならこの辺りじゃない?)


 俺が【練成】リストを確認していると、ルミニエは一部のアイテムを指し示した。それはゲームでは戦闘時にステータスを上昇させるアイテム群に属する剛力の薬、興奮剤、鎮痛剤などだ。ゲームでは何の疑問も持たずに使っていたが、改めて見るとかなり怪しい薬である。


「体に悪そうだな。興奮剤なんてド直球で法に触れそうだぞ」

(アイテムの説明は精神を高揚させ筋力と敏捷を上昇、但し効果時間中は思考力が低下し使用するスキルの効果が減少するね。特に大きなデメリットは無さそうだけど)

「思いっ切りデメリットあるだろ。思考力が低下って、長期間使用した場合の依存性が確実にあるやつ。それに内臓や神経へのダメージも気になるんだけど」

(多少はあると思うよ)

「やっぱりあるのかよ。それじゃあ剛力の薬と鎮痛剤にも副作用あったり……」

(悲しいけど何かを得るためには、何かを犠牲にしなければならないの)


 ワンチャン心身への問題が無いように、俺の知らない魔法の力で上手くやっているのかと思っていたんだけど違ったようだ。これは日本だったら普通に違法薬物に分類される代物では?


(健康気にしてる間に負けて死んじゃったら意味無いでしょ)

「それはそうだけど、出来れば避けたい手段だろ」


 ルミニエの言うことにも一理ある。背に腹は代えられないから状況次第で使うことになるかもしれない。でも今はまだ別の手段を選べる段階だと思う、思いたい。


(それに依存や体へのダメージこそ魔法で治せば良いんじゃない?)

「確かに。でも【浄化】や【回復】の呪文で依存症は治るのか」

(既存の呪文で治らない方が君にとっては好都合でしょう。イメージで新しい効果を付け足して治せば良いじゃん。そうなれば普通の神官では治せないのに、ティアちゃんだけが治せるって特別感強いよ?)

「それ見方によっては凄く悪辣では?」


 ルミニエは小首を傾げて「特別感強いよ」と可愛らしく言っているが、自分で薬をバラ撒いておいて自分達だけがその副作用を治せますよ、と売り込むのはマッチポンプが過ぎる。そこまでやってしまうと、流石に周囲から恨まれそうだ。魔物の数が多くて自分だけでは手が回らないから、味方を増やしたり、人類の戦力を強化しようとしているのに敵を増やしてどうすんだ。


(良い考えだと思ったんだけどなあ)


 ルミニエは小さく溜息を吐く。前から思っていたが、ルミニエの倫理観には致命的な問題がありそうだ。神と人間という種族の違いが考え方のズレを生んでいるのだろうか。神様ともなれば人間とは比べものにならない時間を生きているだろうし、能力も桁違いだから普通の人間とは価値観が大きくズレるのも仕方がないのかもしれない。


 【奉納】システムやステータスとか世界の仕組みから作れるのだから、チョットくらいヤバめの薬を使う程度ことなら、後で治せば良いくらいに思うのかもしれない。ルミニエが俺に与えている女神の加護みたいな強化があれば良いんだけど。


「なあ女神の加護みたいな魔法は不可能なのか?」

(いくらなんでも女神を軽く見過ぎだよ。そんなに簡単に出来る訳な……ティアちゃんなら私の眷属みたいなものだから、近くにいれば私の加護を一時的に少し強めるくらいは出来、る、かも?)

「凄っ、でも強化したいのは俺じゃなくて他の人間なんだが」

(何言ってるの。前に言わなかったっけ、この世界の人間には多かれ少なかれ私の加護を与えているよ)


 言っていたかな、言ってたかも。じゃあ普通の人間も魔法でステータスアップが可能ということか。しかし道具で同じ効果をお手軽に出せればさらに良いんだけどな。それが出来るアイテムは守護石という目が飛び出るほど貴重な物が必要なので大量生産は無理がある。ティアがいちいち加護を強化しなければならないなら使い方は限られる。


「軍が戦闘をする時に加護の強化をすれば特別視されたりするかな。上手く演出すれば強固な支持層が出来」

(スワ・シドーの名は水の女神教・ティア派の教主として歴史に刻まれることとなるね、その流れだと)

「やはり駄目だな。人を扇動するような行為は危険だ。狂信者のコントロールが効かなくなって暴走する未来しか見えない」

(悲観的過ぎない? 宗教は人心を掌握する手段として有効だよ。それと何で狂信者が暴走するくらい崇拝されることが前提になってるの。どこからそんな自信が出て来るのか分からないんだけど。もしかして元の世界で新興宗教の教主経験者だったりする?)


 未経験だよ。信者を得るのに俺の手腕なんてあまり関係ない。もっと影響力の大きな要素がある。俺はティアの肩に手を置きルミニエへアピールする。


「何もおかしくない。ティアを見ろ。これぞ女神と言わんばかりの見た目だろ。その上で女神の加護を強化出来て、それっぽい言動をしたら信者なんていくらでも()えて来るだろ。雑草みたいに」


 能力と見た目と言動が伴ってしまったら、それはもう女神や聖女そのものだろ。俺は当然のことだと思うのだが、ティア自身は頬を赤らめ恥ずかしそうだ。


「あの、私は教えを説くことなど出来ませんし、そのように扱われるなど身に余ります。それでしたらルミニエ様やシドー様の御名(みな)を使用した方が相応しいかと」

「俺は崇められるような人間ではないし、ルミニエの名前を掲げて何かするのはそれこそ慎重にやらなければ危険だと思う」

水神殿(すいじんでん)って所が私を崇拝している宗教では主流派なんだけど、結構過激だから気を付けた方が良いね)

「いっそ水神殿の有力者とのコネも作っておいた方が良いかもな」


 水神殿の有力者が協力してくれるなら、信者のコントロールに関する懸念も減るだろう。なにせプロだからな。これから俺達が活躍したとしても俺やティアに対する過剰な個人崇拝ではなく、この世界の神であるルミニエへの信仰心に誘導してくれれば良いのだが都合が良過ぎるかな。


「それにしても話が逸れ過ぎだ。とりあえず一時的な戦力強化に関しては薬ではなく、加護の強化を試す方向で行こう。念の為に効果は控えめにするぞ。後は農業や工業関連を探そう」

「でしたらこちらは如何でしょう。【精霊の祝福】という物です」


 ティアが指し示したアイテム【精霊の祝福】はゲームでは戦略シュミレーションであるソシャゲ版にしか出て来なかったはずだ。確か効果は精霊の力によって農作物の成長が促進されて収穫量がアップし収穫までの時間も短縮される。


「良いねえ、しかも効果の仕組みが精霊の働きによるというファンタジー的なのが特に良い。デメリットを心配する必要がなくて素晴らしい」

「それと工業については、この街に具体的に何が必要なのか分からない状況なので先ずはその把握が必須かと思います」

「そうだな。情報収集はまだまだ足りないよな」

「工業関連はとりあえず素材の提供あたりが無難かと」


 素材の提供は良い考えだ。ただ良い素材を提供しても今は武器や防具に使われそうではある。本当は工作用機械なんかに使って欲しいのだが。ちなみに【練成】スキル四である現段階でも多くの特殊な素材が練成可能だ。金属だけでもファンタジーでお馴染みのミスリル、オリハルコン、アダマントなどが作れる。一応【奉納】でも入手は可能なのだが、【練成】が可能になったことでお得に入手出来る手段があることに気付いたのだ。


 【奉納】のシステムではいくつかの傾向がある。例えばこの世界の物より俺が元いた世界の物の方が高い。例えば自然物より加工品の方が高い。つまり【奉納】で精錬された金属をそのまま得るより、鉱石を得てから【練成】によってインゴットにした方がお得なのだ。まあ鉱石がこの街で激安だったら大損だから、いきなり大量に用意するつもりはないが。


「そうそう、こういうので良いんだよ。なんで最初の提案が怪しげな薬なんだ、女神様は」

(えー君もこっち側でしょ。)

「そんなことねえよ」

(だって変な宗教を作って扇動しそうな手口を使おうとしてたでしょ)

「手口って響きが悪過ぎるぞ。俺は女神っぽいティアが女神っぽいことをすれば、味方が増えるかなって思っただけで悪意は無い」

(悪意も無いのにそんな発想が出るあたり、本質が透けてるよ。そもそも私と同調率が高いんだから本質的な方向性は私と同じだよ)


 方向性が同じ? こいつと? そんな馬鹿な。あまりの悲報に頭を抱えたくなる。それにまた同調率かよ。なんなんだ、その呪いの数値。


(そこで落ち込むのは私に対して失礼じゃない?)

「さっきまでルミニエの倫理観がバグっているのは、人間と神という種族の違いが原因だから仕方がないとこっちは納得しようとしていたんだよ」

(バグってないんですけどっ!)

「しっかりバグってるから。それなのに人間である俺がルミニエと本質的に同じとなると、俺がまるで異常者みたいじゃないか」


 嘆く俺の肩にルミニエはやれやれといった感じで手を置く。ルミニエの姿は透けているのに感触があるのは不思議である。


(こう考えれば良いんだよ。この世界は私の世界なんだから、この世界では私が一番正しいの。つまり一番正しい私に近いということは、君も正しいってこと)

「そうかな、そうかも……いやいや洗脳しようとしてないか?」

(迷える子羊を導くのは得意だよ)

「物は言い様だよ」


 こいつと同じ方向性かぁ。人類を滅亡の危機から救う為には、人類を強化する必要がある。それには「導く」という側面が当然ある。俺は今のルミニエみたいに胡散臭く見えないようにしないとな。

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