第二十話 強化
領主一族との会食を終え客室へ案内された。俺は気疲れもあったのでとりあえず椅子に座る。一息ついて部屋の中を見渡す。机や椅子といったありがちな家具が置かれているが、目を引いたのは壁に掛かった大きな絵画だった。馬に乗った雄々しい男が槍を振り上げ、民衆を導いている絵だ。何かの逸話をモチーフにしているのかもしれない。
そこで今やっと部屋の調度品に気が回るようなったことに気付く。つい先程まではそんな余裕を失っていたことを自覚する。所謂上流階級と呼ばれる人間相手に交渉事なんて不慣れな為、自分で思っていたより緊張していたようだ。
「こんなんで上手くやれたかな。さっきの会食、領主の一族は引き込めたと思うか?」
「見事な説明であったと思います。彼等も強い関心を持った様子でした」
「長女のシンリと三女のイレミアナはな」
(五人のうち二人じゃあ成功とは言い難いんじゃないかな。でも残り三人も敵対や無関心ってわけでもなからここからでしょ)
ルミニエの言う通りなんだが、割り切れない感情がある。ここはロストタイズの原点でもある世界なのだ。エンディングで不穏な影を残したコンシューマ版、地獄の様相を呈したソシャゲ版を考えれば簡単に事が運ぶなんて俺も思っていない。そう覚悟していたつもりだが、戦いでの活躍があった為に心の何処かでとんとん拍子で話が進むと思っていたようだ。戦いで無双して英雄扱い、そんな甘い考えが俺に残っていたことが恥ずかしい。
「これからは交渉事が増えるだろうから、何か対策しとかないとな。スキルであったよな確か。【交渉術】スキル」
(逆になんでそのスキルを取ってなかったの?)
「うっ……【加護】や【奉納】のおかげでこっちが優位だから、向こうから歩み寄って来ると思ってたんだよ。それに【交渉術】のゲームでの効果はアイテム購入時の値引きだけだったし、実際の交渉に役立つか良く分からないだろ」
ロストタイズ無印であるコンシューマ版ではゴミスキルだった印象が強いのも修得しなかった理由だ。ロープレで良くある序盤以外はお金が余りがちな状態になることと、序盤も必要な武器と防具だけ買うのであれば、十分お金は足りるということで【交渉術】は無用の長物だった。ソシャゲ版では他ユーザーとのリアル交渉の方が重要である。なお自分と相手どちらも途中で裏切る前提だ。つまりスキルとしてはソシャゲ版でも空気だ。
とりあえず効果の確認はしておくか。効果の説明では、えーと交渉が上手くなる──曖昧で不安が残るが金銭関係の交渉に限定されていない分、こちらの世界では有能なスキルである可能性が残る。取っておくか。ついでにティアにも修得させておこう。ティアには何度か危ういやり取りがあったからな。
「じゃあ【奉納】で俺とティアに【交渉術】を獲得して、と」
「私もですか。交渉はシドー様が行うものではありませんか?」
「あー、今後ティアにも任せることがあるかもしれないからな」
自分で言っていて良い考えだと思う。これから先、対応すべき相手が増えていくことが予想される。交渉役が俺一人なのは流石に厳しい。【交渉術】のスキルレベルを上げて置けば、後は案件ごとに俺が譲歩出来るラインなどの条件を設定するだけでティアならなんとかなりそう。ティアはまだ知識面で不安はあるが、俺のように社交の場で緊張する様子はなかったので頼りになるのではないか?
「ティアの【交渉術】のスキルレベルは三まで上げておくから、その時は頼むぞ」
「はい、お任せください」
ティアは仕事を任せられるのが嬉しいらしい。街の外での戦闘では俺が主体でティアの出番は少なかった。活躍の場が欲しかったのだろう。それと水魔法のスキルレベルは上げておいて損は無いと思う。俺とティアはルミニエの加護のおかげで適性が高い。属性被っているのは残念だが、水属性に強い相手は物理で殴れば問題ない。
「ついでに水魔法のスキルレベルも上げておこう。折角ポイントもあるし、今のうちに他のスキルも上げたり獲得しておくか。俺の方は【鑑定】【収納】【練成】は必須だし出来るだけ上げておきたいな」
本当は上限まで上げたいが消費する魂が多過ぎて断念する。スキルレベルは三から四にするだけで二千いるし、四から五への上昇には一万ポイント必要になる。現状、スキルを一つ上限である五に上げることさえ難しい。ティアの【導く者のローブ】を【奉納】で得ていなければギリいけたかもしれないが、そこに後悔はない。
【練成】は四まで上げないとシンリ達に見せる予定のアイテムが作れない。これで二千ポイント。【鑑定】と【収納】はレベル四まで上げたら残りポイントが少なくなり過ぎる。ここは三で妥協するか。
「ティアは何か希望はあるか?」
「私は出来れば戦闘でもお役に立てるようなスキルを上げていただければ」
「とりあえず水魔法と神聖魔法をスキルレベル三まで上げる、と」
(か弱い乙女なんだから自分の身を守れるようなスキルも必要でしょ?)
ルミニエの指摘に俺は首を捻る。俺ほどではないがティアもステータスは高い。
「か弱くはないだろ。ステータス的には今のティアはゴブリン十匹と綱引きして勝てる力の強さだぞ。多分素手で殴っても一撃で死ぬぞ」
(比べる相手が弱すぎるよっ)
「んー、力はトロールと同じくらいだな」
ステータスを見る限り力はトロールと同じくらいか。充分強い気もする。しかしトロールなんてゲームの序盤なら強敵だが終盤になると雑魚だ。それに今日戦った中で一番強かったのはトロールだが、次も同じ位の相手とは限らない。ゲームではないのだから、遭遇する敵が徐々に強くなるなんて都合の良い考えは危険だ。今からどんどんレベルが上がることを考えても近接戦闘の手段が欲しいところだ。
「よし、ティアは【体術】もスキルレベル三までいっとくか」
(おぉ、渋いチョイスだねえ)
「【体術】なら素手だけじゃなくてナイフとかにも補正があるから身を守るには便利だろう。全部合わせると結構ポイント消費したな」
会食前に【奉納】で得たティアのローブを含めて四千ポイント近く使った。残り六千五百ポイントあるが全て使い切るのは得策ではないだろう。この領の強化にどれくらい関わることになるかは、未だ明確にはなっていない。しかし、そちらに使う可能性があるので残しておく。ステータス画面でスキル欄を確認すると様になって来たように思う。大規模な戦いで勝っただけにレベルも上がっている。
【スワ・シドー】
【レベル 11】【装備品効果分】
【HP160/160】+30
【MP 76/167】+30
【生命力 160】+30
【筋力 214】+30
【物理防御 196】+30+3
【敏捷 199】+30
【魔力 167】+30
【幸運 27】
【状態 病気、女神の加護(大)】
【職業 錬金術師】
【装備品 貴族の服、水の女神の指輪】
【スキル 鑑定3 言語理解1 収納3 練成4 火魔法1 水魔法1 土魔法1 風魔法1 交渉術1】
【ティア(ティアマト)】
【レベル 8】【装備品効果分】
【HP 80/80】
【MP276/336】
【生命力 80】
【筋力 73】
【防御 107】+3+35
【敏捷 51】
【魔力 336】
【幸運 10】
【状態 女神の申し子、女神の加護(小)】
【職業 神官】
【装備品 貴族のドレス、導く者のローブ】
【スキル 水魔法3 神聖魔法3 交渉術3 体術3】
「俺達のステータス上がり過ぎだよな? ティアの防御も倍以上の上がりだ」
「装備品の影響ではないでしょうか。シドー様に頂いたローブで防御は上がったのだと思います」
「へー、俺の場合は何だろう。指輪の影響かな……俺の加護って(中)だったのが(大)になってる。この指輪は女神の加護が上がる効果があるのか」
(ま~あ私の力の結晶だしぃ、とーぜんだよ。感謝して欲しいなあ」
「あざーす」
(なーんか軽いんだよなあ)
なんか面と向かって感謝の言葉を送るのが恥ずかしくて茶化してしまうが、感謝しているのは本当だ。ルミニエの加護が無ければ今日の戦いは厳しかっただろう。その加護が強化されるのは破格の効果だ。
「これの素材に使った守護石も【奉納】で貰えるのか?」
(最初に言わなかったっけ【奉納】なら何でも手に入るよ)
「欲しいな。いくらだろ、ゼロが滅茶苦茶多いけど……一、十、百、千、万」
【奉納】リストで確認して見ると必要な魂ポイントが桁違いだった。あまりに大きな数字でパッと見でいくつか分からず、桁を数えていく。
「さんぜんまん」
(それ君が今付けてる指輪の素材になったのと同じサイズね。ティアちゃんに使ったのがコッチ)
「一、十、百……いちおく」
頭が真っ白になった。十秒位経った頃に思考が再起動する。そして大きな疑問が生まれる。
「魂をこれだけ使う程のアイテムくれる位なら、最初からスキルやレベルをカンスト状態にしてくれれば良かっただろ」
(それだけの力をいきなり注ぎ込んだら体が破裂すると思うよ。普通の人間に入るわけないじゃん)
ルミニエの言葉を想像してゾッとした。俺は魔物の群に放った大規模魔法を思い出していた。魂が十ポイントでスキルが手に入るのだ。一億ポイント分は当然あれより多くのエネルギーになるはずだ。それを強化される前の俺の体に一気に入れたらどうなるだろう。
(それにさ、勇者だってレベルカンストしてた訳じゃないけど今の君より強かったんだよ。でも駄目だったからね。私も考えたわけ、普通に強い人間を一人用意してもあんまり意味無いかもって)
ルミニエも一応色々考えていたんだな。半分その場のノリでやっていると思っていた。
(不敬な気配を感じる)
「気のせいだ。それにしても【奉納】のポイントが億超えがあるってことは、それだけ魔物もいるってことで良いのか?」
(今この世界にいる魔物の数は大体一億位だと思うよ。ただし今も穴からこっちに入ってきているからね」
「やっぱりこの世界の勢力を強化する方針は間違ってなかったな。俺達だけでは手が足りん。意地でも強くなってもらわないとな」
シンリ達には強くなってもらう必要がある。個々の戦闘力も上げたいが、それで解決しようとする場合一騎当千でも全く足りない。勢力としての地力を上げなければならない。効率良く大量に魔物を殺す態勢を早急に作る。それ以外に勝利する術はない。




