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第18話 会食

 貴族の食事は美味いが初対面の領主と今日会ったばかりのその家族を前にしては、なかなか純粋に楽しむことは出来ない。ただマナーについては不安だったが相手方のやり方を真似をして誤魔化し何とかなっている。まあ何とかなっているのは領主がこちらにあまり関心が無く、最初の挨拶と戦いでの活躍に感謝の言葉を述べただけで後は特に話し掛けてこないのも一因だ。


 俺の協力関係を結ぶという目的を考えれば良くはないのだが、ちょっと安心している自分がいる。その代わりにシンリや彼女の弟妹が積極的に話題を振ってくれるので、場の雰囲気は悪くない。今もまたシンリが気を使ってくれる。


「料理はどうですか? 魔物の侵攻の影響で新鮮な素材が手に入り辛いうえ、他領との交易が止まっていたので満足なおもてなしとはいかず申し訳ありません」

「いえいえ大変美味しいですよ。しかし食料の生産や物流にお困りなら私共が力になれるかもしれませんね」


 シンリにとっては頭が痛い問題なのだろうが、俺にとっては都合の良い話題が来てくれた。シンリは俺の言葉を聞いて目を瞬かせる。俺が錬金術師ということは伝えているんだが、やはり戦力としてのイメージが強過ぎるようだ。


「それは、周辺の魔物を排除して生産などに支障が出ないようにしていただけるということでしょうか」

「そちらもお役に立てると思いますが、もっと直接的な手助けも可能です。私は錬金術師なのでゴーレムを錬成出来ます。ゴーレムは鈍重で細かい作業には向きませんが畑を耕したり、物を運搬することは問題なく行えると思います」

「錬金術師はゴーレムに戦闘や作業を手伝わせると聞いたことがあります。しかし、それほど大規模に労働力として活用した例は寡聞にして存じません。何らかの問題があるのではないでしょうか」


 シンリの妹の一人が俺の話に食い付いた。この子は確かイレミアナだったな。思わぬ人間の興味を引いた。出来れば領主かシンリが乗り気になって、すぐにでも導入の話になれば楽なのだが。ただ話は広げられるので、ここからゴーレムの必要性を示せれば良いか。


「思い当たる理由についてはいくつかあります。今までは仕事の効率と用意する為の費用を考えて、ゴーレムより人で賄った方が良かったのでしょう。ゴーレム練成には魔石が必要なのですが、弱い魔物の魔石では優秀なゴーレムにはなりません。色々な物に活用出来る魔石を大量に使って、普通の人より動きが遅く、単純作業しか出来ないゴーレムを揃える意味が薄かったのだと思います」


 ゴーレムを労働力として採用しない一番の要因は費用対効果だと思っている。口には出せないが身分制度があるこの世界では、労働力すなわち労働者階級の人間なんて丁重に扱われているとは思えない。安い労働力があるのに態々動きが遅く単純作業しか出来ないゴーレムなんて使わなかったのだろう。


「今までは、ということは状況が変わったと?」

「ええ、今の状況で人だけを使って耕作地や交易範囲を拡げるのは難しいでしょう」

「今、拡げるのですか? 魔物の侵攻の為に周辺の住民をこの街に避難させています。その放棄した村や町の復興すら困難な状況なのですが」


 イレミアナは怪訝そうだ。そう言えばこの街へ来るまでに通った村のいくつかは、争った形跡も無く魔物の住処になっていた。やはり住人は避難していたらしい。


 村々の様子を思い出せば、家が破壊され畑も荒らされた状態だった。イレミアナの言う通り、すぐに住民を戻すことは出来ない。それにいつまた魔物が襲って来るかも分からない。しかしだからといって復興を魔物が待ってくれるわけもない。


「ではこの領における人類の活動可能領域は著しく縮小していることになります。当然生産力は落ち、維持出来る戦力も減ります。今多少無理をしてでも領の地力を強化していかなければ、どんどん状況は悪化していくでしょう」


 かなり厳しい言葉を並べたので、イレミアナだけでなく他の者の表情も硬い。しかし、この点については理解しておいてもらう必要がある。この世界に穴が開いてから、いくつもの国が滅んでいる。人類の住める場所は減り、人口も減っているだろう。極端な話をすれば人類の総戦力は、魔物の侵攻が始まった当初が一番あったのではないか。どんどん押し込まれているのだからもう少し危機感を持ってもらう必要がある。そう言えば一番良い例をルミニエから聞いていたな。


「知っていますか? かつて勇者を擁したマヤトガという国も奮闘空しく滅びました。勇者は私より強かったと思いますよ。そんな彼等が何故滅びたのか、私の聞いた話では勇者とその仲間数人では国全体を守ることは出来ず、村や町は次々と滅び、農地は荒れ交易も出来なくなっていったそうです。そして最後は国を維持出来なくなったらしいですね」


 皆神妙な顔で聞いている。今日まさに魔物の大群に襲撃されていたことで、よりリアルに感じられただろう。


「今回の侵攻を最後に魔物の大群が二度と来ないと確信出来るなら復興に時間をかけても問題は無いですが、実際倒したのは今この世界にいる魔物の極一部でしょう。また襲撃がある前提で、この街の現在の生産力は住民全員の物資を賄えますか? 戦力を維持もしくは強化出来ますか?」


「それはお答え……出来」


 イレミアナは答えに窮した様子だ。部外者の俺達にいきなりそこまで内情を明かすのは難しいだろう。まあ答えられない時点で答えは出ているようなものだ。答えられない、答え辛いということは、外に漏れるとマズイ内容だと示している。生産力に問題が無いという答えなら明かしても良い。むしろ目先の危機を乗り越えた直後なのだから、街の態勢が盤石だと表明した方が色々都合が良いはずだ。恐怖や不安に駆られた集団ほど厄介なものはないのだから。


 イレミアナはシンリに視線を送るが、シンリも判断に困っているようだ。だが思わぬところから答えが返って来る。


「無理だろうな。避難民の数まで考慮に入れれば食糧からして一か月持てば良い方だ」

「お父様っ!」


 この会食で一番消極的だった領主が、答え難いはずの内容を躊躇いなく明かしたのは驚きだ。思わずシンリも声を上げるほどだ。家族ですら予想外だったのだろう。


「伏せても無駄だ。もうこの者は察しておる」


 領主の言葉は簡潔であり正解だ。優柔不断で頼りないという話だったが、それはこの人物の一面であって全てではないのかもしれない。領主の家族は全員多かれ少なかれ動揺しているが、一番早く落ち着いたのはイレミアナだった。


「……それでは先程貴方様が提案されたゴーレムの運用によって、これらの問題が解決出来るのですか?」

「一助にはなりますが、全て解決するには防衛と生産に関する戦略の根本的な立て直しが必要でしょうね」

「もしや具体的な考えが既に御有りで? そのご見識を賜りたく存じます」

「一番単純で一番労力が掛かるのは城壁や堀で必要な地域全てを囲むことです。これはゴーレムを大規模運用しても一朝一夕には達成出来ないでしょう。次に考えられるのはこの街を囲むように砦をいくつか建設し、それぞれと連携して防衛する方法です」


 イレミアナは地域全てを城壁や塀で囲むと言ったところで僅かに険しい表情となった。現実的な案ではないと思ったのだろう。俺としてもお薦めしたい案ではない。ただ万里の長城なんて例もあるのでゴーレムを使えば不可能ではないと思う。そして二つ目の案を出したところでシンリが反応する。


「囲むように建設するといっても数に限界があるでしょう。砦と砦の間を抜かれたり、どれか一つの砦に集中されれば存在意義が薄れるのではありませんか」


もっともな疑問だ。俺も詳しくはないが実例があるのでやり様はあるはずだ。古くは小田原城とその支城の連携によって無類の防衛力を発揮した北条氏などだ。それは現代にも通ずる点があるはずだ。複数の砦を点、それらを繋ぐ線を防衛ラインとして設定して線の内側の安全を確保する。


「砦と砦を線で繋ぎ、その線を守るべき防衛線とし線の内側に生産拠点を置きます。防衛線を抜けようとすれば打って出れば良いでしょう。一つの砦で対応出来ない数の敵だった場合は隣接する砦と協力する。さらに数が多ければ砦に誘引し効率的に数を減らし、この街から援軍を出して殲滅することもあるでしょう。重要なのは状況ごとに基本的な対応策を決めておくこと、それと中心となるこの街と複数の砦の連携です」

「そんなに上手く連携が取れるでしょうか?」

「迅速かつ正確な連絡手段があれば可能でしょう。手段の方は検証が少し必要ですが……」


 方法はいくつか考えられる。コスト度外視なら【奉納】で無線機か有線通信機を導入する手もある。電気の供給を含めてとんでもないコストがかかりそうなので避けたい手段だが。


 他に考えられるのは錬金術か魔法による解決だ。ルミニエは今まさに守護石を使って俺達とやり取りをしている。それにゴーレムに対してその主は情報を送ることが出来る。これは魔法的な技術による通信が可能なことを示している。


 ティアの肩に乗っているルミニエへ視線を送る。ルミニエはすぐに俺の意図察したのかこちらへ飛んで来る。


(どうかした?)

(錬金術か魔法で連絡を取り合う方法ってないのか?)


 俺が口を手で隠して小声で訊いたことにルミニエは事も無げに答える。


(今話してたことに使えるやつね。あると思うよ……錬金術関連ならこれだね)


 頭の中に映像が浮かぶ。鏡と水晶だ。それぞれ別のアイテムのようだ。名前は【(えにし)の鏡】と【共鳴の水晶】である。どちらも同時に複数練成するようだ。【縁の鏡】は同時に作った鏡同士で相手の姿が映り、【共鳴の水晶】は同時に作った水晶同士で声のやり取りが出来る。両方作ればリモートワークすら可能だ。


(何でこんな便利な物をシンリ達は知らないのだろう。というか錬金術の練成リストを俺は一通りチェックしているんだけど、これは見たこと無いぞ)

(普通に考えれば分かるんじゃない?)

(……ゲームだと条件満たしてなくてロック状態なのが考えられるな。初歩的なアイテムじゃないからスキルレベルが足りてないとか)

(せーかい。練成スキルの四レベルからのアイテムだよ)

(結構高いな。それでもこんな便利なアイテムがあるなら、なんでこの世界に人間に作らせなかったんだ。託宣みたいなもので指示出来なかったのかよ)

(こんなの無くても皆で物理と魔力を上げてブン殴れば勝て、まあ勝てなくても対抗は出来るはずだったんだよ)


 女神なのに脳筋かよ。いやでもさっきの戦いで見た騎兵隊の強さを考えれば、ルミニエの考えもあながち的外れでもないか。ルミニエは俺が来る前からこちらの人間も職業やスキルを活用出来るようにしているという話だし。ゴブリンやコボルトのような雑魚相手なら余裕があるように見えた。そう考え始めると村や町が簡単に滅びすぎている気がする。ここまで人類は押し込まれているのは不自然だ。


「あの、結局連絡手段はあるのですか?」

「ん、あ、ええ、あります。どのくらい実用に耐えうるか検証が必要ですが【縁の鏡】と【共鳴の水晶】という物が錬金術で作れます」


 危ない危ない。考えが横道に逸れていた。今はシンリ達との会話途中だった。


「姿や声を送れます。近いうちに実物をお見せしますよ」

「本当にそんなことが可能なのですか?」

「はい、確かです」

「素晴らしいです! 戦いだけでなくあらゆる事柄で取り組み方が大きく変わるのではないでしょうか」


 イレミアナが興奮を隠しきれない様子で、今にもこちらへにじり寄って来そうなくらいだ。領主達の中で情報の重要性をより理解しているが彼女なのだろう。


「今日は興味深いお話が多く聞けて嬉しく思います。ぜひ、このような機会をまた設けたいです。今度は茶会などいかがでしょう?」

「時間があれば私も参加したいところです」


 イレミアナは俺の想定以上にこちらへ興味を持ったようだ。シンリも俺が例として出した防衛方法についてまだ話したいことがありそうだ。かなり大雑把な話だったので、腑に落ちない点もあったのだろう。後の三人については現時点では良く分からない。この会食は俺にとって成功と言えるのか微妙だな。しかし領主の優柔不断で頼りないという評価が、あくまで彼の一面だったことが分かったのは大きな収穫だった。当初、領主よりシンリを中心にアプローチしていった方が効率的だと思っていたがそうではないかもしれない。


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