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第十七話 親?

 領主の館に招待され案内された部屋でやっと一息つけた。戦い始めてからここまで気の休まる時間が無かった。戦いが神経を消耗するのは当然だがシンリ達とのやり取りもなかなかのものだった。現代日本で一般人だった俺に貴族のような立場の人間と話した経験などないので、全てが手探り状態だ。


 そんな中で最後にティアの口から飛び出した言葉の衝撃に俺はもうぐったりである。まるで俺に妻がいて、しかもその相手の「いと尊き御方」って誰? こちらの世界で俺の知り合いなんて、ティアを除けばルミニエしかいないからルミニエのことを指していると思うが理由が分からない。今は俺や自分に【浄化】を掛けているティアに聞いてみることにした。


「それにしてもティアはどうしてルミニエが俺の妻という誤解をしたんだ?」

「誤解、ですか?」

「誤解だぞ、な?」

(私も結婚なんてした記憶ないよ)


 俺とルミニエの言葉を聞いてティアは困惑している。それを見て俺も困惑する。何か大きなすれ違いがあるようだ。


「身に余ることですが先日シドー様は私がルミニエ様の身内と言っていましたし、ルミニエ様も私が練成されたことを子作りと」


 あー、あれかと俺とルミニエの口は全く同じ言葉が漏れ出た。ミニキャラ状態のルミニエは俺の肩に移動し、耳元で話す。


(まあ私の力の一部と私を模した像を素材にしているし身内というのも間違いじゃないからね。私自身眷属みたいなものって言ったのも嘘じゃないし)

「で、練成した俺は親と言えば親だな」

(この子、女神像だった頃の記憶はあるけど今の存在になって未だ二日目でしょ。人間社会の関係性なんて詳しくないだろうし、自分の知っている家族の枠組みに当て嵌めて考えたんだろうね)

「自分を生み出した男女だから父親と母親。父親と母親だから夫婦と、そう言う認識をしていたわけか。ティアは容姿は大人だし、普段は落ち着いている。そのうえ練成直後から会話も不自由なくこなしているから忘れがちだが、生まれたばかりとも言えるんだな」


 ルミニエは俺達の相談をじっと待っているティアを見て、困った顔になる。


(否定しづらいなぁ、傷付けちゃったりしない?)

「子育て経験なんてないから自信ないけど、ティアは俺達に対して今より距離を置きそうだよな。特にルミニエに女神としての威厳を感じて萎縮したなんてことも前言ってたし」

(えー距離とられるのは嫌だなぁ。せっかくちょっと懐いてくれそうなのにー)


 大人しく待っているティアを見て、今更彼女をドライにただの従者や部下として扱えるのかと自問したら答えはすぐに出た。シンリ達に対してティアは身内と言ったのはその場を誤魔化す為の嘘ではない、本音だ。


「あーティア、俺とルミニエはティアの親と言える存在ではあるが、夫婦ではないんだ。夫婦というのは人間同士の関係性の一つであって、女神とその協力者という特殊な関係である俺達はそこに含まれない」

(そうそう、すごーく特殊な関係だから夫婦とか家族みたいな名前が無いの)

「そう、なんですね。分かりました」


 ルミニエも話を合わせてくれたおかげで、ティアもすぐに理解は出来ないかもしれないが悪いようには取らないだろう。ルミニエがティアの肩の上に移動して「分からないことがあれば何でも聞いて良いんだよ」と安請け合いしているが、大丈夫か。


 俺達の家族会議が一旦終わった頃、使用人が服持って来た。俺の服はどうでも良い。シンリの弟が着ていた物の色違いだ。上はほぼ黒色に近い緑で落ち着いた感じだ。正直俺は派手な色使いでなければ何でも良い。それより問題はティアの服だ。まだ着ていないが胸元が大きく開いたデザインだ。


 ティアの容姿は絶世の美女と言っても過言ではない。変な気を起こす奴が出て来ても困るので、あまり煽情的なものをティアに着せたくない。しかしティアとルミニエはあまり気にしていない、というかそういう感覚はあるのだろうか。一応女神と元女神像の二人なのでその辺りは多少不安がある。


(私は悪くないと思うよ。試しに着てみたら?)

「分かりました。では──」

(え、ちょ)

「おい」


 ティアが何の躊躇いもなく服を脱ごうとする。黄金比で構成されたような均整のとれた体が視界に入りそうになる。ルミニエが慌ててミニキャラから等身大に戻って、俺とティアの間に立って視線を阻もうとする。透けているからあんまり意味無いので、俺はすぐに後ろを向く。


「いきなり服を脱ぐのはまずい」

(人前で裸になっちゃダメだよっ)

「シドー様とルミニエ様なら問題ないと思うのですが」


 ティアは何でもない事のように服を着替え終えた。やはりティアにはもう少し常識や情緒といった点で成長を期待したい。それにしてもドレスは白を基調としたものでティアに良く似合っている。ただやはり肌の露出が多過ぎる気がする。俺は大丈夫だが不埒な考えを持つ者もいるはずだ。既に使用人には退出してもらっていたし、そもそも女性だったので問題はないのだが、もし男の使用人がこの場にいたら記憶を失ってもらっていたかもしれない。


 俺は無言で【奉納】を使ってゲームで登場した魔法職用の装備カテゴリーの【導く者のローブ】を手に入れる。終盤始め位に手に入った記憶があるので質は悪くないはずだ。色はこちらも白系統メインだし、金色の緻密な装飾が施されているので貴族と並んでも貧相には見えないだろう。この考えが既に俗物丸出しな気もするが、俺のセンスの限界なので仕方がない。


「これを羽織ってくれ」

「もしや私などの為に貴重な魂を使ったのですか」

「必要な物だから気にしなくて良い」

(私への情報料は値切ったのに)

「どっちにしろ魂はルミニエへ行くだろ」


 恨みがましく呻くルミニエだったが俺の一言で「それもそっか」とあっさり納得した。ちなみにルミニエへの情報料は四十二ポイントだったのに対して、ローブは千ポイントだった。まあ二人には態々具体的なポイント数は言わなくて良いだろう。


「そんなことよりこの後の会食をどうするかだ」

(そう言えば取り入るのが目的だったね)

「シンリの方も戦い終わった直後にも関わらず俺達を館に招待したのは、期待するものがあるからだろう」

(多分戦力としてだよね)

「ああ、そうだろうな。でも勇者ですら駄目だったんだから、直接戦うことだけ考えても先は無いだろ。前ルミニエには手数を増やしたいって話はしたけど、それ以外でも色んな分野でこっちの世界の人類にテコ入れしたいんだよ」

(その考えを受け入れてもらえるかな?)

「話の持っていき方次第だろう」


 今俺は向こうから【戦力】として認識されているだろうから、いきなり「お宅の国力を上げる方法がありますよ」と伝えて受け入れてもらうのは難しいと予想される。やはり現物を見てもらうのが一番説得力があるか。そうなると何が良いかな。ゴーレムを労働力として使って見せるか、地球産の野菜でも見せるか。


「一応提案するだけしてみて反応が悪ければ、実際にやって見せるしかないな」

(今回の魔物の侵攻で彼等も今までと同じことを続けていても、危ないって分かってるでしょ)

「それなら話は早いんだが」


 シンリは積極的にこちらと距離を詰めようとしているが、領主である父親の方はどんなスタンスか分からない。やはりこの後の会食の方が戦闘より疲れそうな気がしてきた。

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