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第十五話 歓迎

 シンリの案内で城門に到着すると元々城門近くに控えていた兵士が俺とティアを呼び止めた。


「お待ちください。入市(にゅうし)の手続きをしていただきます」

「この方達にそのような手続き無用です。この方達は私が招いたのです」


 俺達を止めた兵士、この場合門衛と言った方が正しいか。その門衛と俺の間にシンリが割って入った。


 入市の手続き? 入国手続きの【市】バージョンなのだろうか。当然ながら俺とティアは身分証なんて持っていない。このままシンリが取り成してくれるなら有難い。それにしても俺は街の防衛でかなり活躍したのに、そういう手続きはしっかりするんだな。


 門衛は丁寧な物腰ではあるが引く気はなさそうだ。悪意は感じないので杓子定規だなと呆れ半分、感心半分である。城壁でハッキリ内と外を分けているこの街にとっては入市というのは、現代の入国に近いのだろう。そこの担当は緩いよりは杓子定規なくらいの方が良い。


「街を救った方々なのは重々承知しております。入市税に関しては私の方で処理しておきます。しかし非常時以外手続きの省略は困ります。私の権限を越えています」

「ですから今は非常時でしょう」

「しかしながら魔物の群はもうおりません。正規の手続きを」

僭上(せんじょう)な。権限が問題なのであれば、それこそ何の権限があってシドー様を阻むのでしょう。女神様の御導きによ──」


 ティアが兵士とシンリの会話に突然割って入った。しかも、ここではまだ言って欲しくない情報まで口にしそうだったので、俺は慌ててティアの手を引いて止める。俺は強く念じてティアに落ち着くようメッセージを送る。そして今この場で俺達の事情をシンリ達に教える気はない。教える時機は俺が判断すると改めて念押しした。


 多分ティア視点では俺の行動を妨げる行為は、神の意向に背くことに等しい行為なのだろう。しばしば忘れそうになるがルミニエはこの世界の神だ。俺はその神の意向でこの世界を救おうと行動している。そのことを知っているティアにとっては門衛の言い分は納得しがたいようだ。しかし、彼にはそんな事情は察しようがないのだから、責めるのは可哀そうだ。俺の考えを理解したティアはなんとか落ち着きはしたが、門衛には冷たい視線を送っている。


「失礼しました」

「いやあ、うちの者が申し訳ない。私は手続きくらい気にしないので」


 何とか誤魔化そうと愛想笑いでそう言ってみるものの凍った空気がつらい。


「いえこちらこそ大変失礼を致しました」


 シンリも問題を大きくしたくないのか、なあなあで収めようとしてくれている。流石に身分のあるシンリがここまですると、兵士も強くは出られない。


「記名と簡易鑑定をしていただければ充分ですので」


 差し出された質の悪い紙に、ささっと自分とティアの分の名前を書く。【言語理解】のスキルのおかげでこちらの世界の文字の読み書き出来る。今も十分に意思疎通が出来ているが、このスキルのレベルを上げたら何が変わるのか少し気になるな。しかし、今は意識を逸らしている場合ではない。


 次に差し出されたのは魔石が四方に埋め込まれた金属板だった。えっ、これどうすれば良いんだ。多分簡易鑑定をこれでするんだろうけど使い方が分からない。表には出さないが冷や汗が出そう。


(これは構造的にしばらく持っていれば反応するようになってるね)


 ルミニエの助け舟でなんとか難を逃れる。金属板を受け取り五秒くらいしたら文字が浮き出て来た。名前しかなく大きな空白が残っている。これはこういうものなのか。ティアも同じだったが兵士とシンリどちらも何も言わないので問題はないのだろう。


「はい、神殿からの破門や指名手配はありませんね。ご協力ありがとうございました」


 金属版を返すと兵士は深々と腰を曲げた。もしかして金属板の大きな空白にはステータスじゃなくて前科が出る仕様なのか。仕組みは分からないが便利なのか? いや統治や治安維持には役立つか。それにしてもこの程度のことなら揉め始めた時点ですぐに俺が受け入れておけば良かったな。


 城門を通り街に入ると豪華な装飾が施された馬車が止まっていた。シンリが部下にでも用意させていたのだろう。これに乗って館まで行くようだ。シンリが近くに控えている部下に何か言付けているのが漏れ聞こえる。


「イレミアナに伝えて頂戴。例の件は延期と、それで伝わるはず。それより今から客人を招くので歓待の差配を最優先で頼むと」


 シンリからはこちらを重視する姿勢が窺える。街の防衛へ介入した目的の一つである有力者とのパイプ作りは今のところ順調のようだ。後は頼りないと噂の領主と、その側近達の反応次第で俺の方針も決まる。


 街の道は整っているが、馬車にはサスペンションやゴムタイヤなどが無い為馬車の乗り心地は微妙だ。落ち着いたら作って売りつけるか、似た機能を持つ物を作れるように仕組みを有料で教えても良い。


「お二人はどちらから来られたのでしょう」

「この街の近くを流れる川の上流にあるロングット村から来ました」

「っ確かそちらは魔物によって」


 シンリにもロングット村が滅びたのは伝わっていたようだ。これなら俺達の素性も調べようがないだろう。


「滅んでいました。こちらのティアが村の縁者でして、その縁もあって村にいた魔物の討伐を(おこな)っていました」

「あちら方面は完全に魔物の勢力圏になっているのに、たったお二人でですか?」

「強い魔物はいませんでしたから」

「それにしても勇敢なものです。何時、何処で、どれだけの魔物に襲われるかも分からない状況など私ならば冷静ではいられません」


 シンリは頻りに小さく首を振る。魔物の勢力圏での状況を想像しているのだろう。だが俺からすればシンリの指揮は巧みなものだと思う。率いる騎兵隊は危なげなく戦っていた。


「そうは言ってもシンリ様も先程は勇猛に騎馬隊を率いていたではないですか」

「いえスワ様の戦い振りの後では霞んで見えるでしょう」


 お互い友好な関係を結びたいので、どうしても褒め合いになってしまう。ちょっと恥ずかしいものがある。


「あれ程の数の魔物に臆することなく立ち向かった姿は私も見習いたいと思います。戦いでは魔物の群を引きつけながら後退して、群が縦に伸び切ったところを切り裂くように分断していきましたね。あれは当初から決めていた策なのでしょうか」


 あのような大規模な戦いではもっと準備をしたかったのが本音である。戦いながらその場で色々考えることになるとは思っていないかった。ただシンリ相手には言えないが危なそうであれば逃げる手も俺達にはあったから、気持ちに余裕があった。


「いえ、実際に魔物の大群を目にしてまともにぶつかるのは、激流に飛び込むようなものだと思ったのでその場で決めました。それに城門や城壁をトロールに壊されてはまずいので、優先的に倒す為鈍いトロールを孤立させるように動きました。群がばらけてしまえば大した相手ではないので」

「そうは言っても万を超える魔物ですよ」

「数万の魔物の群と正面衝突して勝てるかどうか分かりませんが、数匹の魔物と一万回戦うのなら確実に一万回勝てますよ」

「……ぜひその御力を当家にお貸しいただければ幸いです」

「ええ、協力関係を築いていければ良いですね」


 丁度良いタイミングで館に着いた。大きな門扉が開き、広い敷地内をそのまま進む。館の玄関前で馬車が止まると馬車の扉が開かれ、玄関前には三人の少年少女がいて出迎えてくれた。


「私の弟と妹達です。ご挨拶を」

「領主の長男であるグラウィ・ラース・インスラーテと申します。今回の防衛にて大変な活躍と聞いています。感謝します」

「次女のエルダです」

「三女のイレミアナ・ラース・インスラーテです。心より歓迎いたします」

「手厚い歓迎嬉しく思います。私はスワ・シドー。こちらがティアと申します」


 シンリも美人だと思ったが家族も当然の如く美形だ。それも四人揃うと一層華やかだ。こちらもティアは負けていないが、俺は、俺は別にどうでも良いだろう。


「今食事など用意しております。少しの間お待ちいただいて宜しいでしょうか」


 朗らかな表情のイレミアナと名乗った少女の提案に俺は二つ返事で頷く。お腹は空いているし、こちらの世界の料理には興味がある。


「その間にお召し物も用意いたしましょう。案内いたします」


 まあ俺の服は控えめに言っても、場に相応しいとは言えない。魔法の【浄化】を使い綺麗にして防具を外したとしても、服が完全に場違いだ。シンリ達四人は貴族然とした格好なのに対して、俺の服はズタ袋を縫い合わせたのかと疑うレベルの出来だ。流石にあちらもスルー出来なかったようだ。俺達をそれぞれ別の部屋へ案内しようとしたところで、ティアからストップがかかる。


「私はシドー様の傍に控えていなければなりません」


 相手はこちらに敵対する気はなさそうだが一応見ず知らずの場所で、離れるのは好ましくないか。


「ティア様は妻ではなく従者なのですか?」

「私如きが妻などと恐れ多いことです。シドー様にはいと尊き御方が──」

「ああ、ティアは私に仕えてくれていますが、身内のようなものです」


 はい、カット。正直肝が冷えた。ティアとの関係がそういう風に見られるのはあり得ると思っていた。しかし、ティアの口からとんでもない爆弾が飛び出そうになるのは予想外だった。名前は伏せていたが「いと尊き御方」はルミニエのことだろうか。なんでそんな風に思ったのかは分からないが断じて違う。


 とりあえず俺とティアは同じ部屋へ案内してもらうことにした。ハッキリ言って俺達はこの世界の常識に疎い。ルミニエは俺達以外に見えないし、直接現地の人間に干渉する気はないようなのでまだ良い。ティアは基本大人しいが偶に危ういところがある。さらに俺とティアは明かせる経歴が無い。どうやって誤魔化そうかそればかり考えている。




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