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第十四話 初接触

 トロールを始末して死体も回収する。それだけで魂のポイントが二千以上増えた。ステータスで確認すればこの戦いだけで一万ポイント程手に入っている。これだけあればスキルもかなり習得出来るし、生産態勢すら整えられるかもしれない。俺がそんな捕らぬ狸の皮算用をしている間に戦いはほぼ終わっていた。


 魔物はもう死ぬか散り散りに逃げ去った。目ぼしい敵がいなくなった五十の騎兵がこちらへ向かって来る。先頭は意外なことに女性だった。俺達から少し離れた所で下馬し兜を外しながら歩いて来る。身長は俺と同じくらい、女性的な体つきだが歩みに弱さなど感じない。


「私は領主の娘シンリ・ラース・インスラーテ。加勢感謝いたします。さぞ名のある方とお見受けしましたが」


 領主の娘とは驚きだ。立場を考えればこんな少数で野戦を仕掛けるなんて蛮勇と言っても過言ではないと思う。しかし野蛮さや驕りのようなものは感じない。むしろこちらへの態度は物腰柔らかなものだ。それにしてもこういう時の形式がいまいち分からない。やはり最初は名乗りから入るべきか、と意を決する。


「スワ・シドーと申します。私は遠方よりこちらに来たばかりで、こちらの作法には不慣れでして失礼があればご容赦を」


 もう名乗り風の言い訳である。しかし分からないものは分からない。流れでティアの紹介に移る。俺が軽く手で促すとティアが一歩前に出て片膝をつく。両手を組んで祈りを捧げるように頭を下げる。そのまま宗教画に出来そうな神聖な雰囲気だ。シンリはともかくその後ろにいる騎兵達はざわついている。


「ティアと申します。シドー様に仕えております」

「従者なのですか?」

「いえ身内のようなものと思っていただければ」


 シンリの問いにはすかさず俺が答えた。ティアの場合、俺を過剰に持ち上げるところがある。ここで応答を任せるのはリスキーだ。


「そうですか。不都合がなければ感謝を込めて御二人を歓待したいのですがいかがでしょう」

「ええ是非に」

「では館へ案内します」


 シンリはこちらに合わせて騎乗しないつもりのようだ。俺とシンリが並び、ティアが一歩後ろを歩く。他の騎兵達は俺達の前後に分かれて護衛するようだ。


「スワ様は大変お強いですね。武器と魔法どちらも実力が高く驚嘆するばかりでした」

「自分などまだまだです。私の方こそ見事な馬術に見惚れていましたよ」

「ふふっそれなりに鍛えております。しかしスワ様の魔法を見た後ではとても自慢出来るようなものでは御座いません。あれほどの魔法、私は生まれてこの方見たことが無く夢でも見ているのかと」


 女神様直伝の魔法はやはり衝撃的だったようだ。ルミニエの幻影が俺の右肩の上で踏ん反り返っている。俺とティア以外には見えないから良いものの、もし見えたら説明しようがなかったな。「これ、女神です」と言っても信じてもらえる気がしない。


「威力は見た通り良いのですが、いかんせん使用魔力が多過ぎて今の私では数発で撃ち止めですね」

「数発は、使えるのですね」


 シンリが息を呑むのが分かった。この様子であれば、あの魔法は交渉材料の一つになりそうだ。どういうものか教えるか、今回のような大規模な侵攻に対して俺が援護で撃つという条件でそこそこの物が得られるだろう。


「どの様な魔法かご教示いただけますか? もちろん相応の対価は用意いたします」

(私の加護が無いと無理だと思うよ。しかも君場合は守護石の効果で加護が強化されているし)


 シンリから早速の提案だがルミニエが首を横に振った。ルミニエの反応を見て講習料を取る俺の思惑は早くも頓挫した。俺は言葉を濁して断ることする。


「……少し難しいと思います」

「もちろんあれ程の魔法、教えろと言われて易々と教えることは出来ないでしょう。そこを押してお願いいたします。今回のような魔物の大侵攻はこれからもあるでしょう。その時、必ず必要になります」

「あぁ情報を出し渋っているわけではありません。あの魔法の使用には高い適性が不可欠なのです」


 どう説明すれば分かり易いだろう。俺もルミニエの加護と無関係の水属性以外の魔法には苦戦した。あの難しさを思い出すと、教えても再現は出来そうにない。必要な水魔法の実力の一端を見せれば納得するだろうか。


「そうですね。最低限これくらいは出来なければ、あの魔法は無理でしょう」


 俺は右手の人差し指を立て、そこに拳大の水の球を作る。水の形を変えていく。立方体、円柱、円錐、そして渦状にする。


「こんな、これほどの技術を事も無げに……」

「威力を出そうと思えばさらに魔力の多さも要求されます」

「我が領に該当する者は残念ながらいないと思います」


 本当に残念そうなシンリの表情にこちらも悪い気がしてくる。あの魔法が使える者を増やせるなら、城壁の上から何人かで撃っていれば雑魚の群なんていくら来ても問題ない。喉から手が出るほど欲しかっただろう。


 シンリが残念がっていると、俺達の前を行く騎兵のうちの一騎のスピードが落ち、俺達との距離が縮まってくる。どうも馬が怪我をしており、それが思った以上に重傷だったようだ。兵が馬から降りてこちらに頭を下げている。


「見苦しいところをお見せして申し訳ありません」

「戦いによる傷でしょう、何も恥ずべきところはありません」


 シンリが恐縮する兵に声を掛けている。俺が見たところ馬の傷は相当重い。足と横腹から血が流れ出ている。そこで俺が錬金術で作った傷薬のことを思い出した。ちょうど効果を試したかったのだ。


「よろしければ、こちらを」

「薬……ですか。よろしいので?」

「手製の塗り薬ですが最低限の効果はありますよ」


 シンリと兵は薬を渡され困惑した様子だ。訓練された馬なんて貴重だろうから諸手を上げて喜ぶと思ったのだが。それに鑑定でも人間限定の薬とは出なかったし、ちゃんと使えるはずだ。


「せっかくの申し出です。遠慮する方が失礼にあたりますよ」


 シンリに促され兵が薬を受け取り馬の傷に塗る。緑色のドロっとした液体を塗り付けると傷が見る間に塞がっていく。完治とはいかないが表面に新しい皮膚が出来ている。傷薬をもう一つ取り出して、今度は俺が新しい皮膚の上から塗り付ける。


「あ、こいつは気性が荒いので触れるのは危険ですっ」

「大人しいものですが? まあ私なら蹴られても大丈夫ですよ」

「シドー様はトロールの攻撃を受けても傷一つありませんでした」


 シンリと兵が目を見開いている。やはり俺の頑丈さはこちらの世界の基準でもおかしいようだ。まあ頑丈さだけでなくステータス全体に言えることなのだろう。俺が塗った部分はさらに再生して傷があった場所が分からないくらいになる。これホントに十回使ったら死にかけでも全快しそう。いや流石に欠損とかは無理だろう。


「あの、魔法職ですよね」

「私は錬金術師です」

「れん、生産職では、いえ……先程から驚くことばかりです。錬金術師の前は戦士か騎士でしょうか」

「いえ錬金術師が最初の職業ですね」


 シンリが困っている。彼女は俺の実力を実際に見ている。しかし俺の説明を事実とも思えない、彼女の持つ常識からは逸脱し過ぎているのだろう。ただ俺にこんな馬鹿げた嘘を言うメリットがあるとも思えず混乱しているようだ。


 俺も困っている。ルミニエのことを抜きにして説明するのは難しい。だが信じてもらえるかという点と、信じたとしてこちらにとって都合の良い動きをしてくれるかという不安がある。頭のおかしい人判定も困るが、変な宗教の神輿扱いをされても困るのだ。

ルミニエ「変な宗教、そんなのウチの世界にあったかな?」

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