第十三話 都市ヴィルト防衛戦 後編
全てのトロールの足を破壊し終わった頃、俺のことを追いかけていた他の魔物が及び腰になってきた気がする。最初の頃はもっと考えなしに突っ込んで来ていたのに、横や後ろに回り込もうとする奴も増えた。一番多いのは俺達から距離を取って様子見しているか、俺達を無視して城壁へ向かうかだが。
城壁の方はもう放って置いても大丈夫そうなので周囲の魔物を片付けていく。そんな時なんと都市から五十ほど騎兵が打って出て来た。
「魔物の数も減ったとはいえ、あの数で野戦を仕掛けるなんて気合入ってるねえ」
「主様が言うのは矛盾していませんか?」
何事にも例外は付き物だ。それにしても現地の人間との接触が間近に迫ってきて思ったのだが、ティアに「主様」呼びされているのは拙いのでは。何の地位も保証も無い俺が主様というのは違和感を与えそうな気がする。
連れはティア一人だし、服装もティアの方が何か品があるしな。ティアは元々女神像である。つまりティアはこちらの世界の人間が思う女神っぽい見た目であり、服装も元々女神に相応しい物としてデザインされているわけで誰が見ても俺より格上である。人は見かけによらないなんて言うが、あれは嘘だ。見た目で人は判断する。ソースは俺。
このままティアに「主様」呼びをさせていたらそのチグハグさに違和感を持った者が痛くも無い腹を探ってくるかもしれん。ティアとの関係性は別に疚しいところはないが、いかんせん説明しても納得してもらえるとは思えない。女神像を素材にしてゴーレムを錬成したらこうなったと言っても誰も信じないだろう。せめてもう少し穏当な呼び方にしてもらおう。
「なあティア。俺の呼び方、主様って止めない?」
言った瞬間ティアの体が強張った。雰囲気もあからさまにショックを受けてる感じがする。まさか呼び方一つでここまで強い反応を見せるとは思ってなかったので、俺にも緊張が走る。
「何か、粗相を、致しましたか?」
「ティアに問題があったわけじゃなくて名前で呼ばないかって言いたくて」
今度はあからさまに空気が緩んだ。ティアはほっとしたようだ。
「ではこれからはシドー様とお呼びします」
「お、おう、様をとって呼び捨てか、さん付けでも良いぞ」
「いえ恐れ多いです。これからはシドー様でお願いします」
お願いしてるのは俺の方だけどね。戦場とは思えないほのぼのしたやり取りをしながらも魔物の討伐は順調だ。今も剣を持ったボブゴブリンを鉄の棒によるリーチの差を活かして正面から頭を叩き潰す。ボブゴブリンが持っていた剣を拾ってみるか。先ず鉄の棒を収納する。イメージするだけでアイテムの収納や持ち替えをすることに慣れて来た。今のは結構スムーズだった。
さて剣を拾い上げ鑑定する。数打ち物だな。殺した人間から盗った物なんだろう。刃毀れや汚れが酷く使い続けるのは無理そうだ。試しに俺達を囲んでいるコボルト達へ素早く近づき突き入れてみる。剣がボロボロでも相手も頑丈ではないので難なく突き刺さる。抜くのに苦労するかと思いきや、こちらもステータスのおかげか軽く抜けた。その間にコボルトが二匹飛び掛かってきていたが一匹は剣による突きが間に合う。もう一匹はコボルトが突き刺さったままの剣で払いのけ、地面に転がったところを蹴り殺す。
先程まで使っていた鉄の棒に比べて短い分、取り回しがしやすい。戦いに不慣れであまり敵に近づきたくない気持ちもあってリーチの長い武器を使っていたが、使ってみるとスタンダードな剣も意外に良い。何でも試してみるもんだな。調子に乗って魔法も使ってみることにした。
「ここはまだ使ったことが無い土魔法かな」
【ストーンバレット】を使えば文字通り複数の石が魔物達を襲う。うん、手で投げた方が強いね。【ストーンランス】は地面から円錐型の石が生えた。遅過ぎて当たり辛い。
「難しいな」
「ある、シドー様ならば数を熟せば忽ち巧みになられはずです」
ティアの中で俺はどういう超人になっているのか心配になってきた。しかし言っていることはもっともな話だ。何でも最初から上手くいくわけがない。数を熟す、一つの真理だ。
「土魔法はなんか速度が微妙だから決め打ちする感じの方が良いか、それとも設置する感じか?」
落とし穴とかどうだろう。こちらへ向かって来る魔物の進路に【ピットフォール】で穴を作ってみる。上手くハマった。浅いので死にはしないが足止めには十分である。地面を沼にしても効果的かも、そんな魔法あったかな? 思い出せん。イメージだけで効果を出すのは流石に時間が掛かりすぎるな。とりあえず土魔法はこれくらいで良い。
次は水魔法か。正直水魔法に関してはティアが天才的だから俺が使う必要性は低い。俺が使った場合の威力だけ見ておくか。
「ウォーターボール」
気の抜けた呪文を唱えた瞬間、水の塊が十メートル程先に固まっていたコボルトの集団へ高速で着弾。コボルト共がボーリングのピンみたいに吹っ飛んだ。
「お見事です」
「えぇ……なんでぇ?」
ティアは当然のごとく受け入れているが、俺からすれば意味不明な威力に困惑しかない。たぶん今まで魔法を使った中で一番気を抜いていたのだが、威力は断トツで一番あった。あまりの威力に俺達を囲んでいた魔物達も怯んで距離をとり始めた。
(もうそろそろ余裕が出来た頃?)
「ちょっと待てって言ったけど、ホントにちょっとしか待たないな」
(魔法の使い方下手だねえ。私の加護があるんだから水魔法なんてもっとやれるでしょ)
「むしろ威力の高さにびっくりしていたんだが」
(えぇ……しょーがないなー。こうすれば良いの。君がティアちゃんに教えていたヤツを改良してあげちゃう)
ルミニエがそう言った瞬間、俺の脳裏に強力な水魔法のイメージが焼き付く。大きな水の球の中に凄まじい勢いの砂利混じりの水流が循環している。強力な嵐を無理矢理押し込めたような暴力的なエネルギーを感じる。その莫大なエネルギーを魔物の群の頭上で開放する。そんな映像を見る自分の姿が見えた。
「何をした……」
(君がティアちゃんにしているのと同じ、イメージを送っただけだよ)
「そんなこと出来るのか」
(繋がりがあるからね)
俺の問いに事も無げに答えるルミニエ。俺はもっと色々聞きたかったが今の状況がそれを許さない。魔物の群を放置するわけにもいかず、とりあえず今のイメージの魔法を準備する。
空中に大きな水の塊を生み出し、そこに砂利を入れる。水の塊から砂利が落ちないようにするのが難しい。下の部分を固める? いや内部で強い水流を循環させれば、んー砂利が落ちる。違う違う物理法則なんて気にするからダメなんだ。
水に関する魔法ならイメージすればそのまま実現出来る、下手な理屈を考えるのではなく、その感覚の方を信じる。水の球に強固な膜、外殻があるようにイメージする。そして内部で水を勢いよく循環させそこに砂利を入れる。内部はさながら嵐のようだ。外には一切漏れていないが砂利混じりの水流が凄まじい勢いで回っている。魔力がゴリゴリ減っている感じがする
「いけるっ」
敵が密集している所へ飛ばす。そして敵の頭上で水球の外殻を消し内部の暴力的なエネルギーを開放した。散弾じみた砂利の暴風雨は凶悪な威力で魔物をズタズタにする。砂混じりの水流はゴブリンの軟な皮膚を剥ぎ、石は肉を食い破る。遠目でも分かるレベルでグロいことになっている。
見た感じ死ななかった魔物も戦闘に支障をきたす程度に苦しんでいる。効果範囲は致命傷が半径二十メートル、戦闘に支障が出る負傷が半径二十五から三十五メートルくらいか。あまりの高威力に何も言えずにいると、戦場に変化が生まれる。
「魔物が逃げ始めました」
「俺の魔力も少ないし丁度良い」
既に及び腰になっていた魔物共は一気に逃げに転じたようだ。そこを先程城門から出て来ていた騎兵が突く。逃げている魔物は、その背を騎兵に襲われどんどん数を減らしている。たった五十騎程度の割に慣れた手並みで処理している。
「上手いもんだな。あっちは任せよう」
俺達は小物を追いかけるより足を潰したトロールにトドメを刺していった方が良いだろう。得られる魂ポイントも多いしな。もう魔物に囲まれて袋叩きにされる危険性はなくなったので、抱えていたティアを下ろしトロールの方へ向かう。
それにしても水魔法だけやたら威力が出るしルミニエの改良した魔法は桁が違った。やっぱり水の女神の加護を受けているからだろうか。俺とティア二人共【女神の加護】が付いているのをステータスで確認しているが、ここまで効果があるのか。ゲームなら得意属性被るとかもったいないと思うところだが、これだけ威力があったら損した気分にはならない。他属性はアイテムで何とかすれば良い。今の所ほとんど錬金術を活かせてないが一応俺は錬金術師だしな。
しかしルミニエが俺にイメージを送ったあの時、あれは本当にイメージを送っただけなのだろうか。脳内に火花が散るような感覚の後、魔法の映像を俺は見ていたはずだ。でも同時に俺はそんな俺自身を第三者視点で見ていた。そんな訳はないのに、少し混乱しているようだ。




