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第十話 不穏

 川沿いの道を下ること半日、もぬけの殻となった村が三つあったがルミニエの言っていた大きな街には未だ着かない。三つの村は争った跡や遺留品のようなものはなく、恐らく魔物の接近を知って避難したことが予想される。

 少々申し訳ないが、錬金術用の素材欲しさに金属製の農具や工具、調理器具などを拝借した。恐らく避難先は俺達が目指している大きな街だと思うので、後で何らかの補償をするつもりだ。

 それと手に入れた鉄を使って棍棒を錬成した。そろそろ接近戦を素手でやるのは卒業したかったのだ。王道なら剣だと思う。でも剣術なんて分からないし、当分は力任せに振り回すくらいしか出来ないだろう。嘘かホントか、マンガとかだと素人では剣や刀は上手く使えないと描写されている。それなら逆に考えて、力任せに振り回すのに相応しい武器を持とうと思ったのだ。

 出来上がったのが長さ二メートル、直径七センチ程の鉄の円柱だ。棍棒というよりただの建材だが雑魚狩りには最適だ。なにせ手入れが楽である。

 村々には漏れなく魔物が住み着ており合計五十匹程始末した。雑魚だったがコッチに来てから初の魔物が一種だけいた。グレーウルフという狼型の魔物である。速さはそこそこだったが、それ以外に特筆するところはない。今は全て死体になって収納されている。

 この感じだと今日中に街には着かないかもしれない。野営も視野に入れつつとりあえず食事のことを考え始める。川沿いだし、ここはやはり魚だろうか。

 道の横を流れている川で魚を調達することに。川は見たことが無いほど綺麗で透き通っていた。そんな状況ではないと分かっているのに少し感動してしまった。本当に綺麗なものを見ると理屈抜きで見入ってしまうものなんだな。ちょっとの間ぼけっとしていた。


「何か珍しいものでもございましたか」

「んー水が綺麗だなあって」

「普通だと思いますが?」

「俺のいた所ではこんなに綺麗な川は珍しいんだよ」


 苦笑するしかない。こっちが本来の姿であって俺の身近な川が汚れていただけである。人が多く生活していればどうしてもそうなる。この辺りには小さな村がいくつかあっただけで、それも今は人が逃げて誰もいない状態だからこその水の綺麗さだろう。田舎の上流にいけばこんな感じなのだろうが、あまりこれまでの人生で縁がなかった。


「いつまでもボーっとしているわけにもいかない。さっさと魚を獲ろう」


 透明度の高い川なので魚は丸見えだ。事実かどうかは知らないが、コッチから見えるということは魚側からも見えていて警戒心が高くて獲りづらいと聞いたことがある。しかし今の俺には化物じみたステータスがある。ゴリ押しでいけるのでは。比較的に岸から近いところを泳ぐ魚に狙いを定める。身を低くしてそろりそろりと近づき、最後は一息で手の届くところまで飛び込む。川に右手を高速で突き入れ魚に反応する時間も与えず掴む。


「よし、あっ力入れすぎた」


 我ながら素晴らしい出来だと思ったが力加減を少しミスり魚を傷めてしまう。なんとか魚がグチャグチャになるのは回避したが、口からは血と内臓らしき物が。ステータスの高さが仇になった。しかも派手に動いた為に他の魚たちは逃げてしまい周囲からいなくなった。


「ここはお任せください」


 ティアが進み出て手を川へ向けると川に波紋が発生するもなかなかそれ以上の変化は現れない。十秒以上経ちやっと歪な水の塊が中に魚が入ったまま水面から飛び出る。魔法って万能だなあ、と俺は関心していたのだがティアは首を横に振る。


「これは思ったより消耗が激しいです。水ごと魚を川から出してしまえば良いと思ったのですが魚に近ければ近いほど制御が難しくなってしまって……」

「生き物の近くだと魔法に干渉でもされるのか?」

「そのような感覚があります」


 そういえばゲームでも敵に直接効果を発揮する魔法は無かった。例えば血管や内臓に直接効果を発揮できるなら簡単に相手を殺せるがそんな魔法は、この世界が基になったゲームでは存在しなかった。全ての攻撃魔法は各属性の事象を発生させてそれを敵に当てることでダメージを与えていた。具体例を挙げるなら火の球を敵に向かって放つなどだ。敵の体を発火させたり、敵の口や鼻付近に炎を発生させ呼吸を阻害もしくは気道や肺に火傷を負わすなどの方が単純な火力で見れば低くても致命傷になる。にもかかわらずそういった魔法が無いのは、自分以外の生物とその近くでは上手く使えないという法則のせいなのかもしれない。


「じゃあ魚から離れた所に魔法を発動して波を作って岸に打ち上げることは出来そう?」

「やってみます」


 ティアが再び川に向かって手を突き出す。今度はあまり時間も掛からず大きな波が発生し川岸へと打ち寄せ、水が引いた後には数匹の魚が跳ねている。見事なものだ。


「やっぱり魔法は発想が大事なのかもな」

「主様の助言があればこそです」

「ティアだったら俺が何か言わなくてもすぐ自分で解決しそうだけど」


 実際に使う場合どんな感覚なんだろう。元々は魔法にそこまで執着があったわけではないが、人が使っているのを見ていると気になってくる。ティアが使っているのを見る限り便利そうだし獲得して損はない、ないだろう、ないはず。


「俺も何か魔法スキル取ろうかな。火も扱えた方が良いだろ」

「水属性は取らないのでしょうか。主様がお使いになれば私では思いもつかない考えも浮かぶのではないかと」

「まあスキルレベル一なら四大属性の魔法全て獲得しても安いからなあ」


 レベル一のスキルは獲得コストが少なく、たったの十ポイント。スキルを一つレベル三まで取るのと合計八十ポイント必要だ。それだけスキルレベルの違いが効果にも現れるのだろうが、初期スキルはお安い。それにしても魔物とはいえ命や魂を安いとか酷い話だ。でも俺は悪くねえ、こんなシステムにしたルミニエが全部悪い。俺の想像の中のルミニエも「薄汚ねえゴブリンの魂で【スキル】貰えるなんてサイコーでしょっ」と言っている。


「よし、四大属性の魔法は獲得しておくか」

「主様であればたちまち魔法の扱いも私より上手くなられることでしょう」

 

 火、水、風、土属性の魔法スキルをすぐに獲得する。たった四十ポイントだ、お得だな。早速魚を焼くための火を魔法で起こしてみるか。適当に【収納】しておいた木の枝を取り出し風通しが良い感じに組み、そこへ魔法を使おうと意識する。

 おぉ、魔法を使おうと集中すると候補の呪文が頭に浮かんでくる。ゲームで一番最初に覚える火呪文の【ファイヤーボール】と唱える。自分の体中から未知のエネルギーが湧き出すような感覚がある。それが目の前に収束していきハンドボールサイズの球状の火炎になって木の枝へ飛ぶ。そして一瞬で木の枝は灰になった。


「主様ほどにもなると低級の魔法であっても埒外の威力になるのですね」


 失敗したのにそんな風に感心されるのは、なんとも気まずい。無言でささっともう一度木を用意し今度は先程より小さい【ファイヤーボール】を強くイメージして使う。さっき初めて感じたエネルギーのようなものが魔力なんだろう、これを抑えるように加減する。そうすれば先程の半分くらいのサイズの火の玉になり木の枝への着火も成功した。

 俺が今二度使った魔法はゲームにも存在した呪文だ。しかしティアは俺のアイデアを聞いてもっと色々自由な感じで魔法を使っていた。俺がホントにやりたかったのはそっちだ。

 頭に思い浮かぶ呪文を無詠唱で使おうとしてみるが発動しない。

 思い浮かぶ呪文ではなくイメージだけでライターくらいの小さな火を発生させようとする。もちろん既存の呪文ではないので詠唱も無しだ。こちらも出ない。もしかして、これ滅茶苦茶難しいことやろうとしてる?

 精神を集中して魔法を発動させた時の魔力の感覚を再現しようとする。なんかジワッと出てる気がする、もちろん魔力がだ。それを集めて火になるイメージを念じ続ける。ポッ、一瞬火が現れ消えた。たったこれだけで汗びっしょりだ。


「ティアって呪文も唱えずに使っていたよな。どうやっているんだ?」

「どうとは? 自分から離れすぎているか、相手と近すぎるかしない限りは頭で思い描いた通りに発動しますよね」

「えっ」


 ウチの子は天才? なんていう親バカみたいな言葉が出そうになった。さっき無詠唱を試した俺はガス切れ寸前のライターみたいな火を出すのに汗びっしょり、比べるのも恥ずかしいレベルなんだが。ステータスでもティアの魔力は飛び抜けた数値だった。あれはただ魔力の保有量が多いことを示していたのではなく、魔法全般の適性の高さの現れとでもいうのか。俺がとてつもなく魔法が苦手なだけの可能性もあるが、そうじゃなければ良いな。


「俺の魔法は要練習だな。今後魔法スキルはティア優先にする」

「そんな、主様ならばすぐ使いこなせるようになられます」

「まあ呪文を詠唱して発動させるのは問題なく使えるよ。でも魔力の総量や応用に関してはティアの方が上だ。手っ取り早く戦力を上げたいならティアの魔法スキルを優先した方が良いだろう」


 得意な者が得意なことをする方が効率的だ。それに呪文さえ唱えれば問題なく使えるのだから今はそれで充分。

 俺が悪戦苦闘している間に魚が焼けた。塩を振って、さあ食べようかという時に小さなルミニエの幻影が現れた。


(神様を働かせている間に食べるはご飯は美味しいかい?)

「美味いぞ」

(××××)


 ルミニエが前回の俺の揶揄へのお返しをしてきたので、素直に答えてやる。そうしたら何か口汚く罵られたっぽい。人間の俺には高尚過ぎて聞き取れなかった。残念だな、神様流のスラング詳しく聞いてみたかったなあ。


(で、調べた結果だけど)

「切り替え早いな」

(良い知らせと悪い知らせがあるよ)


 それ言いたかっただけだろ。どっちでも良いよ。結局どっちも聞くんだから。


(じゃあ悪い方から、目的地であるインスラーテ領のヴィルトって街だけど……えー魔物の大群が迫っております)

「え、ちょ」

(で、良い知らせの方は……街はまだ滅んではいません)

「下手くそかっ! このテンプレここまで下手な奴初めて見たわ」


 ついツッコミを入れてしまったが、もっと大事なことがある。


「まだってことは結構ヤバいのか?」

(魔物の数が多いうえに、なんか領主が頼りないんだよねえ)


 おいおい、危機的状況で上が頼りないって最悪だろ。よりにもよって一番上が駄目なのは厳しい。


(あ、でも全体で見れば良い知らせだったかな)

「どこがだよ」

(街はまだ存続していて領主は頼りない。つまり街はまだ救えるし、頼りない領主になら取り入るのも簡単でしょ)


 簡単に言ってくれる。確かに上手くいけば一気に俺の計画は進むだろう。しかし大きな街ですら危ないということは、魔物の数は今まで俺が相手にしてきた数とは桁が違うはずだ。やれるのか?

 それに行くにしても俺だけの問題ではない。ティアへ視線を移すと彼女は引くことなど一切考えていない決意に満ちた表情をしている。ちなみにルミニエは本当に簡単だと思っているようで暢気なもんだ。


「とりあえず行くだけ行ってみるか」


 我ながら何とも気の抜けた言葉だ。あーここ格好良く決める場面だったな。今更ながら俺は英雄には向いてない。無理そうなら高いステータスを最大限活用して逃げの一手でなんとかなる。心中でそんな算段を立てつつ、焼けた魚を急いで口に放り込んで出発する。先ず間に合わなければ意味が無い。

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