第九話 【奉納】は神システム
寝る場所は結局神殿にした。そうそうこの世界に来た時にいた場所は神殿の中でも礼拝堂だとティアに教えられた。神殿には礼拝堂とは別に関係者用の居住用の区画があり寝具もあった。なお寝室と寝具以外は荒らされており使い物にならなかった。
寝る前にはティアの神聖魔法の魔物除けを使う。これは便利そうだが強い敵を近寄らせないほどの効果は無い。それでも範囲内に入ってくれば分かるようになっているので最悪の事態は防げる。俺は最初別の部屋で寝るつもりだったがティアの反対で同じ部屋で寝ることになった。ティアはそういうのは気にしないらしい。状況的にも魔物の襲撃があった時のことを考えたら近くで休んだ方が良いのも確かだ。
横になった後の記憶は無い。自分が思っていた以上に疲れていたのだろう。気付いたら朝だった。朝飯は昨日食べた物とほぼ同じスープ、具材の野菜多めの物しかない。街に着いたら、食事状況を改善しよう。
村を出発し山間を流れる川に沿って続く道を下っていく。山道ではあるものの傾斜は緩やか、路面は踏み固められていて歩くことに不便もない。代り映えしない風景に、ついある願望が漏れ出てしまう。
「肉が食いたい」
元々入院する前は肉中心の食生活だったし、すぐ食べられない状況だと余計に欲しくなる。とりあえず牛肉が良いな。こっちに慣れれば異世界特有の生き物の肉も良いかもしれない。だがゴブリン、てめえは駄目だ。臭いし汚いし臭すぎる。昨日の解体でそれが痛いほど分かった。だが言葉にしなければ伝わらないものもある。
ティアの顔色が変わり、恐る恐るといった感じで質問してきた。
「まさかトロールやゴブリンの死体を収納していたのは……主様といえどそれは」
「いや普通に牛とかの話だ。流石にあんなもん食べれるかっ」
臭いし汚いしそのうえ曲がりなりにも人型の魔物だ、食べようとは思わない。しかしなあ、ゲームにはオークという魔物が登場していて、これが豚型の二足歩行の魔物だった。倒すとアイテムとしてオークの肉が手に入り、ぶっちゃけ食用扱いだった。テキスト上では美味いと表現されていた。そういえば牛型の魔物であるミノタウロスもいたな。
どちらも顔と腕以外が装備でどうなっているのか見えなかったが、胴体や足が人間っぽい感じだったら食べるかどうか迷うところだ。
「……でもオークとミノタウロスは状況次第で食べるかも」
「魔物を食べるのですか」
ティアは大分引いている気がする。ゲームでは結構定番みたいな感じだったが、ロングット村では女神像に供えたりはしなかったようだ。そもそも魔物への備えも無さそうな村だったし、滅ぶ直前まで周辺に魔物なんていなかったのかもしれないな。
「見た目は豚と牛だからな(すくなくとも頭部は)」
「主様のご命令とあらば是非もありません」
ティアから悲壮感が漂い始めている。無理やり食べさせたりはしないし、俺自身もまだ食べるか決めていないから、そんなに重く受け止めなくても良いのに。ティアにとっては魔物を食べるという行為は相当ハードルが高そうだ。俺も今のところ出会った魔物で食べる気になる魔物はいなかったが。
「そんな決死の覚悟を決めた感じで言わなくてもいいよ。ティアが食べたくない物を無理に食べさせたりしない」
「いえ主様が食べる物を厭うなどありえません」
大丈夫? ティアは元々日焼けをしていないシミそばかす1つ無い頬が、今は何だか病的なまでに白く見えるぞ。それはさておき会話中も足は進む。しゃべりながらでも道に迷う心配はない。なにせずっと一本道である。進みながらも道や道の近くにある投石用の石やティアの魔法に混ぜる砂利を【収納】で回収していく。
丁度時間もあるのでティアにちょっと相談というか、情報の共有をしておくか。
「実はさ【奉納】の使い方について話しておきたいことがあるんだ」
「はい、昨日は大変お悩みのようでしたが」
「まあな。俺が元いた世界の物品が異常に高くて使いづらかったんだ」
ルミニエはぼったくり業者だと心の中で何度も罵った。しかし、そもそも使い方の前提がおかしかった可能性に俺は気付いた。
「俺は【奉納】で何でも手に入れられるからといって、必要な物を全て即その場で【奉納】によって入手しようとしていた。それが間違いなんだ」
何でも出来るからといって、何でも【奉納】頼みで進めようとするから魂が足りなくなる。俺は昨日の魔物の解体と料理を経てある気付きがあった。それは何でも自分でやるのではなく誰かに任せることと、こちらの世界の物で代用出来る物は代用することだ。
「欲しい物をそのまま【奉納】で賄うのではなく、例えば野菜やハーブの種を元の世界から手に入れてこちらで増やすとか。工作用や製造用の道具を手に入れて物をこちらの職人に作ってもらえば元手は掛かるが、最終的に手に入る量は格段に増える」
まあ製造用の道具は使い方が単純な物でなければ扱えないのが難点だ。動力に関しては電気ならどうとでもなる。魔法も有るし水力、風力、太陽光発電何でも良い。
「こちらの領地や国の生産力を上げれば、結果的に戦力も上がる。もちろん直接的に戦いに使う物の製造もやる」
なろう定番の火薬も作るべきだな。非力な者でも爆弾や鉄砲があれば戦力になる。役に立ちそうな本も【奉納】で手に入れれば良い。俺は少し視野が狭くなっていたようだ。【奉納】で得る物は投資として考えれば良い。逆に発展性の無いものは【奉納】以外の手段を探すべきだな。
「壮大な計画になりますね」
「ああ、最初は俺が頑張れば良い。俺と俺の仲間を強化していけば良い。そんな風に思っていたが、こっちの世界の人間全員巻き込んでしまえ、と」
「主様のお話を聞き、深い感銘を受けました。個人ではなく世界を以って魔物に対抗する、私もその一助となれるよう励みます」
こうも真正面から尊敬の念を向けられると照れ臭い。歩きながら誤魔化すように道端の草木に何か有用な物がないかな、と探す素振りをする。
「薬草とか生えてないかな? おっこれ何か他の草花とは違うぞ」
川のすぐ近くに目立つ青い花を見つける。早速【鑑定】を試みる。
【ルミーニエの青蘭】
水辺に咲く青い花が特徴的な植物。品のある美しい青い花、すらりと伸びた草丈と水辺に咲くということから水の女神の名で呼ばれる。毒性。特に花の部分の毒が強い。
「ブッ、毒あるじゃん。ルミニエの花は毒ありなんだ。普通薬になったりするものだろ」
「主様と女神様は大変気安い関係ですね」
「そう言われると恥ずかしいな。何かアイツと接しているとアイツのテンションに引っ張られるんだよ」
「私など昨日は女神様の威厳の前にただただ身を縮めるのみでした」
ティアがちょっと落ち込んでいる。いげん? 威厳、いい加減な奴だとは思うけど威厳は感じないな。俺って鈍感なのか。それはちょっと嫌だな。でもティアは気にし過ぎだろ。
「ルミニエはティアに対しても結構気安い感じだったと思うけど」
「それは女神様のお気遣いではないでしょうか」
アイツが気遣いって玉かよ。自分中心で自分のペースで全て進めていくタイプだろ。ある意味で滅茶苦茶自分に素直だ。その分、相手に気遣いするようには見えなかった。
「ルミニエはティアのことを自分の眷属みたいなものって言ってただろ。もう身内扱いなんだからあまり気負わなくても良いよ」
「身内扱い、ですか。恐れ多いです」
ティアのルミニエに対する崇敬の念が強過ぎて少し不思議に感じる。それとも俺のルミニエの扱いがぞんざい過ぎるのか? 仮にも女神なのだからティアの方が正しいと理屈では分かる。だが感覚的には俺自身今の接し方に違和感はない。
「ルミニエは大げさな崇拝とかは望まないと思うぞ。少なくとも直接やりとりする場合は堅苦しいのは好きじゃない気がする。俺の勝手な印象だけどな」
まあ真実は本人に聞いてみないと分からないので、機会があれば聞いてみよう。
一旦話が落ち着いたのでルミーニエの青蘭を採取し、錬金術の素材に使えるか確認した。コイツで毒薬が作れるらしい。現地産の三角フラスコのような形の陶器を【奉納】でいくつか手に入れる。一つたったの一ポイントだ、お得だね。毒花と陶器を使って練成すれば三つ毒薬が出来上がった。鑑定してみる。
【水の女神の怒り(毒薬)】
ルミーニエの青蘭の花が主成分。経口、皮膚への付着いずれにせよ効果を発揮する。効果を受けた者は酷い寒気に襲われ体の震えが止まらなくなる。水溶性。
「致死性は無いか、でもこの効果なら戦闘どころじゃなくなるし使えるな」
「他にもないか、道を少し外れてでも探しますか?」
「そこまでしなくても良い。おっヨモギが生えてる」
こっちにもヨモギは生えているんだな。道端で見つけたヨモギの葉を千切って指で潰してみる。匂いも特段変わったところは無い。鑑定してみる。
【ヨモギ】
多年性の薬草。傷薬、飲み薬など様々な薬に加工出来る。
鑑定の説明では凄く有用そうだけど効果はどうなんだろう。単に健康に良いくらいなら今態々採取するほどじゃないんだけど。練成リストにも……あるな。作ってみてから考えるか。この練成ってスキル、時間も手間も掛からず物を作れるなんて地味にチートだよな。また【奉納】で陶器を手に入れ、そこに傷薬を錬成する。ドロっとした緑色の液体が出来上がった。さて鑑定してみて。
【傷薬(下級)】
外傷用の塗り薬。効果は低い。対象の生命力の一割程度の回復力。
弱そうに見えて凄い。割合回復はおかしいだろ。その辺に生えているヨモギで割合回復出来るなんてぶっ壊れ性能だぞ。ら、乱獲しないと。
「こんなの俺の知っているヨモギじゃない」
「そうなんですか?」
「俺の世界のヨモギなんてちょっと体に良いって程度のもんだ。餅に混ぜたりするくらいしか俺は用途を知らん」
モチって何? という顔をしているティアに「今度作るから」と言いながらヨモギを採取していく。さっきは冗談で乱獲なんて言ったけどちゃんと残さないとな。また採れるように若い葉だけ選ぶ。ヨモギは生命力が強いから根本が残っていれば大丈夫かなとは思うが念の為。
結局傷薬をニ十個作って収納したが、これ本当に一割も回復するのだろうか。死にかけでも十個使ったら全回復するなんてちょっと想像出来ない。試してみたいが俺達は怪我なんてしていないし、薬の試しの為に態々怪我したいとも思わない。
「どっかに都合良く怪我した人とかいればなあ」
「必要であれば私が」
「ティアに怪我なんてさせられない」
「はい」
ティアがシュンとなってしまう。しかし実験体になんて出来ない。やるなら魔物でやった方が精神衛生上良い。
それにしても全然街が見えてこない。ロングット村ってどんだけ田舎だったんだ。田舎は嫌いじゃないが不便だっただろうなぁ。




