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呪われた仮面公爵に嫁いだ薄幸令嬢の掴んだ幸せ【書籍1巻&コミックス2巻発売中!】  作者: 花宵


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【コミックス1巻発売記念SS】偽善者 Side.セピア

※注意

こちらのSSはコミックス1巻の発売記念として、書籍版をベースに書いています。

なのでWeb版とはキャラの設定や性格、印象が異なる可能性があります。

それでも良いという方のみ、お進みください。


時間軸は、リフィアが嫁いだあとのセピア視点のお話です。




 園遊会から帰宅したセピアは、エントランスに飾られた豪華な調度品を見て、内心ため息を漏らす。

 

(また、調度品が増えているわ。これもきっと、お姉様の支度金で買ったのでしょうね……)


 どうしてこんなにも、両親は見栄を張ることを優先するのだろうか。そんなことをしても、過去の栄光や権威を取り戻すことなんて出来ないというのに。


(こんなものを買い揃えている暇があるなら、少しは魔法の訓練をされたらいいのに)


 秩序を司る守護女神ヘスティアの加護を受ける、由緒正しきエヴァン伯爵家――その加護は血筋に宿り、本来なら当主となる者は、聖なる炎の守り人に相応しく、守護女神の魔法を使える者がなるべき地位だ。


 エヴァン伯爵家に伝わる守護女神の魔法は、聖なる火の鳥を召喚し、悪しき者を灼熱の炎で燃やし尽くす強力な魔法――しかし元当主である父セルジオスは、この特別な魔法を使うことができない。


 それでもセルジオスが伯爵を名乗れているのは、正当な血筋を持つ継ぎ手が他にいないためだった。


 セルジオスには昔、守護女神の魔法が使える優秀な兄がいた。

 しかし本来爵位を継ぐべきであったその者は、罪を犯し一族を追放された。


 代わりに爵位を継ぎ、それから何年経っても守護女神の魔法を使えるようにならないセルジオスに、周囲の目は次第に冷たくなっていった。その結果、火属性の派閥の家門の中でも、エヴァン伯爵家の権威は落ちていく一方だった。


「それはとても希少価値の高い品だ。我がエヴァン伯爵家のエントランスに相応しいだろう?」


 声をかけられ振り向くと、自慢げな笑みを浮かべるセルジオスの姿があった。

 上質なウールで作られた黒いコートに身を包み、ボーラーハットを被って外出の身支度を整えた父は、どうやら今日も外出の用事があるらしい。


 まもなく日が暮れるというのに、夜な夜などこへ出掛けているのか。またよからぬものを買ってこなければいいが、聞く耳をもたない父に余計な口を挟むと機嫌が悪くなる。


 結局逆らう勇気もなくて、セピアは自身の感情を圧し殺すしかなかった。


 今のエヴァン伯爵家は、過去の栄光と権威を領民の血税で誇示し、なんとか見栄をはっているようなものだった。

 そこへクロノス公爵家から多額の支度金という大金が入れば、こうなることは目に見えていた。そしてそれを、止めることもできない。


「ええ、そうですね」


 同意を求めてくるセルジオスの機嫌を損ねないよう、セピアは笑顔を作って返事をする。


(ああ……息が詰まる)


 つまらない話をそれ以上聞きたくなくて、話を切り上げて部屋に戻ろうとした時、タイミングよく執事のセバスチャンがやって来た。


「旦那様。クロノス公爵家から、書簡が届いております」


 手紙を受け取ったセルジオスは差出人を見て、目を吊り上げる。

 横から覗き見ると、そこにはリフィアの名前が書かれていた。


「どうせ帰りたいという嘆願書だろう。今更出戻りなど、許すものか!」


 あろうことかセルジオスはその手紙を読みもせずに、火魔法で燃やしてしまった。


 パラパラと灰になって落ちた燃えかすを見て、ズキリと胸が痛む。


(お姉様を売ったお金で、買ったくせに……)


 セルジオスとセバスチャンがその場を離れた後、セピアは灰になった燃えかすを両手で掬って拾い上げた。


 いま身に付けている美しいドレスや装飾品だって、リフィアの支度金で買われたものだ。そんな自分には、父を咎める権利などない。


 それでもリフィアの手紙だったものが、そのまま掃かれて、ゴミのように捨てられてしまうのが、無性に悲しかった。


 両手で掬った灰を握りしめ、セピアはリフィアが長年住んでいた離れに足を運んだ。


 そしてリフィアが育てていた花壇に、セピアは灰をそっと撒いた。


 庭に咲く、名もない野生の草花をわざわざ花壇に植えなおして、リフィアがなぜそんなことをするのか、セピアには理解できなかった。


 けれどその草花が美しく咲くと、リフィアは喜んでいたし、枯れると悲しんでいた。


 代わり映えのしない日々の中で、リフィアにとってはきっと大切なものだったのだろう。


 だからせめて、この場所へ。灰が肥料となって、また草花が咲くかもしれない。


「ほんと、何をやってるのかしら……」


 真っ黒に汚れた自身の手を見て、自嘲めいた言葉が漏れる。

 もし草花が咲いたって、もうそれを見て喜ぶ姉はいないというのに。


 本邸で息が詰まった時、この離れは息抜きにちょうどよかった。でも今は、この場所に足を運ぶといたたまれない気持ちになる。


 リフィアがエヴァン伯爵家を旅立ったあの日、見送りにさえ行けなかったことを、セピアは後悔していた。


 呪われた仮面公爵に嫁がせるなんて、正気の沙汰じゃない。売られるように嫁いだ女性はみな失踪し、行方不明になっているという噂だ。


 もしかしたらこれが今生の別れになるかもしれないのに、まるで死地に出向くような姉に、かける言葉が見つからなかった。

 迷っているうちにリフィアを乗せた馬車は発車してしまい、それをただ窓から見ていることしかできなかった。


(まるで偽善者ね。今さら私がお姉様にしてあげられることなんて、何もないのに……)


 たとえこれが本当に助けを求める手紙だったとしても、自分の力ではどうすることもできない。

 離れに隔離された時だって、庇うことも見捨てることもできなかったくせに、時にはストレスの捌け口にだってした。

 それなのに、また中途半端にいい子ぶって。バカみたいだ。


 だから父と同じように、守護女神の魔法も使えないのだろう。


(こんな偽善者が、秩序を司る守護女神ヘスティア様の意志を読み解けるわけ、ないものね……)


最後までお読みくださり、ありがとうございました!


WEBと書籍で設定や内容が違ったりするので、SSの投稿をどうしようかすごく悩んだのですが、うさ沢先生の描くセピアが可愛くて、1話の最後に「お姉様……」って悲しそうに俯く演出が、本当に秀逸で! そこから想像膨らませて、その後を書いてみました。


ちなみにリフィアから届いた手紙の内容は、心配してくれていたセピアへ、楽しく過ごしているよという近況報告だったと思います。


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