表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/49

第4話 呪われた仮面公爵に嫁ぐ②

「これは……昔旦那様がお召しになっていたものと似ていますね」


 コートの背中部分のタグを見てミアは確信したようだ。


「やはりそうです! この記章はクロノス公爵家のものなんです」

「実は約二年前、とある舞踏会で薄着をしている私にかけてくださった方が居て、ずっとお礼がしたかったんです。あの方はやはり、クロノス公爵様だったのですね」

「旦那様が、そのようなことを!?」


 食い入るように前のめり気味に、ミアは尋ねた。その瞳は何故かキラキラと輝いているように見える。


「はい。名乗らずにすぐ立ち去ってしまわれたので、もう一度会えたらきちんとお礼がしたいと思っていて」

「旦那様の事はイレーネ様がご説明なさると思うので、一度ご案内してもよろしいでしょうか?」

「分かりました、お願いします」


 ミアに案内されて、再びイレーネの元へ向かった。


「リフィア様をお連れしました」

「よく似合っているわ。サイズも問題なさそうで良かった!」


 イレーネはリフィアを見て、嬉しそうに顔を綻ばせた。


「はい、ありがとうございます」

「さぁさぁ、座ってちょうだい。ミア、お茶を淹れてもらえるかしら? 美味しいスイーツも一緒にお願いね」

「かしこまりました」


 円卓のテーブルに、イレーネと向き合って座った。


 テーブルには豪華なケーキスタンドが置かれ、初めて見るスイーツが所狭しと並べられている。美味しい紅茶まで頂き、体がぽかぽかと温まった。


「リフィアさん。オルフェンの元に嫁いできてくれて、本当に感謝するわ。呪いのせいで息子には近付きたがらない人が多いから、貴方が来てくれて本当に嬉しいの」

「公爵様はどのような呪いにかかられているのでしょうか?」

「約十年前。息子が十五歳の時に王太子殿下を庇って、代わりに蛇の悪魔バジリスクの呪いを受けてしまったの。皮膚が少しずつ硬い鱗のようになって動かなくなり、それが全身に回っていずれ死に至る呪いなのよ」


 悲しそうに微笑むイレーネの姿を見て、リフィアは胸が痛んだ。


「イレーネ様、公爵様は今どちらに?」

「最近体調を崩す事が増えてしまって、昨日から自室で休んでいるわ。後で一緒にお見舞いに行ってくれるかしら?」

「勿論です! 私、公爵様にずっとお礼がしたいと思っていて」


 リフィアは、舞踏会でコートをお借りしたことをイレーネに話した。


「そんな事が……息子が外で女性に声をかけるなんて、初めてだわ!」

「イレーネ様、よかったら公爵様の元へ、今からでも連れていってもらえませんか? お辛い思いをされているのならせめて、傍で看病をさせて欲しいのです」

「まぁ! そんな事を言ってくれるのは、貴方が初めてよ。ありがとうリフィアさん」


 イレーネに案内されて、リフィアはオルフェンの元へ向かった。ノックをするも、返事がない。


 音を立てないよう部屋へ入ると、仮面を付けたまま眠るオルフェンの姿があった。


 顔の右半分まで皮膚の鱗化が進行しており、仮面では隠しきれていなかった。右手も硬い鱗でぎっしりと覆われている。


「硬鱗化がこんなに進行しているなんて……!」


 その様子を見て、イレーネは悲痛な声を上げる。ショックのあまり傾いた体を、咄嗟にリフィアが支えた。


「イレーネ様、後は私にお任せください」

「ありがとう、リフィアさん」


 ジョセフにイレーネを預け、代わりに運んでくれた看病セットを受け取り、ベッド脇のテーブルに置いた。


 オルフェンは荒い息を繰り返し、汗ばんだ黒い髪が皮膚に張り付いている。前髪をかき分けそっと鱗化した額に手を当てると、驚くほど熱かった。


(酷い熱だわ……)


 タオルを桶の水に浸し硬く絞って、顔や首元の汗を拭う。襟元まできっちり閉められたシャツのボタンを緩めて風通しをよくしてあげたら、オルフェンの荒い呼吸は少し落ち着いたように見える。


(仮面が邪魔ね。でも寝る時までお付けになっているという事は、人に見られたくないという事よね)


 許可なく触れるのは憚られ、なるべく仮面に被らないよう額に水に濡らしたタオルを乗せたら、オルフェンの閉じられていた瞳がパチッと開いた。


(綺麗な紫色の瞳……)


 仮面の奥で、オルフェンのアメジストを思わせる美しい瞳が動揺しているのが分かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『B's-LOG COMIC』より、コミックス1巻が7月1日(火)に発売します!
呪われた仮面公爵に嫁いだ薄幸令嬢の掴んだ幸せ
(クリックでAmazon商品ページへ)

コミカライズの試し読みは下記のリンクをご利用ください!(1話無料でお読みいただけます)
カドコミ


書籍1巻が『角川ビーンズ文庫』より発売中です!
呪われた仮面公爵に嫁いだ薄幸令嬢の掴んだ幸せ
(クリックでAmazon作品ページへ)
+ + +
「第11回ネット小説大賞」で小説賞受賞
書籍2巻、8月8日(金)に発売します!
訳あり令嬢は調香生活を満喫したい! ~妹に婚約者を譲ったら悪友王子に求婚されて、香り改革を始めることに!?~
(クリックでAmazon商品ページへ)

『コミックグロウル』で、コミカライズの連載始まりました!
訳あり令嬢は調香生活を満喫したい! ~妹に婚約者を譲ったら悪友王子に求婚されて、香り改革を始めることに!?~
コミカライズの試し読みは下記のリンクをご利用ください!(1話無料でお読みいただけます)
コミックグロウル

+ + +
「第1回BKコミックスf令嬢小説コンテスト」で佳作受賞
コミカライズ単行本1巻が、『BKコミックスf』より、発売中です!
汚名を着せられ婚約破棄された伯爵令嬢は、結婚に理想は抱かない
(クリックでAmazon作品ページへ)

コミカライズの試し読みは、下記の先行配信先をご利用ください!
ピッコマ作品ページ

+ + +
COMICスピア コミカライズ原作大賞で、
準大賞と特別賞を頂きました!
特装版1巻、独占先行配信スタート!(Renta限定おまけ漫画あり)
異世界転生して幻覚魔術師となった私のお仕事は、王子の不眠治療係です
(クリックでRenta!販売ページへ)

小説の電子書籍はコチラ↓ 異世界転生して幻覚魔術師となった私のお仕事は、王子の不眠治療係です
(クリックでRenta!販売ページへ)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ