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第3話 呪われた仮面公爵に嫁ぐ①

 約二週間かけて、王都の東側にあるクロノス領の立派なお屋敷に着いた。大きな黒鉄の門扉を抜けた先には、三階建ての美しい洋館が建っている。


 燕尾服を身に纏い、暗緑色の髪を後ろで一つに結んだ眼鏡の男性を筆頭に、使用人達が出迎えてくれた。


「ようこそお越しくださいました。クロノス公爵邸で執事長を任されておりますジョセフと申します」


 ジョセフは流れるような所作で胸に手を当て腰を曲げると、控えていた使用人達も挨拶をしてくれた。


「初めまして、リフィア・エヴァンと申します。今日からよろしくお願いいたします」

「リフィア様、長旅でお疲れでしょう。どうぞ中へご案内致します。お荷物は先にお部屋へお運びしますので、お任せください」

「はい、ありがとうございます」


 ジョセフが目配せすると、控えていた使用人達がてきぱきと馬車から荷物を運び始める。

 美しい薔薇が咲き誇る庭園を眺めながら、ジョセフに案内されて邸の中へ入る。豪華なエントランスを抜けて長い廊下を歩く。


(とても大きなお屋敷ね。エヴァン伯爵邸の二倍はありそうだわ)


 立派な扉の前で立ち止まったジョセフは、ノックをして中へ入る。


「イレーネ様、リフィア様をお連れしました」


 ジョセフに案内されて、応接間に入ると美しい金髪を結い上げた綺麗な女性が迎えてくれた。


「遠路はるばるよく来てくれたわ! 私はイレーネ・クロノス、貴方の夫となるオルフェンの母よ。これからよろしくお願いするわ」


(お義母様!? てっきり、公爵様のお姉様かと思ったわ……)


 昔習った淑女の礼を思い出しながら、さっとスカートの裾を両手で持って挨拶をする。


「初めまして、イレーネ様。リフィア・エヴァンと申します。こちらこそ、よろしくお願いします。あの申し訳ありません。このような格好で……」


 自分の持つ洋服の中でも比較的マシなものを選んで着てきたものの、破れたら何度も繕ったボロ着は貴族らしからぬ装いなのは変わらない。


「気にしなくていいのよ。ジョセフ、リフィアさんをお部屋へ案内してちょうだい。着替えはたくさん用意しているから、遠慮なく使ってね」


 イレーネはリフィアの緊張を解くかのように、優しく微笑んで言った。悪意や嫌悪のない柔らかな視線を向けられたのは、いつ以来だろう。


 その優しさが心に染みて、リフィアは不覚にも泣きそうになるのを何とか堪えてお礼を言った。


「お心遣い感謝致します」


 案内された部屋は、一人で使うにはあまりにも広くて驚くべき豪華さだった。


「リフィア様、こちらは専属侍女のミアです」

「初めまして、リフィア様。どうぞミアとお呼びください。これからよろしくお願いします!」


 エプロンドレスに身を包んだミアが、元気に挨拶をしてくれた。お辞儀をすると、ミアの肩の長さで切り揃えられたストレートの茶髪がさらさらとこぼれ落ちる。


「リフィア・エヴァンです。よろしくお願いします」

「さぁ、リフィア様! 湯浴みの準備も整っております。長旅でお疲れの体をほぐしましょう!」


 早速バスルームへと案内された。

 白いバスタブには、温かなお湯が張ってある。馬車の長旅で凝り固まった体の緊張をほぐすような優しい温度に、リフィアは思わずほうっと息をつく。


「お背中をお流ししますね!」


 まるで壊れ物を扱うかのように、声をかけながら優しく丁寧にミアが頭や体を洗ってくれた。

 別邸に隔離される前、義務的にガシガシと洗われていた湯浴みとは全然違う心地よさだった。


 乾燥しないようにと、湯上がりに念入りに髪や肌のケアをされて、用意されていた美しい上品なドレスに袖を通すよう促される。


「こんなに素敵なドレスを、私が着ても良いのですか?」

「勿論ですよ。リフィア様のために用意されたものですから!」


 白地に小花柄の刺繍が施されたシルクのドレスは肌触りが良く、とても着心地が良い。

 ベルスリーブからは三段のレースがのぞき、手を動かす度に優雅にひらひらと揺れる。ウエスト部分にある金縁で彩られた濃い青のリボンが全体の可愛らしい印象を引き締め、上品な印象を与えている。


「リフィア様、こちらへお願いします」


 今度は化粧台へ移動する。

 ミアはリフィアの髪を綺麗に梳かすと、慣れた手つきで綺麗なハーフアップに編み込んだ。仕上げに光沢のある青いリボンの髪飾りで結び、リフィアの顔に化粧を施す。


「とてもお綺麗です!」

「ありがとうございます、ミア」


 鏡の前に映る自分の姿を見て、リフィアは思わず目を見張る。


(これが本当に私……? すごい技術だわ……)


「リフィア様、ご持参になったお荷物の整理をしてもよろしいでしょうか?」


 衝撃を受けている間に、ミアはリフィアが持ってきた荷物の前へと移動していた。


「じ、自分でやるから大丈夫ですよ!」


 何でこんなぼろぎれを持ってきたのだろう? と不審に思われたくなかったリフィアは、ささっと荷解きを終わらせた。


 数日分の着替えをクローゼットの奥底に閉まった後、大事なコートを手にしてミアに尋ねた。


「ミア、このコートに見覚えはありませんか?」

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