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超二章 「豆崎羽乃と海部春賀」 その三

            4



 その日の夜、豆崎は一人、ベッドの中で考えていた。


 月明かりに照らされた部屋で、ふと時計を見てみると午前二時。ベッドについてから三時間が経つ。


 その間、彼女はずっと同じことを考えていた。


『あるか? お前しかできない、かけがえのない仕事』


 あの少年の言葉が、頭の中で何度もリフレインする。それほど、彼女にとっては衝撃的な言葉だった。


 豆崎は、一つ、悩んでいることがあった。




 本当は、将来、どうしたらいいのか分からないのだ。




 興味のあることなんて無数。だけど夢はない。一体何に、手をつけ、一生を捧げなければいけないのか、全く分からない。


 それで、なんでもできるようになろうと思った。勉強もして、スポーツもして、いろいろなことを経験しようと頑張った。将来、何になろうと思ってもそれが実現できるように。


 だから自信を持って言える。自分は将来有望な人間だ。企業、政治、芸能、どの分野にも望まれる、理想の人間だ。


 ただ、望まれるだけであって、彼女は何も望んでいない。自分には希望がない。それを誰かに知られたくはない。


 そして、それを覆い隠すために、無理矢理な希望を作った。


「社会の役に立てる職業に就きたい」


 詳しくは決めていない。曖昧な結論だ。だが、それを他人は褒めてくれた。偉い、しっかりしてる、将来有望だと。


 ならばこれでいいと決めて、今日まで生きてきたのだ。


 だが、そこで彼の言葉が、自分の一番大事で一番繊細な場所に突き刺さった。


「そんなの、ないよ……っ!」


 気づけば、涙が頬を伝っていた。それを拭うべきか否かも分からず、豆崎は嗚咽を漏らした。


「あたしは……、あたしは、あ……うっ」




 自分の存在が、一体何のためにあるか分からないのが、すごく怖かった。



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