第94話 名付け
スノーパンサーを狩ってから、そのスノーパンサーの子供を連れ、俺達はバレることなく宿屋の中へと隠し入れることができた。
「うわー。やっぱりめちゃくちゃ可愛いですね」
「な! 明るいところで見ると、更に可愛いわ!」
「……親を殺しておいて、子を愛でるってサイコパスだな」
「そんなこと言うなっての! この子の親は人を襲い始めちまったんだから、狩られるのは仕方ないだろ。クリスも認めたんだから、もうグチグチ言うな!」
「そうですよ! ほら、見てください。可愛いですよね?」
ヘスターがスノーパンサーを両手で抱え、俺に差し出すかのように見せてきた。
俺は拒絶しようと手を突きだしたのだが、スノーパンサーの子供は何故か突き出した俺の手をひたすらに舐めている。
「くすぐったいから手を舐めるな。……それで、宿屋はどうする? このままこの宿でスノーパンサーは飼えないぞ」
「ペット可の宿屋とかってないんですかね?」
「それか、もう家を借りちゃうか? 昨日のオークの群れの報酬もあるし、俺とヘスターで貯めてた金もいくらかある! ……まぁ、これはクリスに返そうと貯めてた金だけどな!」
こいつを室内で飼うのだとしたら、確かに一軒家を借りるのが手っ取り早いとは思う。
……この際だから、なんとか毒草を自家栽培できるぐらいの広い家を探してみるか?
「家を借りるのはありだな。本当はクランハウスを購入したかったが……まだまだ未来の話だしなぁ。こうなりゃ一軒家を借りるか」
「クリス、どうした? 急に乗り気だな!」
「俺はずっと自家栽培をやりたいと思ってたからな。この際だから広い家を借りて、俺の自家栽培スペースを作らせてもらう」
「いいんじゃないですか? わざわざ森に採取に行かなくても良くなるってことですもんね」
「いや、流石に採取は行くだろうが、その頻度を下げることができると思う。やりようによったら、効能をより強めることだってできるかもしれないからな」
「そうか! クリスの適性職業は【農民】だったな。ようやく能力を発揮できるって訳なのか?」
能力を発揮できるかは分からんが、適性職業が【農民】であることから、戦闘よりも農業に向いているはず。
毒草の栽培くらいならできるはずだし、この構想はずっと前から考えていたことだ。
「農業を実際にやったことはまだないから分からないが、俺はできると踏んでいる。知識ならレアルザッドにいたころから調べて、少しずつ付けていたしな」
「なら、いいじゃん! もう家を借りちゃおうぜ! 明日にでも借家を探しに行こう!」
「良い物件があったらだけどな。とりあえず今日は、このまま隠れてやり過ごすしかなさそうだな」
そんな俺達の心配なんて露知らず、小首を傾げながら手を舐めさせろと言っているかのように、空をペロペロさせながら小さく鳴いたスノーパンサー。
「……そういえば、スノーパンサーの赤ちゃんって何を食べるんですかね?」
「知らないな。犬や猫とかと同じでいいんじゃないか?」
「まだ歯が生えそろってないし、ミルクとかあげればいいのか?」
「それなら後でミルクを買ってきますね。――名前はどうしましょうか? ずっとスノーパンサーって呼ぶのもどうかと思いますし、名前をつけてあげませんか?」
「俺、考えてたのがある! ケルベロスってのはどうだ? 強い魔物の名前だし、呼びやすい!」
「なんで他の魔物の種族を名前につけるんだよ。センスがなさすぎるだろ」
「私はユキコとかが可愛くていいと思いますが……」
「こいつってメスなのか? 育ってみてオスだったとかなったら、名前がおかしくなるぞ」
「じゃあクリスは何がいいんだよ! 文句ばっか言わずに案を出せ」
名前なんて付けたら、嫌でも情が湧くからなぁ。
そもそも付けなくていいと思うが、宿屋に連れてきてしまった時点で、そんなことも言ってられないか。
「スノーでいいんじゃないか? 分かりやすいし、呼びやすいし、オスでもメスでも大丈夫だ」
「流石にシンプルすぎないか?」
「私は良いと思いました! スノー、これからよろしくね」
まだ名前という概念を理解できていなそうではあるが、ヘスターの言葉に答えるように小さく吠えた。
そんなスノーの様子を見て、ヘスターとラルフの目はうっとりとしている。
「まずはお風呂に入れてあげましょうか。かなり汚いので」
「じゃあ、俺が洗う! ヘスターはミルクを買ってきてくれ」
「分かった。それじゃラルフは洗ってあげてね」
ヘスターは買い出し、ラルフはスノーを連れてお風呂へと行ってしまった。
やることもなくなったし、俺はリザーフの実でも食べていようか。
そう決めて、一人リザーフの実の摂取へと移ったのだった。





