第67話 散策
俺のちょっとした嫌味に反応してきたラルフを無視し、商業通り以外も見ていくことにする。
目当ての店は大体見つかったが、肝心の冒険者ギルドと教会も見つかっていないしな。
まぁ最初から商業通りにあるとは思ってはいないため、気を取り直して街の奥側の散策に向かう。
街の奥はギルドの密集するギルド通りとなっていた。
そしてギルド通りの更に奥に、ひっそりと佇む教会の姿も発見することができた。
オックスターの街を簡単に説明すると、町を入って正面を進むと商業通り。
更に奥にギルド通りと教会が見える。
左右は居住区となっており、ちらほらと宿屋なんかは居住区に構えているところもあるが、まぁ基本的にはこんな感じの街となっている。
決して大きくはないが、生活に不自由なく暮らせて人もほどほどに多い。
ノーファスト目的の客人も多く、辿り着いてまだ間もないが良い街だということが分かった。
「一通り街を見て回ったか?」
「そうですね。私は改めて良い街だと思いましたよ。レアルザッドや王都のように負の部分がないのが特にいいです」
「そうかぁ? 裏通り的なとこがあれば、俺は逆に満点だったけどな!」
「その話は後にして、どこの宿屋にするかを決めよう。宿屋を決めたら、ラルフ待望の飯だ」
「うっしゃ! やっとかよ。本当にお腹が空いた」
「一応、見て回った宿屋は記憶してますがどうしますか?」
ここが一番の問題なんだよな。
値段はもちろんとして、どこにある宿屋を重視するか。
俺は教会もあることから、ギルド通りの近くにある宿屋がいいと思っている。
実際にギルド通りにあった、『シャングリラホテル』は便利だったからな。
「各場所の宿屋の最安値を教えてくれるか?」
「分かりました。大部屋の一泊辺りの値段を教えていきますね。商業通りは銀貨二枚。ギルド通りは銀貨一枚と銅貨五枚。居住区右は銀貨一枚。居住区左は銅貨八枚が最安値です」
「銅貨八枚! ここでいいんじゃねぇかな?」
「いや、場所が場所だからな。俺はギルド通りがいいと思ってるんだがどうだ?」
「確かに立地的にはギルド通りが楽ですもんね。……でも、半分の値段なのは大分大きいと私は思います」
そうなんだよな。
楽を取るか、値段を取るか。
レアルザッドで幾分か金を貯めてから出発したため、お金には余裕があるといえばある。
それに明日から冒険者業を無事に始めることができれば、銅貨七枚程度は楽に稼げるだろう。
でも、ラルフやヘスターの言い分も分かる。
一日に浮く分が銅貨七枚だとして、一ヶ月で金貨二枚と銀貨一枚。
一年と考えれば、金貨二十五枚と銀貨二枚も浮かせることができる。
「……悩みどころだけど、二人がシルバーに昇格するまでは居住区の方に住むか」
「ですね! それじゃ居住区左の宿屋に行ってみましょう」
「うーし! 宿取って、荷物置いたら飯だ!」
元気よく歩き出したラルフを先頭に、俺達は居住区左へと向かった。
「ここですね。『シャングリラホテル』よりも大分綺麗ですよ」
「『シャングリラホテル』どころか、『鳩屋』よりも綺麗じゃん! クリス、これは期待できるぞ」
「だな。入って交渉してこようか」
俺達は居住区に建てられている、大きな一軒家のような宿屋『木峯楼』の中へと入った。
受け付けの感じは、『シャングリラホテル』に酷似している。
誰もいないため、受付に備え付けられているベルを鳴らしてしばらく待つと、奥から一人の男性が出てきた。
「いらっしゃいませ。ご宿泊のお客様でしょうか?」
「ああ。長期間泊まりたいのだが、部屋って空いているか?」
「長期間のご宿泊ですか!? もちろん空いております。部屋は個別か大部屋どちらに致しますでしょうか?」
「大部屋でお願いしたい」
「かしこまりました。それでは二〇一号室のお部屋となります。ご案内いたしますね」
店主の男性は非常に嬉しそうに、俺達を部屋へと案内し始めてくれた、
ギルド通りの宿屋が高く、仕方なくこちらの宿を選んだが、接客の態度も良いし建物も綺麗。
多少不便かもしれないが、こっちの宿にして良かったかもしれない。
「こちらが二〇一号室のお部屋となります。素泊まりで銅貨は八枚ですが大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。とりあえず、十泊分の銀貨八枚を渡しておいても大丈夫か?」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます! ごゆっくりどうぞ」
頭をペコペコ下げてから、満面の笑みで受付へと戻っていった店主。
やはり立地が悪いのか、オックスター一の安宿でも客が入らないのかもしれない。
「良い部屋ですね。――おおっ! クリスさん、お風呂がついてます!」
「……風呂は嬉しいな。本当にうれしい」
「布団も四セットあるぞ! 荷物を置くスぺースも取れるくらい広いし、ここ優良宿屋かもしれない!」
「『シャングリラホテル』だと、二枚のカチカチの布団で三人で寝てたもんな。値段は銅貨五枚だったけど、風呂もついてなかったし」
「俺はヘスターの寝相の悪さに困らされることがないのが嬉しい!」
「私はそこまで寝相悪くないよ」
それぞれの思いの丈をぶつけながら、宿屋の感想を述べていく。
『ギラーヴァルホテル』と比べたら流石に劣るが、銅貨八枚と考えたら『ギラーヴァルホテル』よりも高コスパな気がする。
良い宿屋だけにもう風呂に入って布団で横になりたいところだが、飯を食うために商業通りに戻ろうか。
「荷物だけ置いて、飯を食いに行くか。ついでに明日の冒険者業の買い出しもしたいし」
「うへー。飯はいいけど、やっぱ明日から冒険者業を始めるのか」
「ハプニングのせいもあって、ここ一週間金を稼げてないからな。流石に明日は旅の疲れを取るのも兼ねて、オックスターの街を散策する日にしたいところでもあるが……明日から始めないと駄目だ」
「私は『七福屋』のおじいさんから譲り受けた、長杖の扱いに早く慣れたいですし、魔物を狩りたくてうずうずしてますよ」
「……まぁ俺も体が自由自在に動かせるから、依頼をこなすのも楽しいけどさ」
「とりあえず二人には、早くブロンズから脱却して貰いたい。そして、シルバーランクに上がるまでの間にヘスターは長杖の扱いを。ラルフは自由に動かせるようになった体の扱いを慣れさせてくれ」
「おう!」
「はい!」
二人の元気の良い返事を聞いたところで、俺達は商業通りへと飯を食べに行ったのだった。