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第53話 闇市場


 昼なのにどこか薄暗く感じ、一切の舗装もされていない道を進んで行くと、闇市場の全体が姿を現した。


 裏通りのようにテントではなく、シートを床に敷いただけの出店と呼べるのかも怪しい店が立ち並んでいる。

 一般的な物から完全にアウトな物まで、本当に多種多様なものを多種多様な人物が売っており、その中でも一際目が行くのが亜人の姿だ。


 デジールでもレアルザッドでも見たことのなかった亜人が、少人数ではあるが混じっている。

 見た目の特徴からすると、英雄伝に出てきたエルフやドワーフのノーマルに近い亜人ではなく、獣人種と呼ばれる動物とのハーフのような種族だと思う。


 噂によれば、獣人種に対する差別が横行しており、余程のことがなければ獣人種は同種族が統治する国からは出ないと聞いていたが……。

 ここにいる獣人種の人の体を見る限り、奴隷に近い形で連れてこられたのではと予想する。


 商売をできているということは、逃げることができた人達だろうが、今も尚、奴隷のように扱われている人がいるという考えに至りゾッとした。

 今はまだ無理だが、クラウスに復讐を果たし国賊扱いとなった時は、誰かのために戦うのもいいのかもしれない。

 そんな考えが、先ほどのラルフやヘスターの話も合わさり、ふと俺の頭を過った。


「……クリスさん。どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。先を急ごう」


 立ち止まった俺を心配した様子のヘスターに言葉をかけてから、俺は闇市場を歩きながらブラッドの元へと目指す。

 店が立ち並ぶ闇市場を進み、二人が立ち止まったのは一つの古い建物。


 ブラッドの居場所がシートを敷いただけの場所でないことに安堵しつつ、その建物の中に入って行く。

 一階は完全に使われていない物置のようになっており、足の置き場に困りながらも二階へと上がる。


 扉を開けると、そこにはたくさんの患者の姿が目に入ってきた。

 闇市場の住民なのか、どの人も身なりが整っていない。


 そんな人たちの治療を行っているのが、五十歳くらいの人相の悪いおじさん。

 あの医師がブラッドだろう。


「どうも。お久しぶりです」


 ヘスターがそう声をかけると、一瞬睨むようにこちらを見てきたのだが、声を掛けてきた相手がヘスターだと気づくとすぐに満面の笑みへと変え、患者を置いて手でごまをすりながら駆け寄ってきた。


「あー! 本当に来てくれたんですね! 手術の件、本当にやらせてくださるんですか?」

「はい。以前、交渉した通りです。お金の方もキッチリと準備してきました」

「ありがとうございます! 本当にありがとうございます! す、すぐに準備に取り掛からせて頂きます! ……おいっ、今日はもう閉業だ。帰りな」


 一切のプライドもないのか、ヘスターに媚を売るように諂ったあと、診ていた患者を雑に追い出した。

 ……話を聞く限り、とんでもない奴だということは分かっていたが、ここまで信用するに値しない人間は久々だな。


「それじゃ、こちらに来てください! 汚い場所ですいませんね」


 案内されるがまま進むと、部屋の奥には曲がりなりにも手術室のようなものがあった。

 ただ、頻繁に使われている部屋ではないようで、所々で埃が被っているのが目に付く。


「それでは……まずはお金の方から頂戴してもよろしいですかね?」


 表情は笑っているが、目の奥は一切笑っていないブラッド。

 ヘスターは素直にお金を渡そうとしているが……。

 ここにきて今更だが、ブラッドは信用することができないと俺の本能が叫んでいる。


「ヘスター、待て。金は今じゃない」

「……は? なんだそれ? ――約束と違うだろうが!」

「俺はお前の態度が気に食わない。金は成功報酬且つ後払い。それが呑めないのであれば、今回はなかったこととさせてもらう」

「おい。それはねぇだろ! こっちはもう色々と準備してんだよ!」

「金が欲しいなら成功させればいいだけだ。金を払わないって言ってる訳じゃない。なんでそんなキレてるんだ?」

「お前らが逃げる可能性があるからだ! 一方的な要求呑める訳ねぇだろ!」

「それなら交渉決裂だな。ラルフ、ヘスター。行くぞ」


 俺は踵を返し、古臭い建物を後にする。

 ラルフには申し訳ないが、もう少し待ってもらうしかなさそうだな。

 そんなことを考えながら、階段を下りきる手前で――後ろから大きな声での謝罪の言葉が飛んできた。


「ちょっと待ってください! やはりその条件で受けさせて頂けないでしょうか? どうかお願いいたします」


 上を見上げると、頭を擦りつけるように土下座をしているブラッドの姿が目に入った。

 さっきまでの高圧的な態度とは別人のように、媚び諂うその姿に辟易する。


 自分の要求を呑ませるために高圧的にいき、相手が折れないと見たらどんな手を使ってでも成立させる。

 0か100しかない人間の立ち回りって感じだ。


「ラルフはどうしたい? 手術を受けるのはお前だからな」

「俺は……受けるよ。確かに胡散臭い奴だけど、金のためならなんでもやる奴という信頼はある。後払いで成功報酬となれば、意地でも手術を成功させると思うから」

「分かった。やっぱり情報集めは後回しにして、手術には立ち会う。どんな手を使われるか分からないしな」

「クリス、ありがとう。それは本当に心強い」


 そんな会話をしてから俺達は再び二階へと上がり、ブラッドと交渉を進める。

 手術の日程は明日で、必要な物は全て取り揃えているため、金だけ持ってくればいいらしい。


 全て込み込みで白金貨五枚だったのは、こちらとしてはありがたい話。

 かなりの不安はあるものの、ここは引くことができない場面。

 ブラッドに明日また来ることを告げてから、俺達は闇市場を後にしたのだった。



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