後日譚 第97話
ブルースとの話を終え、ここからはアレクサンドラとギルモアを交えて話を行う。
動くことを決めたはいいものの、王国騎士団の後ろ盾は絶対に欲しいからな。
まぁ王国騎士団に協力できないと言われても、俺一人で動く。
そう決めているくらいには、俺の意思は既に固まっているが。
「特に何も考えず向かっていたが、今からでもアレクサンドラに会えるのか?」
「クリスがいれば大丈夫だ。隊長は絶対に時間を取ってくれるからな!」
「ならいいんだが、俺は居場所も分からないぞ」
「俺は分かっているから大丈夫!」
そう言うと、ブルースは移動速度を早めた。
俺はそんなブルースについていき、辿り着いたのは王国騎士団の詰所。
当たり前だが周囲にいるのは全員王国騎士。
俺は完全に浮いており、視線の集まり方が半端ではないが、ブルースは無視して進んでいるため、俺も無視して詰所の中を進んでいく。
「着いたぞ。ここが隊長の部屋だ! クリスは来るのは初めてか?」
「ああ、詰所に来たのも初めてだ。王城のアレクサンドラの部屋は何度か入ったことはあるけどな」
「王城の方って自室じゃねぇか! なんで詰所は初めてなんだよ!」
「なんでって言われても知らん」
何故か若干キレているブルースに適当な返事をしつつ、ノックをしてから隊長室に入った。
部屋の中にはアレクサンドラだけでなくギルモアもおり、二人で何かの作業を行っていた。
「ん? 誰かと思ったらブルースと……クリスさんじゃないですか。色々と調べると言っていましたが、何か手詰まりになったのですか?」
「いや、情報はもう集め終わった。黒の可能性が限りなく高いと分かったから、俺は本格的に闇市に関わっている貴族を潰しにかかる。その報告をしに来た」
「……なるほど。流石はクリスさんですね。仕事が本当に早い」
「話を聞いただけだが、俺もクリス――さんと一緒に動くつもりでいます! 隊長、許可してもらえますよね?」
俺の言葉に続き、ブルースがアレクサンドラにそう伝えた。
二つ返事で了承してもらえると思ったが、顎に手を当てて悩んでいる様子。
「クリスさんを止める権利は私にありませんし、本格的に動くのであれば協力を惜しみませんが……ブルースの参加は隊長として認められません」
「え? なんでですか? 色々と調べましたが、貴族連中は完全に黒! 国民を守る王国騎士団がここで動かなくて、どこで動くっていうんですか!?」
「まだ一般隊士のため知名度はありませんが、ブルースが王国騎士団に属している限り、ブルースの情報は筒抜け状態なのは分かりますね? 向こうは有力貴族である限り、王国騎士団の者が動くのは不利でしかないんです」
アレクサンドラのこの主張に関しては、前々から一貫している。
今回ブルースを貸してくれたのも、情報集めのためだけって感じだったからな。
「俺も王国騎士団やシャーロットに迷惑をかけるのは避けたい。情報集めだけで助かったし、ブルースの協力はここまでで大丈夫だ。ここからは俺一人で動く」
「なんか……逃げたみたいで嫌だ!」
「いや、逃げたことにはならないだろ。表立って動くのはどこにも属していない俺だけがいいのは明らかだし、裏では支えてもらうつもりだしな」
そもそも支えてもらえないと、裏の世界でのし上がるなんて芸当は不可能。
情報を流してもらうだけだったとしても、全面協力してもらうつもりでいる。
「クリスだけがいいとしても、俺は納得できない! 裏で支えるのは隊長やギルモアさんだけでいいしな!」
「ブルース、あまり我儘を言わないでください。あなたの存在が、逆にクリスさんの迷惑になるのは目に見えています」
「そうだ。もしブルースのせいで、アレクサンドラ含む三番隊がゾフィーの手によって処分されたら、それこそ手詰まりになってしまう」
俺とアレクサンドラで説得したのだが、ブルースの意思は変わっていない様子。
「…………分かった。俺が王国騎士団だから駄目ってことだよな?」
「ん? ブルース、何が言いたいんですか?」
「俺は今日をもって王国騎士団を辞める! そうすれば、全て解決するんだろ?」
「――はっはっは! ブルースは若いですね。でも、私はブルースのそんなところを気に入っています。辞める覚悟まであるのなら、私はですが諸手を挙げて応援しますよ」
俺とアレクサンドラが唖然としている中、ギルモアがそんなことを言い出した。
そんなギルモアの言葉を受け、ブルースもまんざらではない表情を浮かべている。
「ブルース、その言葉がどういう意味か分かっていますか? 退団したら、王国騎士団には戻ってこられませんよ? 厳しい入団試験を突破して、親御さんも喜んでくれていたと言っていましたよね?」
「全て覚悟の上です! ここで見ているだけの人生は嫌なんですよ!」
「給料もゼロ。肩書もなくなり、家族からの信頼も消える可能性があります。そして、クリスさんと一緒に裏でのし上がったとしても、潰すのが目的な訳ですから……何も残りません。それでもいいのですか?」
「――覚悟の上! あとで辞表を持ってきます!」
「……はぁー。本当は数日考えてほしいところですが、ブルースがそう決断したのであれば止めません。クリスさん、ブルースもお供させてよろしいですか?」
「俺は構わないが、本当にいいのか?」
「俺の意思はもう変わらない!」
何だか変なことになったが、一人で潜り込むのと知っている人間がいるのとでは大分違う。
俺としてはありがたいが、流石に覚悟が決まりすぎている気がする。
変な感情になりつつも、俺はあまり高くなかったブルースの評価を上げざるを得なかったのだった。
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