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後日譚 第95話


 もう一度、客として入ることも考えたが、客が少ないこともあって不自然に思われる可能性が高い。

 そう判断した俺は、中に入った者の会話を【聴覚強化】のスキルで盗み聞きすることにした。


 まぁ【聴覚強化】は思っているような便利なスキルではなく、単純に耳が良くなるだけで全ての音が聞こえてしまう。

 雑音もハッキリと聞こえてくるため、人混みではあまり重宝できないのだが……こればかりは仕方がない。


 待ち合わせしている風を装い、なるべく『イレブン商会』に近づいて話を聞くことにした。

 周囲がうるさすぎて聞き分け難いが、途切れ途切れではあるが店の中の会話も聞こえる。


「……い、……の報告を聞かせてくれたまえ。ブルターニュ様に…………だろう? しっかりと……だろうな?」

「はい! 報告が上がってきております! こちらが今回の売り上げ金と上納金でございます!」

「随分と……じゃないか。もっと…………しないといけないな」

「すみません! 働きかけるようにしっかりと言いつけておきます!」

「いつも口だけは………だな。もし次…………」


 そこまで聞こえたところで、会話は終了してしまった。

 オーナーの方は声が小さく、周りの音にかき消されてしまったが、部下の方の声はしっかりと聞こえた。


 ただ、金関係の話をしていたとはいえ、聞こえた部分だけでは重要な話をしている感じではなく、これだけでは確証を得られたとはとても言えない。

 周囲に人がいないタイミングで話を聞ければベストだったが、こればかりは仕方がないな。


 とりあえず、ここからは尾行を行う。

 今の話を考えたら、尾行をするのはオーナーではなく部下の方でいい気がしてきた。


 俺が今見つけたいのは、ブルターニュ家を含む貴族連中が黒という確たる証拠ではなく、貴族連中が黒である事実のみ。

 王族を巻き込んでいるのであれば、黒という証拠を掴んだところで握り潰されるのがオチ。


 今は俺が本格的に動くための理由探しのようなもの。

 『イレブン商会』が黒であり、その『イレブン商会』がブルターニュ家と繋がっていれば、十分に動くに値する情報といえる。

 ということで、俺は警戒や警備が厳重そうなオーナーではなく、先ほど指示を出された部下の尾行を行うことに決めた。

 


 先ほど指示を受けた部下が動き出したのは、店が閉店してからだった。

 オーナーは店に顔を出してすぐに帰ったのだが、部下は締め作業を行ってからの行動。


 その店長と思われる人物は、先ほど店を訪れた時には見なかった顔だ。

 年齢は四十過ぎ。いや、やつれているから老けて見えるだけで、もしかしたらもう少し若い可能性がある。


 とにかく年齢は結構いっているように見え、有名店の店長なだけあって見た目に清潔感はあるものの、幸の薄さが全面に出ている。

 オーナーはギンギラギンの高価そうなものを身に着けていただけに、そのギャップが凄まじい。


 時間も結構遅いし、このまま自宅に帰る可能性は十分にある。

 長い間待っていたのに、不発に終わりそうな予感がビンビンしているが、尾行というのはこういうもの。


 駄目だったら俺も宿に戻り、ラルフとへスターに報告してから、明日に備えて早めに寝よう。

 そんなことを考えつつ、疲れ切った様子の店長を尾行していたのだが、向かった場所はとある怪しげなバー。


 酒でも飲んで帰るのかもしれない。

 ここで尾行を止めてもよかったのだが、普通のバーではなく、会員制っぽい怪しげなバーだったことから、もう少し尾行を続けることにした。


 まずは馬鹿なフリをして、店の中に入ってみよう。

 そう思い、俺はバーの中に入ろうとしたのだが……店の中から誰か出てくるのがドアノブが回ったことで分かったため、入るのは止めて通り過ぎた。


 怪しまれないように背後を確認してみると、店から出てきたのはロングコートを着た黒いハットを被った男。

 一瞬、ただの客かとも思ったが、靴が先ほど店長が履いていたのと同じもの。


 ハットを被っているため顔が見えにくかったが、先ほどの店長で間違いない。

 このバーには変装するためだけに寄って、すぐに出てきたということ。


 もうこの時点で黒を確定させてもいいぐらいだが、とにかく店長がこのまま動くのは間違いないため、このまま尾行を続ける。

 この怪しげなバーも調べたいが、怪しすぎる店長を追うのが最優先のため、少し距離を空けて再び尾行を開始。


 ここまでもバレている様子は一切なかったが、ここからは更にバレないようにするため、【隠密】と【消音歩行】のスキルを発動。

 万全の状態で尾行を再開した。


 先ほどまでとは打って変わり、キョロキョロと周囲を窺いながら歩いている店長。

 スキルも発動させたこともあり、こちらに気づいている様子はないが見るからに警戒している。


 そんな店長が辿り着いた先は――闇市。

 夜の闇市という常人ならば絶対に入りたくない場所に、一人でやってきた。


 闇市の前にいる警備兵とも知り合いのようだし、これは黒と断定していい。

 証拠として突きつけるのであれば、このまま闇市の中まで追って、確証となるやり取りを聞くべきだが、その必要はないだろう。


 昼間にオーナーから金の話しをされ、働くように言いつけると言って、やってきたのは闇市。

 バーでわざわざ変装したこと、変装してからは周囲を警戒していたこと。


 人身売買に関与しているかどうかまでは不明だが、情報屋の言っていた通り『イレブン商会』は黒だ。

 後は『イレブン商会』とブルターニュ家の繋がりを見つけたら、俺は本格的に奴隷制度を潰すために動こう。


 表では真っ当な顔をしていながら、金のために裏で悪事に手を染める人間を眺めつつ、俺は少しドス黒い感情が沸くのを感じた。

 ただ、ここで店長を痛めつけたところで何の解決にもならない。


 叩くのであれば末端の人間ではなく、上に立っているクズを叩かなければ意味がない。

 俺はそう自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせ、尾行はここで止めて宿に戻ることにした。



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