後日譚 第89話
『ザマギニクス』や『アンダーアイ』のような大きな組織が動いているのではと、俺は闇市に来る前までは少し疑っていた。
もちろん動いていてほしくないという気持ちだったが、今では動いていてほしいという気持ちに変わっている。
心境の変わり具合には俺自身も驚くが、この惨状を見たら誰だってそう思うだろう。
「本当なら、虚偽通報であったことを喜ぶべきなんですけどね。通報の量が多すぎて、とても喜ぶ気になれません」
「それが普通の感情だろ。想像以上に荒っぷりで俺も本当に驚いた」
「クリスさんにはあまりお見せしたくなかったのですが……巻き込んだ形になってしまい申し訳ございません」
「謝罪なんかしなくていい。アレクサンドラは何一つとして悪くないからな。ちなみにだが、これからどうするかは考えてあるのか?」
「……………………」
割りと初歩的な質問だったつもりだったのだが、三人が三人とも渋い表情で固まってしまった。
この反応からも、本当に手詰まりでどうしようもないことが伝わってくる。
「どうするかすらもないのか。かなり追い詰められている状況だな」
「すみません。その場の対応をするのが精一杯で、そこから先の思考が回っていないんです」
「クリスは……クリスさんは何か思いついたのか? 俺達に打つ手がないのは分かってくれるだろ!」
「邪道ではあるけど、俺は一つ策を思いついているぞ」
「それは本当か!? 策があるなら教えてくれ!」
「チンピラをまとめる裏の組織を作ること。『ザマギニクス』や『アンダーアイ』に代わる組織だな」
真面目に答えたつもりだったのだが、ブルースはどうもピンときていない様子。
言うならば、クラウスがやろうとしていた手法を丸々パクってしまえば、チンピラを意のままに操ることができるということ。
「裏の組織を作るって何を言っているんだ? そもそも国を守る王国騎士団が、悪いことを行う組織を作れるはずがないだろ!」
「そこは許容するしかない。『ザマギニクス』や『アンダーアイ』がいた頃の方が平和だったんだったら、元の形に戻した方が統治しやすいのは明白だろ」
「今捕らえている組織の上の人間を解放すれば、もしかしたら裏の組織を作れるかもしれないですが……恩人であるクリスさんの意見でも流石に難しいですね」
「捕まえた悪い連中を解放!? そんなの隊長の言う通り、絶対に駄目だ! その解放した連中が作った組織のせいで、もっと良くない方向にいく可能性が高いしな!」
「そこはこっちのやりようだと思うけどな。手綱をしっかりと握ることができれば、今よりも治安を良くするだけでなく一掃することだって可能。何なら、王国騎士団の人間がその組織の頭になってしまえば、手綱を握る必要さえなく、意のままに悪い連中を動かすことができる」
反対していたアレクサンドラとブルースだったが、その言葉を聞いて考え込み始めた。
そんな中、一番最初に声を挙げたのは、ここまで言葉を発していなかったギルモアだった。
「隊長の意見とは反してしまいますが、俺は妙案だと思いました。それともう一つ考えついたのですが、その組織のトップをクリスさんがやってくれたら、全てが上手く回ると思うのですがどうでしょうか? 腕っぷしの強さはもちろん、頭も切れますし、若いというのも素晴らしいです」
とんでもないことを言い出したギルモアに、俺も開いた口が塞がらない。
提案をしたのはいいものの、仮とはいえ俺が裏の組織のトップなんて務まらないし、やりたくもない。
「俺には無理だぞ。他の手伝いはやるつもりだったが、そんな大役はできない」
「俺もクリス……さんが組織をまとめるって言うなら、かなりいいかもしれないと思っちまった! そもそも王国騎士団に所属している人間は顔が割れているからな! 務まるとしたら外の人間しかいないだろ」
「いや、顔が割れているのは俺も同じだろ。こうして一緒に行動しているし、『アンダーアイ』を潰したのは俺だぞ」
「二人とも勝手に話を進めてクリスさんを困らせるな。先程も言いましたが、裏の組織を作ること自体が無理なんだ」
「でも、隊長! クリスさんがまとめるってなったら、上手くいくとは思うだろ?」
「それはそうだが……クリスさんに重荷は背負わせられない」
「軽々と提案したことは謝るから、俺を立てようと動くのは止めてくれ」
アレクサンドラは止めてくれたものの、ギルモアとブルースの目は本気であり、このままだと許可しそうな雰囲気さえある。
俺が提案した案でもあり、クラウスという参考にできる人間もいるため、絶対にやれないということはないだろうが……魔王討伐を行いながら裏の組織を作り上げるなんていうのは到底無理だ。
「残念ですね。俺は本当にこの最悪の状況を全て打破できる最善の案だと思ったのですが」
「俺もだ! クリス……さんがトップに立つならって考えたら、上手く回る絵がビタってハマった! この案すら、普通の人は思いつかないからな!」
「俺にも責任の一端はあるし、助けてやりたいのは山々ではあるが……難しいな」
「俺は諦めない! ということで、建物の中に入ろう。ギルモアさんと合流してから、クリス……さんには中を案内する予定だったんだ」
「中を案内するのはもういいと思うのだけど……あの、クリスさんは中を見たいですか?」
「奴隷となっていた人達は建物の中にいるって話だったよな?」
「ああ! 建物の中で働かされている!」
「なら見に行きたい。一番気になっていたところだからな」
ブルースの前向きな姿勢は気になったものの、奴隷がどう扱われているのかは気になってしまう。
初めて闇市を訪れた時に、いつか救うと心に決めた人たち。
前よりも酷い状態になっていないことを祈りながら、アレクサンドラの案内で建物の中に入ることになった。
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