後日譚 第86話
グラハムと別れた後、俺はすぐにラルフとヘスターと合流。
夢幻水晶の情報を共有し、二人には夢幻水晶の情報を集めてもらうことにした。
まぁグラハムが情報収集してくれるとのことだし、ラルフとヘスターが情報を集める必要はないとは思うのだが、任せきりで何もしないというのは悪い。
もしグラハムが情報を得られなかった時のためにも、こちらで情報を集めておいた方がいいと考えた。
そして俺はというと、三番隊が何をしているのかをアレクサンドラに聞きに行くことにした。
グラハムによれば、三番隊が大変な状況になっているようだからな。
俺は闇市にいる奴隷を全て解放すると誓っているし、もし手伝えることがあれば積極的に手伝いたいと思っている。
『アンダーアイ』を壊滅させたことは何一つ後悔していないが、『アンダーアイ』が壊滅したことで荒れているなら、俺にも少なからず責任がある。
そんなことを考えながら王城へとやってきた俺は、兵士に話を通してアレクサンドラの下まで案内してもらった。
忙しいという情報から、王城にいない可能性も考えていたのだが……どうやらいるようで一安心。
「どうも。クリスさん! 戻ってきていたんですね。顔を見せにきてくれて嬉しいです。頂いたタリスマンは大事に使わせて頂いていますよ」
俺が部屋に入るなり、首にかかっているタリスマンを見せてくれた。
普段から身に着けてくれているようだし、プレゼントをして良かった。
「使ってくれているなら良かった」
「クリスさんから頂いたものですし、大事に使わせて頂きますよ。それより、今日は何の用事で訪ねてきたのですか? この間と同じく、シャーロット様への案内を頼みに来たのでしょうか?」
「いや、今日はアレクサンドランに用があって来た。闇市が荒れていて、三番隊が大変って情報を耳にしてな」
「……クリスさんの耳にも届いておりましたか。実は、闇市が過去一番といっていいほど荒れておりまして、収拾がつかない状態になっているんです」
やはりグラハムの話は本当だったのか。
悪の限りを尽くしていた組織が、治安維持に役立っていたとは皮肉すぎる。
「やはりそうだったのか。俺達が『アンダーアイ』を壊滅させたからか?」
「原因の一端だとは思いますが、『アンダーアイ』がなくなったからということが全てではありません。王都の裏の組織のトップだった『ザマギニクス』が『アンダーアイ』に敗れ、代わりにトップとなった『アンダーアイ』がすぐに壊滅したことでの大混乱って感じですので。そもそも『アンダーアイ』は実力だけのチンピラ集団って感じであり、まとめ上げる能力に関しては秀でていなかったんです。組織としても瓦解しかけていたそうですし、私達が壊滅させずとも内部分裂は起こっていたと思います」
『ザマギニクス』といえば、俺達がオックスターで倒したカルロが率いていた組織。
俺がカルロを殺したせいで、『ザマギニクス』が『アンダーアイ』に敗れたとしたら……やはりこの状況になったのは俺のせいだろう。
まぁ俺の命を狙ってきたカルロとミルウォークが悪いし、元を辿ればそんな指示を出したクラウスが悪い。
死んでなお、迷惑を掛け続けられている感じだが、俺とクラウスの兄弟喧嘩のせいでこうなっていると考えたら、知らん顔という選択は取れないな。
「色々なことが重なって、最悪の事態になっているってことか。全てを紐解いていったら、恐らく発端は俺のせいだし、何か手伝えることがあれば手伝うぞ」
「絶対にクリスさんのせいということはありません。『ザマギニクス』も『アンダーアイ』も悪いですし、今暴れている奴らが全て悪いので。もちろん手を貸して頂けたら百人力ですが、クリスさんのお手を煩わせるわけにはいきません」
そう言って、キッパリと断ってきたアレクサンドラ。
「……分かった。闇市の様子だけ見に行ってもいいか? 状況次第によっては、無理にでも協力させてもらう」
「クリスさんの想像よりも酷い有様だと思いますが、本当に見に行きますか?」
「ああ。見に行かせてくれ」
悪い連中同士でやり合っているのであれば、アレクサンドラの意思を尊重して、静観するつもりでいる。
ただ、罪のない人も巻き込まれているのであれば、静観することはできない。
とにかく実際の闇市を見て、判断を下そうとは思っている。
イバンのことを考えたら、もちろん魔王討伐も大事だが、優先順位としては今困っている人たちを助けることの方が大事。
ましてや、俺とクラウスの兄弟喧嘩のせいって考えたら、当事者として見過ごすことはできない。
「分かりました。それでは私が案内致します。準備を整えますので、部屋の外で少々お待ちください」
「ありがとう。よろしく頼む」
部屋の外に出て、アレクサンドラの準備が終わるまで待機する。
時間がかかると思っていたが、予想していたよりも早く準備を終えて出てきてくれた。
「それでは向かいましょうか。護衛として、ブルースとギルモアも連れて来ていいでしょうか?」
「もちろん、構わない。二人は元気なのか?」
「しょっちゅう怪我をしていますが、大怪我はありませんし元気ですよ」
特に思い入れもないが、ブルースは鬱陶しかった気がする。
そんなことを考えながら中庭の訓練場に向かうと、アレクサンドラと俺を目にしたブルースがいきなり絡んできた。
「あっ、隊長! ……と、クリス!」
「クリス“さん”です。ブルースは助けてもらったのだから、お礼も言いなさない」
いつも優しい口調のアレクサンドラだが、俺でも少し寒気のする冷たい言い方でブルースに注意した。
「あ、あの時は助けてくれてありがとう」
「ございます――は?」
「ありがとうございます!」
この様子を見る限り、かなり厳しく指導されているようだ。
俺としてはありがたい限りだが、アレクサンドラは怒らせないようにした方がいいと密かに誓った。
「それで、ブルース。ギルモアはどこにいますか?」
「今は闇市の見張りに行っています。隊長はどこに行くんですか?」
「今からクリスさんと一緒に闇市に行きます。あなたもついてきてください」
「分かりました! クリス……さん、よろしくお願い……します」
「無駄に絡んでこなければ、別にタメ口でいいぞ」
「駄目です」
会話が途切れるため許可したのだが、アレクサンドラに即座に却下された。
ブルースはシュンとしているが、俺が強く言うことではないため諦めてもらおう。
ということで、俺とアレクサンドラ、そしてブルースの三人で闇市へ向かうこととなった。
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