後日譚 第85話
運ばれてきた料理を食べながら、グラハムにお宝について尋ねてみることにした。
「ここからが本題なんだが、グラハムは教会のお宝のようなものを知っているか?」
「教会のお宝ですか? 神様とか信徒――とかのお話ではありませんよね?」
「ああ、違う。誰もが欲しがるような物としてのお宝だ」
「うーん……聞いたことがありま――。いえ、ちょっと待ってくださいね」
何か思い当たることがあったのか、料理をよそにグラハムは腕を組んで考え込んだ。
ただ、これだけ考え込んでいるということからも、公にしているものではないことが明らか。
「……噂話に過ぎないのですが、一つだけ思い当たるものがあります」
「噂話レベルでも構わない。是非教えてくれ」
「夢幻水晶という名前のアイテムです。神具として語り継がれているアイテムでして、伝承の一つのようなものですね」
「物語の中に出てくるアイテムみたいな感じか?」
「そうですね。初代勇者の装備品とかは現実味があるお話でしたが、こちらは完全に作り話のような感じです。なにせハチャメチャな神話の中に出てくるアイテムですので」
初代勇者の装備は現実味のある話どころか、俺が持っているヴァンデッタテインやラルフが持っているアイドスカルナは初代勇者の装備品であり、実際に手に入れることができている。
更に浮世離れした話と言っていたが、先ほどグラハムが口にしていた夢幻水晶なるアイテムも存在する可能性はある。
「へー、なるほど。神具はその夢幻水晶だけなのか?」
「いえ。神具は他にもいっぱい出てきますが、無限水晶だけはなんというか……後付けされた感じなんです」
「後付けというと、元々あった神話の中に無理やり登場させたって感じか?」
「ええ、そうです。それに、大分昔に偶然聞いたことなのですが……教皇と枢機卿の会話の中で、一度だけ夢幻水晶の名前が出たことがあったんです」
「……益々怪しいな。というか、グラハムもよく覚えていたな」
「神話は子供の頃から好きだったということもあり、神具の名前が頭の中に入っていましたので。その神具の名前が教会のトップの会話に出たこともあり、嫌でも記憶に残っていますね」
グラハムが嘘をつく理由はない上、この話を聞く限り勘違いでもなさそう。
魔王が求めているお宝というのは、夢幻水晶というアイテムで確定かもしれない。
「その話を聞く限り、間違いなさそうだな。ちなみに夢幻水晶というアイテムはどんな効果のアイテムなんだ?」
「神話の中の夢幻水晶の効果は二つとされています。一つは、水晶に触れた者の魔力を無限に回復できる。もう一つは、水晶に触れている者を夢幻の世界に堕とすことができるというものです」
「触れている間は魔力を回復できる――か。とんでもない効果だな。もう一つの方はいまいち分からないんだが、夢幻の世界って一体なんだ?」
「神話の内容なので私も詳しくは分からないのですが、不老不死の悪魔を夢幻の世界に堕とし、永久に悪夢を見させる――的な描写でした」
「夢と幻の世界だから、堕としてしまえば対象者に何でもできるということか」
曖昧な部分も多く、どう堕とすのかも分かりづらいが凶悪な能力といえる。
魔力を無限に回復できるのも、夢幻の世界に堕とすのも正に神話に出てきそうな効果だ。
「そういうことになります。ただ、どこまで本当の話かも分かりませんし、教皇と枢機卿の会話を聞いただけですが」
「いや、それだけでも情報としては本当に大きい。今回は色々と助かった」
「気にしなくていいですよ。それでですが、クリスさんは何で教会の宝なんてものを調べているんですか?」
「魔王を討伐するのに必要なんだ。それで、夢幻水晶を探していた」
「魔王討伐ですか……。ははは、クリスさんは毎度凄いことをしていますね。そういうことなら、私の方でも少し調べてみますよ。外部からよりも内部からの方が調べやすいと思いますからね」
面白い話でもないと思うのだが、グラハムは楽しそうに笑っている。
ただ、グラハムも協力してくれるというのは非常にありがたい。
「それは本当に助かる。ただ、危険の割りに見返りとかを用意できないが大丈夫か?」
「見返りなんかいりませんよ。私は魔王討伐の面白いお話が聞ければ満足ですので」
「分かった。とびきりの面白話を持ってくる」
そんな約束を交わしてから、俺達は残りの料理を堪能し『ルアン』を後にした。
とりあえず、夢幻水晶の情報をヘスターとラルフに共有しよう。
それからは夢幻水晶についての情報を集めつつ……三番隊についても少し調べたいところだな。
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