後日譚 第78話
怖い顔を更にしかめながら考え込んでいるギルド長。
そんなに考え込むことがあるのだろうか。
「…………あー、分からねぇ! ……から、多分駄目だな!」
「なんだその適当な返答は」
「俺では判断できねぇんだから仕方ねぇだろ! 俺じゃなく、王様から王女様に聞いてくれ」
「まぁそう言われるとは思っていた。やっぱりギルド長なのに権限がないんだな」
「けっ、冒険者ギルドのギルド長なんてそんな偉いもんじゃねぇからな」
分かってはいたが、返答までに時間がかかったのが若干イラッとする。
権限がないなら、無理と即答してほしかった。
「なら、シャーロットに直接聞く。邪魔して悪かった。それじゃあな」
もうギルド長に用はないため、俺達はすぐに引き返して部屋を後にしようとしたのだが……。
「ちょっと待て! 許可は出せないが、俺自身はアイスワイバーンに興味がある! 近くにいるなら是非見せてくれや」
「案内するのが面倒くさいから嫌なんだが……俺達に何かメリットはあるのか?」
「メリット? そうだな……」
ギルド長はそう言葉を漏らしながら、腕を組んで再び考え込み始めた。
この微妙な待ち時間が非常に嫌だ。
「――分かった。良い隠れ場所を教えてやる! 街へ入ることを拒否されたら、アイスワイバーンの居場所には困るだろ?」
「……それは確かに困るな。この付近に良い隠れ場所があるのか?」
「おう! なんてったって、俺は王都の冒険者ギルドのギルド長だからな。この付近のことには詳しい自負がある」
「そういうことならアイスワイバーンを紹介する。一時間後に街の入口でいいか?」
「うっし! ああ、大丈夫だ。んじゃ、一時間後に街の入口で集合な」
満面の笑みを見せたギルド長だが、元の顔が怖いせいで満面の笑みが一番怖い。
口調も雑だし、顔も悪党そのものといった感じだが、意外にも良い提案をしてもらえたし悪い人ではないだろう。
今度こそギルド長室を後にした俺達は、待ち合わせの時間まで準備を行うことにした。
まぁ準備といっても、イバンのご飯を購入するだけだけどな。
「……ギルド長さん、顔が怖い人でしたね」
「目つき悪い上に、顔が傷だらけだったもんな! 実は悪い組織のリーダーって言われても驚かない!」
「見た目だけでそんなこと言ったら可哀想だろ。良い提案してくれたし、悪い人では決してない……はず」
「クリスも自信ないんじゃん!」
そんな馬鹿話をしつつ、精肉店で大量の肉を購入。
それからスノーが肉を狙わないようにメロンも買いつつ、俺たちは約束していた門の前へと向かった。
どうやらギルド長は先に着いていたらしく、完全武装で門の前に仁王立ちをしており、人通りは多いのに綺麗に避けられていた。
顔の怖さもあいまって、どこからどう見てもギルド長には見えないし、周囲の人らが避けるのもよく分かる。
「待たせてしまったか?」
「いいや、今さっき着いたばかりだ。それじゃ案内してくれ!」
「分かった」
軽く会話を行ってから、俺たちはイバンを待たせている林へと向かうことにした。
ギルド長のせいでとにかく目立つため、早いところ街を出たい。
「一つ聞いていいか? なんであんな目立つところに立っていたんだ? 人が避けていることに気がついていない馬鹿って訳ではないんだろ?」
「もちろん気づいているわ! だが、別に他の人に迷惑をかけてやろうと思って立っていた訳ではねぇぞ。……端に立っていると、兵士に職務質問をされるんだ」
「いや、ギルド長だろ? もしかして……その顔のせいでか?」
「ああ、実際に何十回も連行されたことがある! だから、堂々とド真ん中で待たないといけないって訳だ!」
「思っていた以上に悲しい理由があったんだな」
ど真ん中で仁王立ちをしているのを見た時は、無意識におかしなことをしている変人なのかと思ったし、連れだと思われたくなくて声を掛けるのを躊躇ったのだが……。
俺が思っていた以上に悲しすぎる理由があったようだ。
ラルフとヘスターも完全に同情しており、慰めるようにギルド長の背中を叩いている。
「顔が怖いってことで俺も良い印象を持っていなかったけど、顔で判断しないって宣言させてもらう!」
「私もです。影で色々と言ってしまってすみません」
「おい、別に気にしていないんだから勝手に慰めるな! それと、影で色々と言ったって何を言ってたんだ!」
「まぁそこは気にしなくていいだろ。俺達は普通に接するからよろしくな」
「フランクに接されるのも、それはそれで嫌なんだが!」
何故か嫌がっているギルド長に全力で同情しつつ、俺達はイバンの下に着くまで必死に慰め続けた。
最初は全く良い感情がなかったが、なんだかギルド長とは仲良くやっていけそうな気がする。
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【勇者召喚】に巻き込まれた社畜のおっさんが、チートスキルを使って異世界の田舎でスローライフを送る物語となっています!
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