後日譚 第77話
風呂だけ入らせてもらった後、焚火を囲みながら購入した猪肉を食べた。
ラルフほどではないにしろ、野宿は俺も乗り気ではない方ではあったが、やはりこういった自然の中で仲間とご飯を食べるというのは良い。
地面がゴツゴツしていたため、寝る時はかなりしんどかったが……そこも含めて野宿だろう。
翌日は早朝に出発し、昨日同様に人気の少ない場所を選んで王都を目指して進んだ。
かなり遅いペースではあったが、慎重に進んでいたこともあり、イバンを巡ってトラブルになることはなく――三日目にして、無事に王都まで辿り着いた。
「やっと着いた! 野宿も意外に楽しかったけど、やっぱりふかふかのベッドで寝たい!」
「まだ油断は出来ないぞ。王都に入れない可能性だってあるからな」
「いやいや! シャーロットに頼み込めばなんとかなるだろ!」
「王女だからこそ、止めてくる可能性の方が高い。とにかくイバンには外で待っていてもらい、俺達が交渉に向かおう」
「王都で街に入ることができなかったら、イバンはどこの街も入れないかもしれませんね」
「それだけは避けたいんだけど、可能性としてはそっちの方が高そうなのが何とも言えない」
三人共に渋い表情になりつつ、状況が分かっていないイバンは呑気にあくびをしている。
とりあえずイバンには王都近くの森の中で待機してもらい、俺達だけで王都の中に入った。
意外にも久しぶりの王都だが、帰って来た感は一切ない。
人通りの多さに辟易としながら、一直線に王城を目指して歩みを進める。
シャーロットは王女ではあるが、色々と精力的に動くタイプのため、もしかしたら出払っている可能性があるのが厄介。
いなかったらギルド長に話をつけるしかない――そんなことを考えながら執事に話を窺うと、やはりと言うべきか、ミエルを連れて依頼に行っているらしい。
留守の可能性を考えてはいたが、本当に留守にしているとはな。
ただ、向かった先は割と近場のため、今日中には帰ってくるらしい。
先にギルド長と話をしつつ、シャーロットとミエルの帰りを待つって感じでいいだろう。
それにしても、ミエルは未だに上手いことシャーロットに使われているようだ。
ぶつぶつと文句を言っているミエルの姿が容易に想像できる。
「王女様なのに本当に活動的ですよね。クラウスの企みを阻止した手柄もあって、第三王女ながらも次の国王の最有力候補になっているって聞きますから」
「他の王女はもちろん、第一王子も差し置いて国王候補ってすげぇな! それでいて腕っぷしも強いんだから、王になれると思っていた王子はたまったもんじゃないんだろうな!」
「実際、それで結構揉めているって話を聞きますよ。暗殺も企てるんじゃないかってことにまでなっているとか」
「へー、そんなことになっていたのか。兄妹で殺し合うなんて本当にバカバカしいな」
「それ……冗談なのか分からねぇぞ?」
「もちろん冗談だ。ツッコミを入れてくれないと変な空気になるだろ」
「流石にツッコミは入れられません」
兄弟で散々殺し合った俺の渾身の冗談だったのだが、実際にクラウスが死んでいることもあって流石にブラックすぎたらしい。
ジョークが不発に終わったことはさておき、シャーロットもシャーロットで心配だな。
ミエルや王国騎士団とも良い関係を築けているようだし、さっきも話した通りシャーロット自身も腕が立つ。
余程の人間でないと暗殺なんてできる訳がないから、そう心配しなくてもよさそうだが……王子となれば、その余程の人間を手配することができる可能性がありそうでもあるんだよな。
「とりあえずシャーロットにイバンのことを伝える際に、そのことについても聞くとしようか。もし切羽詰まっているようであれば、助けられたし俺達も協力してあげるとしよう」
「だな! 知り合いが死ぬところなんて見たくないし!」
「賛成です。ということで、シャーロットさんに会う前に、ギルド長との話を終わらせてしまいましょうか」
詳しくは直接会って聞くとして、俺達は冒険者ギルドへと向かった。
王都にも結構長い期間滞在していたが、ギルド長と話すのは何だかんだこれが初めてかもしれない。
オックスターのギルド長とは交流があったものの、他の街のギルド長とは関わることすらないからな。
変な奴ではないことを祈りつつ、ギルド職員に話をし、ギルド長室まで案内してもらうこととなった。
「失礼致します。ギルド長に会いたいという方がおりまして、ご案内いたしました」
「俺に会いたい? ……知らねぇ顔だな」
高級そうな椅子に座っていたのは、如何にも腕を鳴らした元冒険者って感じの風体の五十歳くらいのおっさん。
未だに筋骨隆々であり、体の至るところに傷もついている。
似合っていない眼鏡を外してからゆっくりと立ち上がると、俺達の下までゆっくりと歩いてきた。
立ち上がって分かったが、ここのギルド長は身長も驚くくらいに高い。
「俺に用ってなんだ? 後ろにいる魔物についてか?」
「いや、後ろの魔物についてではない。……が、魔物に関することではある。アイスワイバーンは知っているか?」
「いや、知ら……あー。最近そんなような噂を聞いたな。アイスワイバーンを従魔にした冒険者がいるとか何とか」
「噂が届いているようで良かった。その冒険者が俺達なんだ。今日はアイスワイバーンを街の中に入れてもいいかの許可を取りに来た」
噂が届いてくれていたお陰で話が早く済んだ。
ギルド長は驚いた様子を見せていなかったが、腕を組むと俺達の前でしばらく考え込み始めたのだった。
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