後日譚 第73話
宿に着いたのは朝方になってしまい、そのまま昼まで泥のように眠った。
本当はもう少し眠りたかったところだが、バルバッド山にイバンを残していることを考えると、そう長居はできない。
俺はラルフとへスターを起こしてから、早速ではあるが出発の準備を整える。
こんな近々でエデストルを発つ予定ではなかったため、大慌てで準備を行わないといけない。
「ふぁーあ、眠い。……なんか急に忙しくなったな!」
「イバンが心配だしな。忙しいのは従魔のチョイスミスのせいだ」
「従魔にした後のことを、何で誰も思いつかなかったんですかね? 冷静になればすぐに分かることでしたのに」
「誰も冷静じゃなかったからだな! ゴミだっと思っていた指輪が凄いものと判明して、そこからは俺もクリスもへスターもみんな浮かれてた!」
「まぁ、あそこですぐにダンジョンに潜らず、時間を置くのが正しかったんだろうな。ただ、俺はイバンを従魔にしたことは後悔していないぞ。冷静じゃないときでしか、ドラゴン系の魔物なんか従魔にしないし、そもそもドラゴン系の魔物が従間っていうのはロマンがある」
その分のデメリットは大きいが、そのデメリットはまぁ目を瞑れる。
人生は一度きり。
どれだけ大変だろうが、面白い選択をした方がいい。
「確かにそうだな! こうしてお礼して回って分かったけど、大変な経験は話題にもなるしな! 俺達の思い出としても刻み込まれるし!」
「ですね。いつか私達がお爺ちゃん、お婆ちゃんになった時、きっと笑って話せる話題だと思います」
「……それまで生きているか分からないけどな」
「絶対に生きてる! 修羅場という修羅場を潜り抜けてきたし、例え魔王が相手だろうが俺達なら負けない! てか、俺達がしぶといのはクリスがよく分かってるだろ! なんてたって、クリスが一番しぶといんだから!」
「まぁな」
何度も死にかけたが、死なずに生き残ってきた。
俺も、ラルフも、へスターも、スノーも、殺しても死なない感じさえある。
「五十階層もなんてことなかったですもんね。イバンとの戦いが、私達が強くなったのだと一番感じたかもしれません」
「適性職業【農民】の家出貴族と家なし盗人が、ここまで這い上がって強くなったんだもんな! そりゃ簡単には死なないわ!」
「そう聞くと、爺さん婆さんになるまで絶対に生き残ってる気がしてきた」
「そうだろ?」
そんなくだらない話をしながら、三人で笑い合う。
なんてことない会話も本当に楽しい。
……が、完全に話が脱線したし、手も止まってしまっている。
「――と、こんな馬鹿みたいな話をしている場合じゃない。早く準備を終わらせて、ボルスさんのところに行かないといけないんだからな」
「今日の夜にはワイバーンステーキを奢って、明日の朝に発つって予定ですよね?」
「そう。せっかく俺達を追って、エデストルに来てくれた【翡翠の銃弾】には悪いが、早々に王都に帰りたいからな」
「エデストルを案内するって言ったのに、案内すらしてないな! まぁボルスさん達が良くしてくれてるから大丈夫でしょ!」
「ボルスさんには頭が上がらない」
「本当にそうですね。ボルスさんは心の底から良い人です」
へスターの言葉に対し、激しく首を縦に振って同意する俺とラルフ。
そして、そんな会話をしながら、爆速で荷物をまとめ終えた。
「よーし、荷物まとめ終えた! 旅しまくってるから、荷物まとめるのもめちゃくちゃ手慣れてる!」
「常に追われていましたし、今回みたいに早く荷物をまとめなくちゃいけない――って場面も多かったですもんね」
「追われている時しか使わない技術だと思っていたけど、いらない技術なんてないってよく分かるな」
とりあえずまだ気持ち良さそうに眠っているスノーは置いておいて、ボルスさんのところに向かうことにした。
ボルスさんには昨日も結局朝まで付き合わせる形になったし、まだ寝ていてもおかしくないと思ったのだが……心配に反してちゃんと起きていてくれた。
「今日の夜にワイバーンステーキを食べにいくのか! 仕方ないとはいえ、めちゃくちゃ急だな!」
「イバンを山に居させ続けるのは可哀想だから、明日の朝には出立したいんだ」
「まぁそりゃそうか! うし、店の予約は俺が取っておく! クリス達は【翡翠の銃弾】を誘ってきてくれ!」
「分かった。よろしく頼む」
「おうよ!」
店の予約はボルスさんに任せ、俺達はそのままの足で【翡翠の銃弾】の下に向かった。
達も宿に居てくれており、特に予定もないとのことで誘うことができた。
後はボルスさんが予約を取ってくれていることを願いつつ、夜に再集合するだけだな。
今日はなにも食べていないし、早くワイバーンステーキが食べたい。
なんだかんだ俺が一番楽しみにしつつ、スノーを呼びに行くために一度宿ヘと戻ることにしたのだった。
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